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半透明になった足を見て不安感が押し寄せてくる。

自分の存在が消されていくような気分だった。

サバラくんはずっとこんな思いをしていたんだ。



身体が、ある方向に呼び寄せられるように痛んだ。

きっとこの方向にルーベンスが居る。


走り出して身が軽く、驚くほど早く走れることに気付いた。

足元を見ると剥がれた皮膚がふくらはぎまできていた。

怖さよりも焦りが募る。

今は一分でも早くルーベンスのもとへ辿り着きたかった。



無心で前へ前へと足を出す。

森を出て、街道をひたすら進む。


だだ、走って。走った。


たどり着いたのはアルマ邸にほど近い邸宅だった。

入り口には誰もおらず、そのまま門をくぐり、家の中へ入る。

中は静まり返り人の気配がしなかった。


「ここじゃない・・・!!」

そばにあった窓から飛び出て外へ出ると、離れに立つ塔が見えた。

ルーベンスはあそこに居る、と身体が教えてくれた。

塔の階段を飛ぶように駆け上がり中へ飛び込む。


そこには、横たわる銀髪の男性と人の姿をしたグレゴリがいた。

グレゴリは私に気付き叫んだ。

「ルリ!!どうしたんだその身体!!」

足から腹部までが半透明になっていたが今はどうでもよかった。


「ルーベンス!!」

銀髪の男性に駆け寄り膝をつく。


やっぱりあなただったんだ。

今までの疑問がストンと胸に落ちて行くような気分だった。

ルーベンスの意識はなく、呼吸も荒い。

腹部には刃物で斬りつけられたように大きく裂け、血が溢れ出していた。


「何があったの!?」

悲鳴に近いの声が漏れた。


「魔鉱石を回収する作戦にルーベンスと俺が着くことになった。ここの住人のアルデイルは帝国との取引の場にいるはずだったし、失敗など無いはずだった。だけど、奴は戻って来ていた。俺が駆けつけた時には既にルーベンスは倒れていて・・・・クソッ!!救護班がくるまで何とかもってくれ!!」

グレゴリの顔には焦りが滲んでいた。


私は膝をつき血に濡れたルーベンスの手を握りしめた。

ルーベンスの顔色は青白く、時たま小さく呻き声をあげている。


私は彼が苦しんでいるのに何もできないのだ。

何度も彼に助けられているのに、私はなにも返せない。

なんて無力なんだ。



塔の開け放たれた窓から一匹の梟が飛び込んできた。

梟の姿は着地と同時にみるみる姿を変え、一人の妖艶な魔法使いになった。

「アルマさん!!」

思わず声をあげる私を彼女は手でそっと押しやった。

アルマは呪文を唱える。かざした手から光が溢れ、ルーベンスを包み込んだ。

「これは・・・手酷くやられたわね。毒も仕込まれたみたいだし。傷よりもこちらが問題ね。アルデイルは何処へ?」

アルマはグレゴリに向かって言う。

「奴はこの中だ」

グレゴリは足下の木箱を蹴り上げ示す。

中には縛り上げられ意識を失った男がいた。

「叩き起こして、解毒のありかを聞き出しなさい!」

アルマの指示にグレゴリは木箱の男を担ぎ上げ窓の外へ連れて行く。

「めんどくせぇ!下に落として吐かせる」

背後を向くグレゴリの背中には翼が生えていた。

そのまま男を抱え飛び立った。




「アルマさん、もし私がルーベンスから借りている半分を返すことができたら・・・ルーベンスは助かりますか?」


私の言葉にアルマが息を飲むのがわかった。

「馬鹿の子ね。そんなことをしたら、この子はなんのためにあなたを護ってきたというの」

アルマの諭す声に、私の事も心配してくれていることが伝わってきた。


「アルマさん、ありがとうございます。でも、もう護られてばかりは嫌なんです。お願いです!この身体、ルーベンスに返してください!!」


アルマの深い溜め息が聞こえた。

「本当にそれでいいの・・・」

振り返り私を見つめるアルマに笑顔を向けた。

「私、一度死んだと思った時。恋すらしてなかったことに後悔しました。でも今はちっとも後悔しません」

「この子を愛しているのね」

アルマの言葉に私は微笑んだまま頷いた。


「もう一つお願いがあります。南の森に私と同じ世界から来た少年がいます。彼を元の世界に返してあげて欲しいのです」

と言い深く頭を下げる。

「必ず返すわ」とアルマは目を閉じ頷いてくれた。



ルーベンスが助かる、と思うと安心からか力が抜けてきた。

正確にはうまく身体に力が入らない。

そのまま横へ倒れ込みアルマの声を遠くに聞きながら目を閉じた。








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