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今が昼なのか夜なのかすらわからなかった。

頭痛と身体の痺れは消えたが、鎖のせいで動くことすらままならない。

クリーム色のドレスも今では黒く汚れている。

スカートの部分は所々ほつれ破れていた。


「ルーベンス心配してるかな」

独り呟き、不安から涙が滲む。

優しい彼のことだ、きっと私を捜してくれている。

あの綺麗な灰色の毛が無性に懐かしくなった。

涙腺が緩まり涙が零れた。

手で拭い鼻をすする。

泣いちゃダメだ。しっかりしなきゃ。

一度死にかけて異世界に来ちゃうくらいだから、悪運だけはきっと強い。


足にある重い錆びた鎖に目をやる。

これさえなければ!!

鎖を外そうと石で叩く、代わりに自分の指先に刺してしまい悶絶する。

刺した指先からは止めどなく血が流れた。




ルシはあれから二度ほど食べ物を持って現れた。

主にパンとミルクだった。

滞在時間は短く、いつも気遣わしげにこちらを見て去って行く。


少年はあれから一度も現れることはなかった。

私の言葉に激昂している彼を見たとき、まだ子どもなんだなと感じた。

感情の制御が出来てないし、彼自身の方が何かに怯えている気さえした。

それにいつでも私を殺せるはずなのに傷つけることさえしない。

餓死させることだってできるのに。

ルシが持ってくる食べ物がパンだったりミルクだったりするのは、少年が指示してるのだろう。

だったら、なぜここに縛りつける必要があるのだろう。



ヒタリと獣の足音がしてルシが暗闇から溶けるように現れた。


口にパンとミルクの入った籠をくわえている。

ゆっくりと私の前に置いた。


「ねぇ、あなたの主はまだ私を解放する気はないの?そろそろ疲れてきちゃったのだけど」

私の言葉にルシは何も反応を示さない。

「じゃあさ、他のこと教えて。ルシとあの少年はいつ出会ったの?だってあの子も、ここじゃない世界から来たんでしょ?」

ルシの目を覗き混む。深い闇のように真っ黒な目だった。


真っ直ぐ見つめ合う。

まるで何か伝えようとしてくれてるようだった。


「あなたもあの少年のことが心配なのね」

何故だかそう感じた。

「私に教えて、もしかしたら何か出来るかもしれない」

お願いと気持ちを伝えるようにルシの目を見つめ続けた。


ルシは一度背後を振り返り、そして私の顔に鼻先を近付けてきた。


ルシの身体からは黒いもやが溢れ出し私を包む。

繭のように取り囲まれたが、不思議と怖いとは思わなかった。




目を閉じて見ることができたのは彼等の記憶。




ルシはまだ小さな子犬だった。

母犬とはぐれたところで拾われた。

とても優しい人で、飼い主に可愛がられてルシは幸せだった。

その幸せは突如終わる。飼い主が死んでしまったのだ。

それは略奪の中での出来事だった。

ルシが住んでいた村は逃げ落ちた兵士に食糧を奪われ火を放たれた。

飼い主は最初に止めに入り、あっさりと切られた。

ルシの好きだった家も優しかった村人もみんな炎に包まれた。

ルシは黒焦げになりながらも生き残った。

飼い主の亡骸に寄り添い続けた。

独り残された悲しみは、徐々に憎しみに変わった。

「ユルサナイ、ユルサナイ」

そう思い続けていつしか、飼い主が土に帰ってもルシは亡霊のようにそこにいた。


ある日、人間に取り憑いてやろうと考えた。

最初はうんと弱い奴がいい。

探し歩いて一番弱そうな人間を見つけた。

小さな少年だった。ガリガリで弱そうで、それに身体が透けている。こいつがいいと思った。

気付かれないようにこっそりと取り憑いた。


少年はその後大きな大人に連れられて、大きな市場に向かう。

少年はそこで金持ちの男に買われた。

そこで目を覆うような酷い扱いを受けた。

次は見世物小屋に売られた。

商品のように並べられ透けた身体を毎日嗤われた。

その次は何処かの国の王様の所で、少年はそこではペットだった。


少年の身体はいつまでたっても食事を受け付けずガリガリのままだった。

亡霊として憑いたはずが、いつしか同情していた。


ある夜ついうっかり少年に話しかけてしまった。

「タスケテヤロウカ」

話せると思っていなかったので驚きだった。

少年も酷く驚いて答えた。

「見返りは何?」

見返りなど考えもしなかった。

「ナヲヨコセ、ナヲオシエロ」

「僕は、佐原・・・秋彦・・・」

飼い主だったその人と響きがにていた。

「マカセロ」


そこからはあっという間だった。まず最初に王の側近の魔術士の力を奪う、そこから城にいる奴らを倒し魔力を搾り取った。

どこまでも強くなれる気がした。どうやら亡霊ではなく化け物になっていたらしい。


サバラは解放されてからもついて来た。

彼はここじゃない世界から来たことを教えてくれた。

もともと身体が弱く病院という所にいて気づいたらこの世界にいたらしい。

孤独な魂同士寄り添い静かに生きていた。


しかし、いつからかサバラは世界の崩壊を願うようになる。

私は化け物として彼に協力した。

なのにサバラは一つも楽しそうじゃない。

ただ、ただ今のサバラは可哀想だ・・・。









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