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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第3章 ユニコーン×バイコーン×借金男
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第138話 魔族の戦士アザミナ

 プロスペリタ王国の大商会、カッティーヴォの商会主が所有する屋敷がある。

 その屋敷には地下室があり、そこには特に価値の高い商品が保管されている。本店でも扱わないような、特別な商品群だ。

 主に裕福な客や、貴族達としか取引しないモノばかり。屋敷の主ヴィルターが、特別に買い付けて来た自慢の品々である。

 その中には物ばかりではなく、生きているモノも含まれている。希少なモンスターや、特別な奴隷など。

 そんな地下室に向かって、夜の屋敷をヴィルターが歩いている。ランタンを手に、屈強なボディーガードを連れて階段を降りて行く。


 暫く地下を歩いていると、牢屋のような鋼鉄で出来た扉が並んでいる場所に出た。

 そこにはヴィルターが買い付けた、高級な奴隷達が囚われている。美しきエルフ族の女性、可愛らしい獣人族の少年、スタイルの良い人間族の少女。

 そして良く鍛え抜かれた肉体を持つ、かなり強力な魔族の女性も。ヴィルターがそんな牢屋の一室に入り、拘束されている1人の女性と向き合う。


「アザミナ、貴様に仕事をして貰おう」


 アザミナと呼ばれた魔族の女性。人間族とは違う薄いグレーの肌。頭部に生えた山羊のような角。

 そして紅く輝く瞳。ヴィルターやボディーガードの男とは、色々な部分が違っている。

 かつて大昔は、人族側と魔族側で大きな戦争をしていた。人種や文化の違いから、様々な諍いが起きていた。

 友好的な時代もあったのだが、方針の違いで揉める事が増えて行き、次第に険悪な関係になって行った。

 そのまま戦争という形に発展し、大きな戦いが始まってしまった。人族側が召喚する勇者、魔族側が呼び出す魔人。


 異世界から呼び寄せた者達も交えた、熾烈な戦いが繰り広げられた。しかしその争いも集結し、人族と魔族の関係も落ち着て行った。

 今では人族と魔族の間で、婚姻すら結ぶ者達があちこちに居る程だ。だからこそ、優れた容姿と豊満な肉体を持つアザミナは、奴隷として非常に価値が高い。

 純粋な戦力だけでも、Sランク冒険者に匹敵する能力を保有している。だが権力闘争の果てに、彼女は奴隷へと落とされてしまった。


「ふんっ、また下らない下衆な仕事だろう?」


 アザミナは紅い瞳でヴィルターを見返す。そこには嘲りの色が含まれている。彼女は奴隷の身になっても、誇りまでは売り渡していない。


「相変わらずだなアザミナ。だがその反抗的な目は、主人に向けて良いものではない」


 アザミナは特殊な奴隷であり、ヴィルターが持っているメダルがある限り、彼女は解放されない。

 彼女に刻まれた奴隷の刻印は、魂とリンクする特別製だ。メダルを破壊しない限り、この契約は解除される事は無い。

 そしてそれだけではなく、主人の意思で彼女を苦しめる事も可能である。


「グッ……」


「お前は奴隷なのだ、黙って従っていれば良い」


 アザミナは胸を抑えながら苦しんでいる。肉体への負荷ならアザミナは耐えられる。

 だがこれは魂へ直接ダメージを与えるもの。魂など鍛えようと思っても、鍛えられるものではない。

 猛烈な痛みに耐えながら、アザミナはヴィルターを睨みつけている。


「その強い意思だけは褒めてやるがな、お前は私に逆らえない。やろうと思えば、今ここで股を開かせる事だって出来るのだぞ?」


「やりたかったら……勝手にやればいい」


 気丈に振る舞う彼女だが、実際ヴィルターの命令には逆らえない。どう足掻いても、体が勝手に言われた通りに動いてしまう。

 そういう契約を結ばされた以上、彼女に自由などない。命令を拒否する権利は無いのだ。例えそれが、どれほど屈辱的な内容であろうとも。


「はぁ……お前のようなつまらない女など抱くわけなかろう。もう良い、仕事をこなして来い」


「……今度は何だ? 暗殺か? それとも襲撃か?」


 これまでアザミナがやらされて来た仕事は、どれも後ろ暗いものばかり。気に入らない相手の暗殺や、ライバルへの襲撃行為など。

 どれもこれも、アザミナが嫌う卑劣な内容ばかりだ。根っからの戦士であるアザミナにとって、その様な仕事をさせられるのは屈辱だった。


「この少女を連れ去って来い」


 ヴィルターは1枚の小さな紙を投げ渡す。それ1人の少女が撮影された写真だった。


「……こんな少女を攫えと?」


「そうだ。お前に拒否権はない」


 アザミナから見ればまだ幼い少女だ。幸せそうな笑顔を浮かべている。こんな少女を攫うなんて、アザミナからすれば有り得ない話だ。

 まだ屈強な戦士を倒して人質とするなら理解は出来る。だがどう見ても戦闘とは無縁の一般人にしか見えない。

 そんな相手を誘拐するなど、戦士の恥でしかない。だがアザミナには、拒否する権利を認められていない。

 どれだけ嫌だと言っても、体はヴィルターの命令を遂行してしまう。ならばせめて、無駄に怖がらせる事はないように。それだけをアザミナは考えている。


「……卑怯者め」


「何とでも言え。さあ、行って来い」


 ヴィルターを一睨みしてから、アザミナは牢を出ていく。ローン王国で暮らす、レーナを誘拐する為に。

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