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水滴が瞼に落ちて目を開けた。

頭痛がして頭が重く身体も痺れて感覚がない。

周りを見渡すと岩肌には苔が生い茂り、地面もしっとり水滴で濡れていた。

洞窟の中だろうか。

身をよじり起き上がろうとするが、力が入らない。

足だけ動かすとチャラリと金属音がした。

目を向けると錆びた鎖が両足に絡みついている。


混乱した頭で考えた。

そうだ、城の塀の前で少年に会っておかしなことを言われた。そしたら真っ黒な犬みたいなのが現れて、飛びかかって来た。そのまま目の前が真っ暗になって気付いたらここに鎖で繋がれていた。


胸元を探るが首飾りがない。持っていたはずの鞄も見当たらない。

ここに連れて来たのが少年だとするのなら、なんのために?

彼は、たしか私に「この世界の人間か」と聞いた。つまり私が元いた世界の存在を知っているということなのだろうか?

とりあえず、ここから抜け出す方法を考えてないと。

このままここに縛り付けられて死ぬなんてまっぴらだった。



カサリと音がして目だけ動かす。洞窟の入り口に黒い狗が立っていた。

ゆっくりとした動作でこちらに近づき黒い塊を目の前に置く。

私は石のように固まり逃げることも出来ずにいた。

置かれた塊に目をやる。

「ひっ。何これ?ネズミ?」

それはよく太ったネズミの屍骸だった。

狗は食べろというように鼻で押しやり、私の口元に近づけようとした。

「む、むり!!食べれないって!!」

必死に顔を背けて拒否をし続けると、狗は諦めたのかその塊を咥え去って行った。


しばらくしてまた狗は何か持って現れ、私の前に置く。

今度は林檎と木の実だった。

私が固まったままでいると、今度も林檎を近づけて来る。

「わかった!食べるから!一人で食べれるから!!」

力の限り大声で言うと、狗は少し離れた所に監視するように座った。

「食べ終わるまで見てるってこと・・・」


腕を突っ張りなんとか上半身を持ち上げ座る。

林檎を掴み一口かじると、口の中が水分でいっぱいになった。

身体中が水分で満たされた気がして、始めて自分が水分を求めていたことを知った。

貪るように食べ、木の実を口にする。

それはラズベリーに似た何かだった。とても甘くて美味しかった。

夢中に食べていたので気づかなかったが、狗は先ほどと変わらない位置に居てこちらをじっと観察するように見ている。



「あ、ありがとう・・・」

お礼を言うのは違う気がしたが、何故だかそう口にしたくなった。

いままではおぞましく恐ろしいとさえ思っていたのに、今の狗は不思議とまとう空気が柔らかく感じられたのだ。


「あなた名前は何というの?・・・って応えられるわけないか」

自然と聞いてしまった自分に可笑しさすら感じた。

狗は立ち上がり前足で繰り返しなぞるように書く。

「ごめん。何書いてるかわからないや。・・・・そうだ、確かあの男の子があなたのことルシって呼んでいた」


「ルシ・・・」

呼びかけると黒い狗は尻尾を左右振るった。

これじゃあ、まるで普通のわんこと変わらないみたい。

「ねぇ、ルシお願いがあるの。この鎖外せる?」



ルシは不意に立ち上がり洞窟の入り口を振り返る。

足音もせずに痩せた少年がゆっくりとした足どりでこちらに向かってくる。

少年の顔立ちは東洋人の様に見える。頬は痩せこけて、そのせいか目は大きくギロギロとして見えた。

もし、いま飛びかかれれることができたら簡単に倒れてしまいそうな体だった。


「お姉さん、おはよう」

微笑み少年は言う。

「おはようじゃないわよ!今すぐこの鎖を外して!」

睨みつけ、噛み付くように訴えた。

「まあまあ、落ち着いてよ。回答次第ではすぐに外してあげるから」


あくまで上から目線の言葉にイライラした。

あんたなんか、鎖がなければけちょんけちょんよ!!


「僕は、この世界の奴に復讐がしたいんだ。だから、この世界を壊したい。お姉さんも協力してくれるよね?」

「・・・なにを・・・!」


全く理解が出来なかった。世界を壊すってこのひ弱な少年に可能なのだろうか。

「ルシにずっと力を蓄えさしてるんだ。魔力の強い奴の力をね。そして限界まできたら魔鉱石と共に爆発してもらう。パーンと、核爆発の数十倍のパワーがあるからね。上手く行けば全滅」

少年は愉快そうに笑っている。


「・・・バカなの!?この世界の人に恨みって、それで殺していいはずない!!それにこの子を利用して酷いことさせるなんて!!」


私の言葉で少年の顔色はガラリと変わる。

「うるせぇんだよ。あいつらは死んで当然なんだよ!!」

目は血走り、ゴミを見るような目で私を見下ろした。

「庇うのなら、おまえも一緒だ!!世界が壊れるまでここにいるといい!!」

怒りのまま大股で入り口まで進み振り返る。



「まあ、それまで生きれたらの話だけどね」




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