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18〜ルーベンス〜

日が沈み明かりが灯り始めた。

人々は美しい衣装を身に付け城へと歩みを進めている。

私は黒いローブに身を包み城の塔の上からその光景を見下ろしていた。

暗示の術式は城全体を覆うように発動していた。

総てが終わるまで暗示を維持する。それが私の役割だった。


音楽隊の演奏が風に乗って聞こえる。

人々の歓声も届き、私は目を閉じた。

音は記憶を運んでくる。



私がアルマに拾われたのも騒々しい場所だった。

私の両親は少数民族出身で駆け落ち同然に里を飛び出し、辿り着いた大地で慎ましやかに家族三人で暮らしていた。

珍しい容姿から奇異な目で見られ、時には怖れられた。

それでも父と母がつねに私を守っていてくれたので悲しくはなかった。

戦乱に巻き込まれそれも終わってしまう。

戦地で親は死に、ただ己も死を待つ身だった。


「まだ息があるわ。酷い傷・・・・」

美しい女性が私を覗き込む。

「・・・・・」

「睨まないで。大丈夫よ、助かるわ」

微笑む彼女に、私は首を振るう。

身体は燃えるように熱く意識は混濁し始める。

家族も死んだ。もう生きていたいとは微塵も思わなかった。

「不憫な子」

アルマの唇がそう動くがもう音は聞こえなかった。



目が覚めるたときは、まだ生きていた自分に絶望した。

そのことを幼さから口にするとアルマに強く頬を叩かれた。

見上げると彼女は涙を浮かべていた。



そのまま会話もなく数日後、寄宿学校に送り出される。

後になって彼女の子供が幼くして亡くなっていた事を知った。

あの頃の私は素直に謝罪することもできず、口にできたのは寄宿学校を卒業した時であった。



辺りが騒がしい、そろそろ城門が閉められる時間だった。

鼠の侵入が始まり城の奥では戦闘が始まっていた。

騎士らは程よく抵抗して王女を連れ攫らわれなくてはならない。


門から逆走する人の姿が見えた。

騎士の制止も振り切り走ってくる。

目を凝らすと女性に見えた。このまま行くと危険だ。

戦闘に巻き込まれるかもしれない。

塔を駆け下り屋根伝いに彼女を追う。

女性はバルコニーに向かっていた。


その時、激しい爆発音とともにバルコニーが崩れ落ちた。

術式を発動させ女性を地面に下ろす。

彼女を守るように立ちバルコニーは離れた位置に落とす。

ほっとして、女性を見下ろすとそこにいたのはルリコだった。


「どうしてこんな所にいるんですか!!」

思わず頭に血が上り大声で叱責してしまった。

彼女は酷く怯えた顔で私を見ていた。


瞬時に後悔した。彼女は危険も何もわからずここへ戻って来たのではないか。怖い思いをした上に叱る必要は無かったはずだ。

しかも今の姿は人に恐怖と威圧感をあたえる。

きっと私の姿を見て彼女は恐れるだろう。


座りこんだままの彼女を立たせ、服に付いた砂埃を払う。

彼女は唇を震わせ目には涙が浮かんでいた。

見ていることができず目を逸らす。


「ごめんなさい」

小さい声で彼女は言った。


「謝らないでください。急に怒鳴ってすいませんでした」

安心できそうな言葉を探して絞り出した。



再度、爆発音がする。目を向けると城の中央部で炎が燃えていた。

問題なく事は進んでいるようだ。


彼女に目を戻すと、ポロポロと泣いていた。

異世界から来た時でさえ泣いて無かった彼女が息を殺して嗚咽している。


頭を殴られたような気分になり、抱きしめたい衝動に駆られた。

いや、私が触れても余計彼女を怯えさせるだけだ。

理性を働かし優しく告げた。

「泣かないでください、大丈夫です」

「ここにいては危険です。私は一緒に行けませんが城の外へ行けますね?」


彼女は涙を拭い頷く。

私はそっと肩に手を添え正面を指差す。

「このまま真直ぐ行けば城外へ抜けれます。振り返らず走ってください」

「助けていただいてありがとうございました」

彼女は私を見上げそして深くお辞儀をする。

そして振り返ることなく駆け出した。

見えなくなるまで見送って元の配置に戻る。


第一騎士団の報告によれば、王女の誘拐は無事完了したようだ。

後は帝国に引き渡す時に押さえるだけだ。

怪我人も最小限で済み、みな安堵していた。


私がルリコが消えたと知ったのは日が登り始めた時だった。

どんなに集中しても彼女の存在を捉えることができない。

まさに煙のように消えてしまった。



それから、当てもなく捜し続けている。

もしかしたら元の世界に戻ったのだろうか。

しかし彼女の肉体はそこには存在しない。戻ることなどできはしないのだ。



彼女の欠片を求めてただ彷徨う亡霊のように探しづづけた。

















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