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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第3章 ユニコーン×バイコーン×借金男
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第143話 装備差という壁

 アザミナは大商会カッティーヴォの商会主、ヴィルターの奴隷である。

 彼女は本来、自分の意思を反映させられる自由はない。ヴィルターが指示していない行動は取れない。

 しかし出された指示の範囲内でなら、ある程度の自由を効かせられる。奴隷としての扱いとルールの中で、アザミナは穴を突く形で自らの欲を満たしに行く。

 そう例えば、自分好みの強者を相手に本気で戦うと言った欲求を。


「さあ見せて貰おう、ローン王国のSランクを!」


 アザミナは戦斧を振り回し、ズークへと猛攻を掛ける。権力闘争に負けただけで、戦士としてのアザミナは非常に優秀である。

 その実力はSランク冒険者に迫ると言われており、人間のAランクが相手ならば、複数人を同時に相手取れる。

 それだけの実力がある以上、対峙するズークも余力を残す余裕はない。


「くっ!? アンタ、その実力で何故奴隷になんて!?」


「頭を使うのはあまり得意ではない。陥れられた結果だ!」


 魔法剣で対応するズークだが、本来の装備を持たない為、アザミナ程の実力者が相手だとかなり厳しい。

 剣はリーシュからの借り物で、防具なんて無いに等しい。本能で生きるモンスターならまだ何とかなっても、高い知能を持つ相手だとそうは行かない。

 巧みなフェイントに、手足を使った打撃も織り交ぜるアザミナ。戦斧だけを気にしていては、手痛い一撃を貰い兼ねない。

 早くもレベルの高い激闘を始めた2人の下に、戦いの気配を察したリーシュが到着する。


「ちょっと!? ズーク!?」


「レーナが転移で攫われた! 各所にすぐ連絡してくれ!」


 仮面がなくなり、アザミナが魔族だと一目で分かる状態だ。何が起きたのか、リーシュはすぐに理解した。


「っ! すぐ戻るから!」


 リーシュは急いで連絡へ向かう。冒険者ギルドと、騎士団への報告だ。特に現在は騎士団が怪しいと思われる対象を監視している。

 現地の騎士団と連携を取れれば、早期の奪還が狙えるかも知れない。出来るだけ早く、情報を知らせる必要があった。


 そして同時に、ズークが十分な装備を持っていない事も把握している。

 装備が充実している魔族を相手に、ズークが単独で挑むのは厳しい戦いとなる。

 なるべく早く戻る為にも、全力でリーシュは駆けて行く。


「随分と貧相な装備だな? 私のような相手が来るとは、思わなかったのか?」


 アザミナはズークが、相手を侮ったのかと誤解している。大した相手など出て来ないだろうと。

 戦闘は準備の段階から、既に始まっていると彼女は考えるタイプだ。準備不足だからと情けを掛ける事は無い。


「それもそうだが、色々あってな!」


 ズークが良く好んで使うライトニングエッジは、刀身に雷を纏わせる魔法剣だ。

 人類同士の戦いだと、武器や防具を通じて、感電させるという補助効果を持つ。しかしアザミナクラスの大物だと、そう言った補助効果は通用し辛い。

 実際魔法に対する抵抗力でも持つ装備なのか、補助効果で感電している様子は一切ない。


「死合いは常に命懸け、加減はせんぞ!」


「本当にやり難い相手だなっ!」


 アザミナは魔族だが、美しい女性である事は変わらない。ズークから見ても、十分魅力的だった。

 それ故に下手に傷を付けたくはない。しかし戦士として生きる女性が、手加減をされる事を望まないのも把握している。

 戦士としての彼女を尊重するか、女性として扱うか。ズークにとっては悩ましい相手だった。


「その程度か! この国のSランク冒険者はっ!」


「ちぃっ!?」


 アザミナの猛攻は止まらない。嵐のような連撃を繰り返し、ズークを攻め立てている。

 もし彼女が逃げたければ、ズークから距離を取って転移してしまえば良い。だが彼女は、逃げる気が全くない。

 ただズークを倒して、勝者としてでなければ帰る気が無い。とても楽しそうに戦う彼女の姿こそ、本来のアザミナの顔である。

 唯一奴隷として許された、アザミナの自由な行動。逃げる為には戦うしか無かったと、こうして無理矢理に意思を押し通す。


「仕方ねぇな!」


 ズークは魔法剣だけが武器ではない。体術についても高い適正を持っていた。ズークの鋭い蹴りがアザミナの肩を捉えた。


「……ほう。装備さえ整っていれば、もう少し楽しめたのか?」


「まだ終わりじゃないぞ」


 装備さえしっかりしていれば、もっと激しい戦いになったのは間違いない。ただズークとてSランク冒険者だ、まだここで終わる程弱くはない。

 装備差というハンデがあっても、戦闘を続ける事は可能だ。騒ぎを聞きつけた他の冒険者達が集まって来るが、参戦出来るレベルの者は居ない。

 助太刀よりも、周囲への警戒を続けるようにズークは叫ぶ。彼らは慌てて他の牧場関係者の警護に戻る。まだ他の人々が安全だとは、決まっていないのだから。


「お優しい事だ。あのような雑魚共では、無駄に命を散らすだけ」


「優しさじゃないさ、邪魔をされたくないだけだ」


 激しい剣戟の音を響かせながら、ズークはアザミナとの戦闘を続けていく。まだまだ決着は、着きそうになかった。

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