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「じっとして」

あの後私は騎士団に保護された。

簡単な調書を取られ、今は青い服を着た女性が治癒魔法で傷を癒してくれている。


狗に倒された時にできた右足の傷だった。

足は、ほんのり光り痛みが消える。

「痛みは無くなるが傷口が治るわけじゃないから」

と丁寧に包帯を巻きながら言う。

同様に両頬も撫でられた。


私は終始無言のままガタガタと震えていた。

倒れていた女性は魔力と生気を抜かれ虫の息だが、かろうじて生きていたそうだ。

私も銀髪の人に助けられなければ、どうなっていたかわからない。

そう考えると怖くてたまらなかった。


「送ろう」

目の前の女性はそう言い私の前を歩く。




寮にたどり着き、ありがとうございましたと礼をして部屋に入ろうとする。

すると失礼と声をかけられ女性が部屋を覗き込んできた。


部屋をぐるりと見回し言う。

「この部屋は本当にあなたの部屋なのか?」

「一応そうです」

部屋は備え付けの家具以外何もなくてガランとしている。


「夕飯は、何か食べる物はあるのか?」

唐突な質問に冷蔵庫の中を思い出そうとする。

「えっと、後で買いに出ます」

女性からため息がもれる。

「買いに行ってくるから鍵をかけて待ってなさい。すぐ戻る!」

そう言い残し早足で階段を降りて行く。


本当にすぐ戻ってきた彼女は、流れるような手つきで料理をし、テーブルには所狭しとお皿が並んだ。

料理の名前がわからないが、どれも美味しそうな匂いがした。

この世界にきてこんな豪華な料理は初めてで思わず涙が滲む。


「そういえば、お名前を聞いていませんでした。」

「私は第三騎士団の団長秘書をしている、アリアだ」

よろしくと手を握られた。

アリアの顔を正面からきちんと見てドキリとした。

ショートヘアに端正な顔立ち。眼力が強く、それでいて品がある。

ぼぉっと見惚れていると早く食べなさいと促された。





どうしてこんなことになったのだろう。

気付けば朝だった。テーブルには皿と口の空いたビンが散乱している。


痛む頭で思い出したところ、確か料理をたらふく食べて満足した所にアリアが購入していたお酒が登場した。

一本で酔っ払った私は散々アリアにからみ、もっと飲みたいと二人で買いに出掛け。アリアは終始淡々としていたが、ある時ゴトッとテーブルに突っ伏しそのまま眠ってしまった。


「アリアさん、アリアさん。起きて下さい、朝です」

肩を揺らすと、アリアはさっと起き上がる。

そのまま、あっという間に身支度を整え終えた。


「昨夜は失礼した。私は行くが、また困ったことがあったらいつでも声をかけてくれ」

と言いドアノブに手をかける。

「えっと、よくしていただいてありがとうございました。料理本当に美味しかったです」


「いいんだ。私も昔、貧乏だった時期があって苦労したからわかるんだ」

そして、じゃあと颯爽と去って行った。



仕事場に行った私は当初、怪我のせいで心配された。そのうち二日酔いが辛いとバレると主にテイラーから軽蔑の眼差しを受けた。


「うぅ、頭痛い。調子に乗りすぎた」

午前最後の配達をなんとか終え、地下に向かって階段を進む。

「あれ?行き止まり?」

気まぐれな建築物に頭を抱えそうになる。


「ルリコ」

名を呼ばれ振り返ると、そこにはルーベンスがいた。

「ルーベンス!!」

嬉しさのあまり近づくが、じわりと後退される。

「ずっと、会いたかった」

ルーベンスの青い綺麗な瞳を覗き込もうするが、さっと顔をそらされた。


「私何か、ルーベンスの嫌がるようなことした?」

シュンとして俯くとルーベンスは慌てて話始めた。

「違うんです。ルリコに会うのが久しぶりなので緊張してしまって・・・」

「緊張?どうして?」

「どうしてもです」

そして、また目を逸らされる。


「私、アルマさんから教えてもらった。この世界で生きていられるのはルーベンスのおかげだって。何も出来ないかもしれないけど、ルーベンスに感謝の気持ちを返していきたい」


ルーベンスは顔を上げ大きな瞳に私を映す。

「貴方にはかないませんね」

「私は貴方を最初は幼い少女だと思い保護しようとしていた。しかし貴方は大人の女性でこの世界で物怖じすることなく、立派に生きている」


真っ直ぐに見つめられ心臓がドキドキした。

身体中の体温が上がっていくのがわかる。

ルーベンス、どうしちゃったんだろう。



気まずさから会話を変えてみる。

「昨日、迷子になって襲われそうなった時助けてくれた人がいて、でも名前も聞けずに・・・銀髪で肌は褐色で、体も大きくて。でもローブがうちの研究所のものだった。誰か心当たりない?」

ルーベンスの顔を見ると目が左右にウロウロしていた。

「どうしたの、ルーベンス?」

「どうもしません」

「なんか変だよ?」


するとルーベンスは右手の肉球を突き出しこう言った。

「今から3分間触り放題です」

「5分!」

「いいでしょう」

その後たっぷり肉球を触り倒し、質問の答えを聞きそびれたことは言うまでもない。









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