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「ルリィィィ、ルリィィィ」
早朝から激しく扉を叩く音がする。
「迎えに来たぞぉぉぉぉ」
ドンドンドン、ドンドンドン
「煩い。扉が壊れる!」
慌てて開けるが鳥の姿はない。
代わりに青髪の青年が居た。
「俺だよ、グレゴリだよ」
「・・・・・」
「なになに?かっこよすぎて見惚れちゃった?」
私は鳥を無視して外に出る。
小屋の横には馬車が停まっている。
前方には鼻の長い馬のような動物が繋がれていた。
思わず手を伸ばすと、鼻をすり寄せてくる。
「可愛い」
「ヌーって言うんだ。穏やかで持久力もある。よく移動手段に使われてる」
背後には人間の姿をしたグレゴリが立っていた。
振り返り尋ねる。
「あなた、人間なの?鳥なの?」
「愚問だね。鳥だとか人間だとかどうでもいいことだ。さあ、行こう」
と言いグレゴリは手綱を握った。
馬車は林を抜けて草原を走る。途中小さな村を過ぎた。
あともう少しだとグレゴリは言う。
「それにしてもルーベンスが連れていけば、あっという間なのにな。」
ルーベンスの転移魔法を使えば簡単なことのはずだと言う。
今日は日の出前に目覚めたがルーベンスの姿はすでになかった。
家中を掃除して家を出た。金銭も力もなにも持ち合わせていない私はこんなことしかできない。
ルーベンスからもらったお守りは今、胸元にある。
昨日のあの言葉はどういう意味なのだろう。
これを受け取る資格があると。
額にキスをされたことも正直動揺している。
次会った時どんな顔をすればわからない。
思考が顔に出ていたのか、グレゴリが口を挟んでくる。
「にやけちゃって、ヤラシイねぇ。さては昨日艶っぽい事でもあったのかい?」
と大層卑猥な目でこちらを見る。
舌打ちとともにヤキトリにするわよと呟く。
「ヤキトリって何?」
「あんたを串刺しにして炭火で焼くのよ」
と伝えるとヒィと真っ青な顔をした。
馬車は大きな邸宅の前で停まった。
グレゴリはここで待ってると言う。会いたくない人がいるそうだ。
大きな扉の前まで行くと音もなく開く。
妖艶な美女がそこにいた。背後には双子の美少年が控えている。
「ルーベンスから聞いているわ。私はアルマ。この子達ははジーンとペギー」
チョッキを着た双子がお辞儀をする。その動作はピッタリと揃っていた。
「私は瑠璃子といいます。よろしくお願いします」
こちらよと奥の部屋に導かれる。
奥の部屋には薄暗くて中央にある水瓶が淡い光を放っていた。
「あなたの世界の扉を調べたの。本来なら決して開くことはない扉。でもあなたがこちらに来た日に無理矢理こじ開けた形跡があった。それからは消滅してしまったの」
「酷なことを言うようだけど元の世界にあなたは戻れないわ」
声が遠くから聞こえるようだった。
もう戻れないと言われた。
足の力が入らない。ふらついた私をアルマは抱きとめた。
「あなたがこの世界で生きたいと願うなら力になるわ」
優しい声でもちろんルーベンスもねと言う。
「あの子がこれをあなたに渡すとわね」
胸元の首飾りを撫でられる。
「これは、あの子の魔力の一部。これであなたとあの子は切っても切れない縁ができてしまった」
「どうしてそこまで」
と口から零れ落ちる。
「それはあの子に聴いてあげて」
そう言って微笑む。
私の視界はぼんやりと歪みそのまま意識を失った。




