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乳白色のお湯をすくい上げる。
「ごくらく〜ごくらく〜」
異世界でさえなければ鼻歌までしてしまいそうだ。
このお風呂も原理はわからないが魔法の技術が使われているらしい。
昼間、用を足そうとした時も、水洗トイレもどきが存在していた。
私がいた世界にある電気やガスの変わりに魔術が使われていると思っていいようだ。
芯まで温まり風呂場を後にする。
脱衣場に白いワンピースと下着それに靴まで用意されていた。
まさかルーベンスがこれを用意してくれたのだろうか。
私の所持品は溺れた時に着ていた水着だけだ。
ありがたい、ありがたいんだけど、年頃の女子としては複雑だ。
さっき、うっかりお風呂に誘ってしまったがルーベンスはれっきとした人間の男性だそうだ。
自分がしたセクハラの数々が頭をよぎり悶絶しそうになる。
コンコンとノックの音がする。
「すみません、お話しして構いませんか」
遠慮がちなルーベンスの声が聞こえる。
慌ててタオルを身体に引き寄せ返事をする。
「はい、大丈夫です。」
「そこにある服は知り合いに頼んで用意してもらいました。女性なので安心してください。ただ、年齢を幼く伝えてしまいまして・・・」
気まずそうな声が聞きえ、そのまま黙り込む。
「あの、平気です!サイズもピッタリですし。問題ないです!」
手にアップリケつきパンツを握りながら答える。
ルーベンスの好意には感謝してもしきれないほどだ。
それを伝えるとホッと息を吐き、失礼しましたと去って行った。
ほかほかの体で居間に戻るとルーベンスは分厚い書物を片手にうつらうつらしていた。
何て可愛いいの!まるで日向ぼっこしながら眠る猫だ。
目は細まり小刻みに尻尾が揺れている。
撫でたい。撫でまわしたい。
そんな邪念を持ったままにじり寄ると、パチリと大きな瞳が開いた。
「ごめんなさい!まだ何もしていません未遂です」
慌てて言う私を見てルーベンスは苦笑している。
「明日、私の師匠を訪ねる際一緒にはいけないのでグレゴリにお願いしました。」
「グレゴリですか?見た所鳥ですが大丈夫ですか?」
私は青い鳥に連れらて街を歩いている姿を想像して不安になる。
「ええ、彼は有能ですから。心配しりません。」
心配しか残らないが、とりあえずわかりましたと伝える。
「明日も早いですから、休んでください」
鍵をかけるように何度も念を押される。
「それとこれを」
ルーベンスの手には首飾りが握られていた。
「なんですかこれは?」
飾りの部分を覗き込むと球体のガラスの中で呪文が渦巻いていた。
「守護の球です。悪意ある魔法から貴方を護ってくれます」
そう言いながら首飾りをかけてくれる。
「お世話になりっぱなしなのに。いただけません!」
外そうとした手を押しとどめられる。
「いいのです。私も貴方には感謝していますから。貴方はそれを受け取る資格がある」
「どういう意味ですか?」
尋ねるが微笑んだまま答えてくれない。
寝室の扉の前まで歩き振り返る。
「私の名前、ずっと伝え忘れていました。瑠璃子といいます」
ルーベンスの唇がルリコと動いく。
その瞳はとても悲しそうに見えた。
「その名前を知っていました」
「え?」
言ったことあったっけ?と考えているとルーベンスは大股で私に近づき屈み込む。
「貴方に加護がありますように」
そうして額に温かい何かが当たる。
理解出来ないままパタンと扉が閉じられた。




