表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第1章 (借金が)10億の男
30/143

第30話 ズークの故郷

 ズークとリーシュは1週間程問題無く授業を続け……いやズークだけは年上の女性教師に声を掛けて回っていたが。

 当然ながらリーシュからの鉄拳制裁を受けて、強引に連行された。

 そんな1週間を送ったズークは、週末の連休を使って学園都市ライアーを出る。


 ここから更に馬車で半日の距離に、ズークにとって馴染み深い場所があった。

 ローン王国の西方には、農村地域が広がっている。アテム大森林の様な危険地帯が存在せず、平和な暮らしが出来る地域だ。

 隣国との国境はあるものの、西の隣国は友好国だ。急に攻めて来る事も無い。そんな長閑な田舎の一角に、とある廃村があった。


「相変わらずだな、ここは」


 まるで襲撃でもあったかの様に、ボロボロになった家屋が建ち並んでいた。

 ここは18年前に、危険なモンスターの襲撃を受けて村人が殺されてしまった土地だ。たった1人の生き残りを除いて。

 そんな悲惨な目に遭ってしまった、この村の名前はレグレット。かつて40名の農民が暮らす、どこにでもある小さな村だった。


 モンスターに教われて壊滅し、存続が不可能となって放置された。中途半端な位置にあり、必要性もそう高くなかったからだ。

 その事に関して、今のズークは何も思っていない。今更生き残りとして、村を元に戻す気も無い。

 彼にとってのレグレット村は、18年前に失われたからだ。


「オルグのじいさん、また来たぜ。ネリーの婆さん、俺はまだ生きているよ」


 ズークが昔作った村人達の墓に向かって、ズークは一言を告げていく。ただ大きめの石を並べて、人名を彫っただけの簡易的なもの。

 幼い頃のズークが原型を作り、改めて大人になってから作り直したお手製の墓。

 38名分の墓に挨拶をしつつ、摘んで来た花を添えていく。ここにズーク以外の者が墓参りに来る事はない。

 少なくともズークは知らない。誰かの親戚がどこかに居るのかどうか、ズークは良く覚えていないからだ。

 もしかしたら居るのかも知れないし、居ないかも知れない。でも探して周る気にはなれなかった。

 ただ死んだ、という話をわざわざ伝えに行く意味を見出せなかったからだ。


「さてと、行きますかね」


 レグレットの村には、小さな森がある。アテム大森林とは比べ物にならない、とても小さな森だ。

 居るとしても小動物や、精々弱い低級のモンスター程度。近くに小さな村しかないので、ゴブリンすらまともに住み着かない場所。

 精々野犬の群れが居るかどうか、その程度の規模しかない。小鳥やリスなどの小動物が、ズークの進入に気付いて離れていく。

 気にする事なく先へと進み、ズークは森を抜ける。その先には小さな崖があり、そこには特別綺麗で美しい墓石が置かれていた。

 そしてその墓石には、ミーシャという女性名が丁寧に刻まれていた。


「よっ! ()()()()()()()()。また来たぜ」


 そういうとズークは、かつてミーシャが好きだった果実酒を墓石にかける。

 大して高価でも無く、この辺りでは簡単に手に入る代物だ。道中で狩ったモンスターの肉を対価に、別の村で物々交換を行って手に入れた。

 このお酒だけは、ギャンブル等で手に入れる気にはなれない。それはズークにしては非常に珍しい心の動きだ。


 それだけミーシャという女性が、ズークにとって重要な人物だったという事だ。

 同じく自分用に持って来た果実酒を飲みながら、墓石の横に座って遠くを見つめるズーク。

 今までに見せなかった真面目な表情で、ズークは1人言葉を零す。


「もう俺の方が8歳も年上になっちまったよ。姉ちゃんとは結婚出来ないままでさ」


 ズークという男には、初恋の女性がいた。それがレグレット村で暮らしていた、このミーシャという女性であった。

 18年前に亡くなっており、当時16歳の村娘だった。生きていれば今は34歳で、今のズークにとって理想的な年齢の相手だった。

 相手にされたかは別の問題として、幼きズークが将来結婚すると約束した相手であった。どこにでもある様な、ありがちの少年時代。

 そんな微笑ましい過去の記憶は、悲劇と共にズークの脳裏に焼き付いている。怒りと悲しみと無念と、無力さと悔しさと憎しみと共に。


「踏ん切りを付けないとって、分かってはいるんだけどさ」


 この男にしては珍しく、異様なまでに真面目な空気を醸し出していた。

 アイツが言う様に生きてみたけど、やっぱり変わんねぇよと呟くズーク。

 この程度の安酒で酔うズークではないが、いつもと様子が違うのは間違いない。


 酔っているというよりは、これが本来のズークなのかも知れない。かつて憧れた初恋の女性が眠る墓の前で、貴女の事が忘れられないと漏らす。

 Sランク冒険者のズーク・オーウィングとしてではなく、ただのズークとして今はここに居る。

 復讐だけを目的に戦い続けた男の、大人になりきれていない部分。それが今ここでだけ、吐き出されていた。


「やっぱりさ、ミーシャ姉ちゃんが世界で一番美人だったよ」


 墓石にもたれ掛りながら、ズークは青空を見上げていた。この空がかつては毎日の日常であり、同時に悲しい記憶を思い出させる青い青い空だった。

 それからもズークは、何も言わないままこの場所で物思いに耽っていた。

レグレット村はベタにリグレット=後悔という意味です。

自分が弱っちいただのガキだったせいで、憧れのお姉さんを死なせてしまったというズークの後悔が詰まった村です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ