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金使いと女癖が悪すぎて追放された男  作者: ナカジマ
第3章 ユニコーン×バイコーン×借金男
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第137話 忍び寄る魔の手

 どうにかしてレーナを手に入れたいカッティーヴォは、手段を変える道を選んだ。

 このまま資金力に任せた作戦では少々厳しいからだ。彼らは傭兵なども扱う商会だけに、戦術や戦略などにもそれなりの知識がある。

 途中まではそのお陰で上手く行っていたが、今のスタンスを続けていては成功しない。

 思わぬSランク冒険者の介入で計画が狂った彼らだったが、思い切った行動に出る事に決めた。

 その前段階として、ローン王国に派遣している従業員にとある役目を任せた。


 彼は30歳ぐらいに見える平凡な男性で、昔から商会主のヴィルターの下で働いて来た。

 それもあって、少々汚い商売にも手を染めて来た。今更後ろ暗い思いなど抱く筈も無い。

 ペンテという名の彼は、とある場所へと向かっている。今回の作戦で重要な役割を担っている、大切な取引相手の下へ。

 ペンテが訪れたのはカリオンファームというローン王国にある牧場。ギャレットファームと共に、襲撃の対象となった王都キャッシュの周辺にある牧場の1つだ。

 ペンテは事前に牧場主へアポを取っており、牧場に到着するなり応接室へ通された。


 それなりに儲けている牧場なので、応接室には豪華な造りとなっている。高級な革張りのソファに、有名画家の描いた絵が飾られている。

 テーブルは希少な木材で作られており、庶民ではとても買えないもの。しかし所々に、何かが飾られていた痕跡だけが残っている。

 棚の天板に残った日焼け跡は、恐らく花瓶が飾られていたと思われる。他にも壺が置かれていた痕跡等もあった。

 まるで資金に困って、高価な調度品を売り払った後であるかのよう。


「失礼、ペンテ殿。お待たせしてしまったかな?」


 ペンテと変わらないぐらいの年齢の、ほっそりとして男性が入室して来た。

 ローン王国では珍しくない茶髪で、身長は170cm程のやや整った顔立ちをしている。

 彼の名は、メンデルという。ここカリオンファームの現牧場主であり、先代の父親が病死して20代の内から引き継いだ男だ。


「いえいえ。お忙しい中で、本日は他国の人間である私のお話を聞いて頂けて光栄ですよ」


 ペンテは胡散臭い笑みを浮かべながら、メンデルと握手を交わす。

 何故カッティーヴォが彼に目を付けたか、それは今この牧場があまり上手く行っていないからだ。

 レーナが所属するギャレットファームに実績で抜かれ、カリオンファームは少しずつ衰退している。

 その状況を表すかのように、隠し切れない疲労感がメンデルからは感じられる。


「どうやらここ最近は、騒がしいようですね」


 自分達が行った様々な妨害行為と、狙いを偽装する為の活動が原因だが素知らぬ顔でペンテは宣う。


「いや本当に、何が何やら。良い迷惑ですよ」


 メンデルは目の前に居る男が、ローン王国内で暗躍しているカッティーヴォの実行役だと知らない。


「そんな今だからこそなのですが、メンデル殿に我が商会から1つご提案がありまして」


「と、言いますと?」


 どういう意味だとメンデルは聞き返す。ローン王国の牧場が狙われている現状を、どうにかする手でもあるのかと。

 騎士団と冒険者が総当たりで調査しても、犯人が捕まっていないのにどうするつもりだろうとメンデルは考える。


「いえね、メンデル殿があの少女のお陰で困っていると聞きまして」


 ニヤリと笑いながら、メンデルの痛い所を刺激する。生まれ持った才能の差が、どうしても埋められないレーナという少女の存在。


「そ、それが何だと……」


「我が商会も彼女に目をつけておりましてね。是非とも彼女をスカウトしたいと思いまして」


 そこでメンデルは、話の方向性をある程度把握する。レーナをギャレットファームから離す。

 そうなればメンデルとカリオンファームはまた立て直しが出来る可能性が高まる。調教師の差が、元通りに戻る。


「し、しかし……彼女はあそこを離れませんよ?」


 メンデルはレーナがギャレットファームを気に入っているのを知っている。スカウトなんかに応じる筈がないという事も。

 同じ事はメンデルだって考えたが、家族の絆はとても厚い。引き抜きなどあっさりと断られてしまった。

 今更ペンテ達が何かをした所で、どう変わると言うのかとメンデルは疑問に思う。


「ええ。ですから、今の状況を利用しようかと。私達は少々強引なスカウトを行うつもりです」


 意味有り気な表現で、ペンテが宣言する。つまりそれは誘拐すると言っているのだ。意味に気付いたメンデルは、反応に困っている。


「そ、そんな真似はっ!?」


「今なら一連の事件の関係だと思われますよ。例え私達が何をしようと」


 そもそも全ての主犯がペンテ達カッティーヴォなのだから、最初から最後まで同じ犯人だ。しかし敢えてそれを隠したまま、ペンテはメンデルに協力を要請する。


「今の警戒された状態では、他国の住人である私達はギャレットファーム入れない。しかし国内の同業者に同行する形ならどうでしょう?」


「なっ……」


 ペンテ達カッティーヴォがメンデルと接触した理由。それは警戒されない相手と手を組むという事。


「貴方は何も知らなかった。ただ荷物の中に、仕込まれていた仕掛けに気付かなかった。それだけで良いのです」


 ペンテがメンデルへ手を差し伸べる。それは悪魔の契約であり、許されない行為。

 だが経営に苦しんでいるメンデルは、気が付けばペンテの手を取っていた。代々続く牧場を守る為だと、自分に言い聞かせながら。

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