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目を開けると見慣れた天井があった。
私は自宅のベットに寝転がっていた。
今までのことは夢だったのかしら?
とってもリアルだった。
頭がぼーとするし、心なしか身体がふわふわする。
周りを見渡すと部屋が綺麗に整頓されていた。
出かける時に掃除した覚えはないんだけど。
玄関の扉が閉まる音がする。
窓から外を覗くと家族を乗せた車が出発しようとしていた。
置いていかれちゃう、早く行かなくちゃと思い慌てて外へ飛び出す。
後部座席に乗り込む。
弟と妹は学生服、両親は黒いスーツをきている。
なになに?お出かけすんの?と弟に話かけるが反応がない。
弟の顔はやけに真っ青で硬く唇をむすんでいる。
妹とは俯きタオルで顔を覆っている。
どうしちゃったの、みんな?
まるで誰か死んじゃったみたいじゃん。
到着したのは葬祭場だった。
無言で車を降りてホールに入る家族について行く。
祭壇の上には着物を着て着飾った私の写真がかけられている。
やめてよ、それ成人式の写真!恥ずかしい。
つい声をあげるが誰も振り返らない。
スンスンと人がすすり泣く声だけがホールに響いている。
冗談きついよ、みんな!
最前列まで走り抜け棺を覗き込んだ。
私だ。
白く綺麗に化粧された私が横たわっていた。
《 瑠璃ちゃん、どうしてまだ若いのに》
《直ぐに引き上げられたけど、無理だったって》
《綺麗なままね。目を覚ましそうなくらい》
周囲の潜めた話し声がボンヤリと聞こえる。
なんだ、やっぱり私死んでたんだ。
戻らないと。
私の身体に一つにならないと。
引き寄せられるように、棺に手をかけ片足を入れる。
「ニャーン」
部屋の隅に白い猫がいた。
咎める様な目で私を見つめる。
どうして私と一つになっちゃいけないの?
猫はついて来いと言うように尻尾を振るう。
猫の威圧感に耐えられず、しぶしぶ片足を降ろし猫の後を追いかける。
白い通路をひたすら進んだ。
ある時から星が輝く夜が現れ、木々が迫ってくる。
私は森の中を歩いていた。
川の向こう岸に人影が見えた。ルーベンスだ。
ルーベンスは突然水中に飛び込む。
水しぶきが上がり、浮上した時には何かを抱えていた。
その何かを横たえ、彼は激しく息をしている。
これは助けられた夜?
横たわるものを凝視すると確かに私だった。
ただ、薄ぼんやりしていて身体が透けている。
どういうこと?
私の呼吸は弱く心臓の音も小さい。
ルーベンスは立ち上がり自らの皮膚を傷つける。
そして自分自身に何かの文字を書いた。
文字から光りが溢れ出し私の身体へ向かう。
やがて光は消え横たわる私は目を覚ます。
背後にいた白猫に尋ねた。
「これはどういうことですか?アルマさん・・・」
白猫は答える。
「見たままのことよ。あの子はあなたを助けるために扉を開けた。くぐり抜けたのは魂だけ。そしてあの子は自分を半分にしてあなたに実体を与えた。あなたの戻る扉は消滅した。なぜなら元の身体は朽ちてしまったから」
「そんな・・・」
「もしあなたがこのまま生きることを放棄するなら、あの子に半分を返して頂戴」
白猫は真っ直ぐ私をみて言う。
「私は・・・私は・・生きていたいです」
「そう。正直ね」
といい白猫はカラカラと笑った。
「でもルーベンスの半分を奪ってしまったんなんて」
「いいのよ、それは。あなたを勝手にこちらの世界に引き込んだあの子の責任。本人もわかっているはずだわ」
周りの景色が溶け始め、薄暗い水瓶のある部屋に戻っていた。
「返せないなら、ルーベンスに恥ずかしくないように。この世界でちゃんと生きてみせます」
そうアルマに向って言うと彼女は優しく微笑み、あなたに加護がありますようにとキスをくれた。




