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「そんな怯えなくても私は君を食べたりしないよ」


いまだにビクビクしている私を見て、ルーベンスは溜息をつく。


そんなこと言われたって、青い目はらんらんと輝いているし、大きな口から零れる牙は私の皮膚を簡単に喰いちぎりそうだ。 それにピンク色の肉球は、なんてけしからんのだ。昨日うっかり触り損ねた。今日こそは隙さえあれあばぱふぱふして、もふもふして、すーはーすーはしたい。

「聞こえてますよ」

咳払いをしてからルーベンスは言う。


「とりあえず晩御飯食べましょう」

気まずさからほぼルーベンスが作ってくれた料理を無言で食べる。

朝のも美味しいスープだったけど。これも美味だ。

トマトベースに香辛料の味がよく効いている。



最後までパンですくい取ったところでルーベンスが話し始めた。

「これを見てください」

大きな地図を机に広げる。

「この世界は8つの大陸があります。今いるのがここ」

ルーベンスは中央部にある陸地を叩く。

私の知る限りオーストラリアのような形をした大陸だ。


「トリエント王国です。王は存在していますが、国の方針は議会で決まる民主政を行っています。主な資源は鉱石と魔術を使い作られた生活消耗品です」

ルーベンスの話では、この世界には魔法が存在しているらしい。

そして生活を豊かにするための魔術を研究する所でルーベンスは働いているそうだ。


「本題はここからです。貴方にはこちらの寄宿学校に入学していただこうかと考えています。」

スッと一枚の用紙を出す。

西洋風のお城のような建物が写し出されている。

「こちらの学校は農民から貴族まで門戸を開いています。

入学したのち専門的な分野を選べます。例えば、魔術師や騎士を育てたり、歴史を学ぶ歴学士などもありますね。

元の世界に戻れる方法が見つかるまでと考えていただければ」

どうですかと紙を私の前に近づける。


「あのですね、ルーベンスさんとっても素敵な申し出ですが、年齢制限はあるのでしょうか?」

「ええ、もちろん10から16までの子ども達が学べます」

と猫目が細まる。


「申し訳にくいのですが、私は20を過ぎています」

心底驚いたように青い目を見開きルーベンスは固まる。

そのあと口に手をあて赤くなる。


「勘違いしていたとはいえ、成人されている女性に・・」

ルーベンスの耳はくたっと垂れ下がる。

「いいんです、いいんです。童顔なのは昔からですし、ペラペラの体もよく幼女体型と言われました」

そこまで言い終えて鼻がツンとしてくる。

しばらく気まずい無言が続く。


「・・・では私の師に頼んでみます。豪快な人ですがきっとあなたに後見人になってくれるはずです。」


何から何まですいませんと頭を下げる。


心の隅でこのまま此処にいてはだめですかと思う。

まだ出会ったばかりのルーベンスを信頼しきっている自分に気づく。

誰も知らない異世界で、不安で泣いてばかりにならずにすんだのは、きっと彼がいてくれたおかげだ。



「お風呂が入りましたからどうぞ」

ルーベンスは心無しかそわそわしている。

「不快でしたら終わるまで外に出ています」

「不快なんてまさか。なんなら一緒に入りませんか?」


「え?」

とルーベンスはみるみるうちに真っ赤になり大きな声で言った。


「いけません!今はこんな姿ですが元はただの人間の男です!」


そこまで聞いて私まで赤くなる。

弁解させてもらえるなら、ルーベンスとお風呂に入ると言ったのはトリミングするぐらいにしか思っていなくて。

隙あらば首の下をゴロゴロしたいと考えていただけであって、私は痴女ではない!


「聞こえてますよ」

とルーベンスは赤い顔のまま呟いた。



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