62.今日でお別れです
急な坂道を登り切り、細い道を通って、いつもの高台に出ました。
娘のために通ったこの高台も、今日でお別れです。そう思うと、今まで由さんと柚さんと賑やかに話しながら歩いてきたのに、急に気持ちが暗くなるような気がしました。
お別れするのは、高台ではないんです。
娘と由さんと柚さんです。
それに、ブルーシートゾーンのお仲間たち、とくに仲良くしてくれたTさんには何も言わずに出てきてしまいました。
ああ、日本人のみなさんに何も挨拶をしていません。なんて、出来るはずないのですが。
先ほどここにいたときは、星に帰ることばかりを考えていましたが、こうして由さんと柚さんに見送られると思うと、なぜだか急に名残惜しくなってしまいました。
でも、帰ります。
命令ですから。
宇宙船は・・・
私は真っ暗な高台に出て、見渡しました。
宇宙船、どこに置きましたっけ?いくら真っ暗でも、人が乗る宇宙船が見当たらないなんてことないはずですが。
「ねえ、どこ?」
はあ、柚さん、そんなに無邪気な声を出さないでください。
「えっとですね、どこでしたっけ?」
「そんなに小さいものなの?」
由さん探してくださるのですか?でも待ってください、ホント、どこに置きましたっけ?
「そうそう、旅立とうとしてあの辺に宇宙船を広げまして」
と、指さしたところには何もありませんでした。
「計器の確認をして、暗くなるのを待って、町を見ていたんです」
「うん?」
お二人に説明しているわけではないのですが、お二人とも相槌をうってくださいました。
「それで、あの辺りで事故があったんですよ」
「うん」
そうでした。それで私はそれを見に行ったんです。
「だから、ここに・・・残して見に行ったんです」
「残して見に行ったの?」
だけど、ありません。
「残ってない」
柚さんのツッコミやいまさらですが、宇宙船がないんです。
風で飛んだ?そんなわけありません。日本人から見ればただの段ボールかもしれませんが、あー見えて、ちゃんと宇宙を渡れるものですから。重さだってありますし、風が吹いたくらいじゃ飛びません。
では、誰かここにきた日本人が、段ボールだと思って持っていったのでしょうか。いやいや、一応宇宙船ですから、中に色々計器がありますからね、いくらなんでも、誰かのものだと分かってくれるはずです。日本人ならば、勝手に持っていったりなんてしないと思います。
でも、実際ここにはありません。風で飛ぶわけでもなく、誰かが持っていったのでもないはずですが・・・
ではいったい、宇宙船はどこへ行ってしまったのでしょう。




