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「コンコン、コンコン」

窓を叩く音で目が覚める。

疲労で軋む体を無理やり起こす。

外にはグレゴリがいた。今日は鳥の姿だ。

「おはよう、どうしたの?」

窓を開けて言うとグレゴリは部屋の中に入り込んでくる。



「ルリ、おはよう。今日は頼み事があってさ」

「頼みごと?なに?」

「来週、天恵祭があるんだ・・・」

天恵祭は文字通り天の恵みに感謝するという国を上げたお祭だと聞いたことがあった。

「それで・・・」


いつもの鳥と比べるとなんだか歯切れが悪い。

「・・・お前に一緒に来て欲しいんだ!」

「べつに構わないけど」

そんな力を入れる話には思えなかったが了承する。


「おまえ、意味をわかっているのか?・・・俺は今、嫁探しをしている。・・・つまり、そういうことだ!」

と言うと慌てるようにして飛び立って行った。

お祭で鳥同士の集団見合いがあるのかしら?想像しただけで少し愉快な気分になった。



「テイラー、天恵祭ってお見合いできたりするの?」

昼の休憩時間の時にテイラーに尋ねると、くだらん質問をするなと睨まれる。

「元々はそうではなかったが・・・、未婚の男女の為にそうゆう意味合いがあるのは事実だ」

「へぇー」


「・・・きみも誰かと行くのか・・・?」

テイラーが突然じっと見つめてくる。

「?私は、鳥と行くけど・・・」

「鳥!??」

「そう、友達なの」

「・・・・・」


固まるテイラーを見てグリフが耐えられないというように吹き出す。

そして、どんまいとテイラーの肩を叩いた。



午後の配達が終わり地下倉庫を後にする。

今日は城下町へ行ってルーベンスに贈り物を探すつもりだ。

お給料もほんの少し出たし日用品も見たい。



トリエント王国の王城を中心として南に城下町があり、東に騎士団の本拠地。北にルーベンスが住んでいる森。そして西に国立魔術研究所などの工房が立ち並んでいる。


城下町は天恵祭を前にして飾りが施され賑わっていた。

誘われるままに店を物色し、雑貨屋でルーベンスにピッタリの物を見つけた。

包装してくださいとお願いする。

店のお姉さんに大きい犬をお飼いなんですねと言われ、猫ですと言うとクスクスと笑われた。



気付けば怪しい店が立ち並ぶところにいた。

完全に迷子になったらしい。

「お嬢ちゃん一緒にどうだい?」

いかにもゴロツキと思われる男達に話かけられ身がすくむ。

そして、からかいの笑いに押されるように走り出した。

訳も解らずぐちゃぐちゃに進んで行き止まりにたどり着いた。


廃材が転がり、排水が溢れすえた臭いがした。

もぞもぞと暗闇に黒い何かが蠢き、するりと私に向かって来た。

ピカリと首飾りが光り私を包み込む。


月が雲から出て黒いものを照らし出す。

青白い男が佇んでいた。

足元には血の気の失せた女性が倒れている。

声にならない悲鳴が漏れた。


男はゆっくり目を動かし私を捉える。

獲物だと口が動いたと同時に男の背後から真っ黒い狗が現れ、飛びかかってきた。

弾かれたように逃げ出すが、足を取られ転倒する。



見上げた先に光を映し出さない男の目があった。

「首からさげているものを寄越せ」

馬乗りになられ手を伸ばしてくる。

「いやっ!!」

抵抗して身をよじると、左右の頬を殴られた。

圧倒的な暴力を前にして恐怖で全身が震えた。



「ルーベンス、助けて!!」

思わず声をあげる。

突然、強い衝撃がして男と狗が吹き飛ぶ。

そのまま何度か光線が走る。

目の端で男がうずくまるのがみえた。

なにが起こったわからず顔を上げる。


そこにはローブを着た銀髪の男性が居た。

銀色の髪は月に照らされ輝き、赤褐色の肌は鍛えぬかれていた。眉間に皺が刻まれ、目は獰猛な獣のようだ。

この人の、恐い顔をしているのにちっともこわくない。

むしろ初めて会ったのに懐かしい気さえする。


「ありがとうございます」

出した声が酷く掠れていた。

銀髪の人は私の身体に目を滑らし顔をしかめた。

そして、ゆっくりと近づいてくる。


遠くで騎士団が駆け付ける声がした。

銀髪の人の目は迷うように揺れ、そして煙のように消えてしまった。









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