49.宇宙人の子なんだから
一度彼らの家に自転車を置いて、それから徒歩であの坂道を登って行きました。図書館からですと、それなりに距離がありましたので、私たちは色んな話をしました。
彼らが聞きたがったのは、娘をどのようにして置いて行くのか、また育てるのか、ということでした。
「日本人と同じくらいかそれ以上は生きられると思うんです。ですから、日本に娘を残すのは問題ないと思います」
「でもさ、戸籍とかないじゃない。どうやって、誰が育てるんですか?」
戸籍っていうのは、登録のことですね?由さん、難しい言葉知ってますね~。
「それは、我々の星の技術で、なんとでもなります。もう、目星は付いているんです。あるご夫婦に受け入れてもらうつもりです」
「それって、もう言ってあるの?」
「言ってあるとは?」
「だから、その夫婦に、娘をお願いしますとか、赤ん坊いりますか、とか聞いてあるの?その場合は、養子ってことになるの?それとも実子扱いになるの?だけど、そもそも宇宙人の子なんだから、そういう法的手続きとかってできないじゃない。そういうのがどうするのかってことよ」
柚さんはやたら早口でまくしたてました。そんなに言われましても・・・
「その辺は、星の方でちょちょいとやってくれます。記憶や記録の操作は大して手間にもなりませんし、難しくないですから」
「記憶の操作」
ものすごい低い声のハモりを聞かせていただきました。すみませんね、宇宙人の常識なので、その辺は慣れてください。
高台に出ると、今日は人が随分たくさんいました。
「日曜日だし、天気が良いから人が多いね」
と、由さんが言っていました。
それでも、私たちが一番奥まで歩いて行くと、その木のそばにはあまり人がいなくて、こちらを気にする人もいませんでした。風がよく吹いて気持ちの良い木の下なのに、いつでも特等席なんですよ。
私は木に取り付けたスイッチを押し、それから3人で木の裏側に回りました。
木の枝をかき分けて、娘の姿を見ると、娘はこちらを向いてニッコリと笑っていました。なんて可愛らしいのでしょう。
「ではやりましょうか」
私は鞄から、娘のために用意したタオルや産着を取り出しました。それから試験管の下にあるダイヤルを回しました。
「それ、なんですか?」
由さんが珍しそうに覗き込んでいました。
「出産装置です。これを回すと、試験管が出産準備に入ります」
「出産準備?」
「そうです。それで、このメモリが一番上に戻ってくると、娘が誕生するという仕組みになっています」
「ホントに今、出産できるの?出産予定日とかってあるんじゃないの?」
柚さんが素っ頓狂な声を出しました。
さっきから、今日出産って言ってるじゃないですか。
「試験官に入っている限り大丈夫です。都合のいい時に出産できるのですよ」
「そういうもん?」
「そういうものなんじゃないですか?」
「うーん・・・」
お二人は同じように首をかしげて、同じように視線を斜め上に向けました。このシンクロぶり、結構クセになりますね。
「ね、これダイヤルって動いてるの?全然動いてるように見えないけど、出産ってどのくらいかかるの?」
柚さんがダイヤルを睨んでいます。確かに、動いているように見えないですね。
「うーん、私も出産を見るのは初めてですから分からないですけど」
「ああ、でもほら、一応動いてるみたいだよ」
と、由さんはダイヤルを指さしながら言っていました。
さて、どのくらい時間がかかるのか、とにかく私たちはそこでひたすらに待つことになりました。




