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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第3章 ユニコーン×バイコーン×借金男
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第142話 ズークとアザミナ

 ズークはメンデルとの顔合わせと共に、仮面の戦士との接点を持とうとする。声を掛けてみるも、リアクションは薄かった。


「あの~お姉さん?」


「……」


 仮面の女性は反応を見せない。耳が聞こえていないのかと、ズークは一瞬考えるもそうでは無いらしい。メンデルへと何やら小声で話し掛けている。


「こらズーク、止めなさいよ。迷惑しているじゃない」


 いつも通り女性へと絡みに行くズークを、リーシュが止めに入る。冒険者同士だからと言って、気安く話し掛けて良いわけではない。

 孤高の戦士達も中にはおり、なれ合いを好まない場合もある。もちろんズークだってそれぐらい分かっているが、どうにも違和感が拭えない。

 冒険者同士という感覚が、微妙に感じられない。同じく戦士だという共感に似た感覚はあるのだが。


「あ、ああ……」


 芽生えた感覚が何なのか、ズークには分からない。ただどうにもモヤッとした何かが、心の中に残ってしまう。

 仮面の女性から、悪意は感じられない。ただ善意も感じられず、護衛をしている人間が纏う雰囲気からややズレている。

 もちろん冒険者が全員揃って善人とは限らない。チンピラと変わらない冒険者だって幾らでも居る。


 ただ仮面の女性は、そんな中途半端な気配ではない。明らかに強者と分かる佇まいだ。

 相手のスタンスというか、在り方が良く分からずズークは困惑する。ズークにとって大体の人間は、相対するだけである程度分かる。

 どういう人間なのかという点について。もちろん隠すのが上手い者だって中には居るし、対女性においてズークの直感は当てにならない。

 ただこれは戦う者としての話であり、どうしても気になってしまうズーク。


「どうしたのズーク?」


 いつもと違うズークのリアクションに、リーシュも違和感を覚えた。それらしい言い訳もせず、妙に静かに黙り込んでいるから。


「……いや、別に」


 少々違和感は残るものの、今すぐリーシュに伝える必要があるかと言われれば微妙だ。

 ズークは感じた事を伏せて、濁しておく。確かに仮面という怪しさはあるが、悪意は滲み出ていないから。

 そんなズークに対して、メンデルが話し掛ける。


「それにしても、Sランクで有名な貴方に会えるとは光栄ですよ」


「あ、ああ~その、俺ケイバ好きなんで」


 逆にメンデルからは、緊張に似た何かをズークは感じている。見た目の怪しさで負えば、仮面の女性の方が圧倒的だ。

 しかし言動から感じる奇妙さは、メンデルの方が強いのだ。ズークとしては、良く分からない2人に見えている。

 自分の牧場を心配しているからなのか、それ以外に何か理由があるのか。雑談を続けながら、ズークはメンデルの様子を窺う。

 話の途中で仮面の女性は、何かを任されているのか護衛を交代していく。高位冒険者の話を聞きたがるメンデルに、ズークは答えて行くが何かが引っ掛かる。


「悪いリーシュ、ちょっと任せて良いか」


「え、ええ良いけど」


 ズークは直感を信じて、仮面の女性を探す。何か理由があるわけじゃない。

 ただまるでメンデルが、自分をこの場に留めようとしているように感じた。なら直前に離れて行った仮面の女性が、何かあると言っているようなもの。

 悪意は感じていないが、違和感が拭えていない点がどうしても気になるズーク。

 ギャレットファームの中を走り回りながら、仮面の女性の姿を探す。そして遂に視界へ捉えた。


 彼女はレーナに、何か話し掛けている。特に疑う様子も見せずに、レーナは仮面の女性へ近付いて行く。

 何となく嫌な予感がしたズークは、急いで2人の所へ走り寄る。ズークの接近に気付いた女性は、慌ててレーナへと触れる。

 次の瞬間、レーナだけが消えてしまった。自分も転移出来なかった事で、一瞬動きが止まる女性。


「逃がすか!」


「チッ!」


 女性は気付いた、ズークが転移を阻害する魔道具を所持していると。効果範囲に女性が含まれていた為、ギリギリ範囲外だったレーナだけが転移したのだと。


「狙いはレーナだったとはな。色々やってくれたが、これが本命か!」


 ズークの魔法剣が振り抜かれ、女性の仮面が斬り裂かれる。アザミナの美しい顔が、ズークの前で晒された。

 凛々しい顔立ちの彼女を見て、ズークは悔しそうな表情を浮かべる。


「こんな美女が相手とは、ツイてないぜ」


 そんなズークの反応を見て、アザミナもまた嫌そうな表情を浮かべている。戦士としての意識が強い彼女は、戦場で女扱いをされるのを嫌う。


「女だからと、手加減するつもりか?」


 背負っていた戦斧でズークへと斬りかかるアザミナは、力に任せた連撃を繰り出す。その重みを感じたズークは、やはり只者ではないと理解する。


「戦士扱いして欲しいなら、何故こんな卑怯な真似をする!」


「腹立たしい事だが、私は奴隷でな。クズな飼い主の命令に従えん。体が勝手にいう事を聞いてしまう」


 事情を明かしながら戦うアザミナは、しかし同時にとても楽しそうに笑っている。待ち望んでいた強者との、戦いが始まったからだ。


「だがこれだけは感謝している。お陰でお前のような、強者と死合えるのだからな!」


 極力女性を傷付けたくないズークと、魔族の戦士アザミナの戦いが始まった。

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