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あれから一月が経つ。


私は今日も作業服に身を包み汗を流していた。

「お疲れ。もうあがっていいよ」

グリフの声に手を止める。

「これが終ったら、あがります」

今日の受け取りと配達のリストを整理し終え、奥で伏せるルシの頭を撫で「お先に失礼します」と地下を後にした。


あれから少しずつ、いろんなことが変わった。

サバラの帰還後、残されたルシは処分される予定だった。

しかし、国立魔術研究所代表の一声により魔力は封印されたまま魔鉱石の門番として研究所内で暮らすことになった。

ルシには先日、ブラッシング用のクシをプレゼントした。

そのクシは、以前猫の姿だったルーベンス用に購入したものだった。

不要となってしまい困っていた所、ルシに伝えると「是非にそれで毛を梳いてくれ」と所望された。

その日以来、ルシの黒い毛を休憩時間に梳かすのは私の日課になった。


そして、アルマが魔術の研究のため遠くへと旅立ってしまった。

異世界の人間が紛れ込む原因を調査するためだそうだ。

双子のジーンとペギーは同行せず寄宿学校に入学するそうだ。

グレゴリは相変わらずだし、同僚のテイラーはいつも通り真面目で辛辣だ。

嬉しい報告は、アリアが結婚することになった。

酔い潰して聞いたところ、12年間の片思いを実らせたらしく、なんとも素敵な話だった。

彼女なら花嫁衣装と花婿衣装どちらも似合いそうで、式が楽しみだ。

私はというと、相変わらずだ。働いて寮に帰るそんな毎日だった。


ルーベンスとは、あの夜のキス未遂をして以来ギクシャクしてしまい、どちらかといえば私が一方的に避けてしまっている。

恋愛経験不足の私からすれば、相手と気持ちが通じた経験がなく、どうしていいかわからなかった。

むしろ、今だに好きとさえ伝えられていない。

いつも次こそは、伝えようと考えて会い。

何事も無かったかのように接してくれるルーベンスに、一人動揺して逃げ出す私はなんともチキンだったと思う。



今日は、私の家でルーベンスに晩御飯をご馳走する予定だった。

二人きりになれば想いも伝えざるえないだろうと、勇気を出して誘ってみた。

ルーベンスは始めはいい顔をしなかったが、あまりに必死な私を見て渋々了承してくれた。



はっきり言って、料理のあまり得意ではない。

そこで、花嫁のアリアに頼み込み、教えて貰ったレシピを繰り返し作ってきた。

これで何とか食べることは可能だろう。

城下町の商店で食材を買い揃え寮に戻る。

あくせくしながら作り終えた頃にルーベンスは訪れた。



「これ、全部ルリコが作ったのですか?」

対面に座るルーベンスはそう言い口に運ぶ。

「アリアさんに教えてもらって、こっちの料理をきちんと作るのは初めてで・・味は平気?」

不安気に見上げるとルーベンスは笑ってくれた。

「美味しいですよ、とっても。それに、その手を見ると頑張ってくれたことが伝わってきます」

手を見下ろし、恥ずかしくなりテーブルの下に隠した。

私の手はとても料理上手とは言い難い包帯にまみれた手だった。



ルーベンスは綺麗に食べおえ、さてと席を立つ。

「もう、帰っちゃうの!!?」

慌てて立ち上がりルーベンスの後を追う。

「はい。あまり長くはいられませんから」

と彼はローブを羽織った。

「えっ?仕事があるのに来てくれたの?」

「いえ、違います。女性の家に長時間居るのは良くないでしょう」

「えぇ!大丈夫だよ。だって私、ルーベンスのことす、す、好きだしっ」


その時の私はやっと言えたと心の中でガッツポーズをしていた。

しかし、ルーベンスを見上げると眉間に皺が刻まれていた。

「このタイミングで言いますか・・・・」と深く溜息を吐く。


これは言っては不味かったの?

もしかして、ルーベンスも少なかれ私を想ってくれていると感じたのは勘違いだったかもしれない。


「ご、ごめんなさい。そんなに嫌だった?それなら忘れてくれて・・・」


ルーベンスは大股で私に近づくと強い力で抱き込んだ。

「忘れるわけありません。貴方はわかっていないのです。この時間に男を家に入れる意味も私の貴方に対する気持ちも」


「・・・無知なのはわかってる。だったら、ルーベンスが教えてよ」

私の言葉にルーベンスは言葉を失い無言になった。


それをいいことに、私はルーベンスの胸に身体を寄せた。

ルーベンスの腕の中は干したての毛布のような匂いがした。

ついうっとりして身を委ねてしまう。




「・・・わかりました。きちんと教えましょう。ただ、ここの壁は薄いので移動います」

ルーベンスは今まで見たことの無いような獰猛な目をしていた。

思わず手を離し後ずさりする。


「ここまできて、逃がすわけないでしょう」

そのままルーベンスに横抱きにされ、移動魔法で家に連れ込まれ、そこから先の記憶は曖昧だ。




喉が乾き目を開けると彼が隣で眠っていた。

穏やかな顔で眠っている彼の心には深い孤独があった。

そのほんの少しを私に見せてくれたのだ。

彼が私を助けてくれたように、私も彼に何か返せるだろうか。


そのためにはまずこの世界でちゃんと生きていこう。

彼の額に唇を寄せ、そう誓った。




















これでこの話は終わりです。拙い文章を最後まで呼んでいただき本当にありがとうございました。

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