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17〜ルーベンス〜

術式の準備のため連日城に詰め続け、自宅に帰宅できたのは天恵祭前日であった。


締め切り続けた小屋の空気は酷く淀んでいた。

窓を開け放す。

日が沈み澄んだ空気が心地よい。

疲れからか、何もする気にはなれず木製のソファに倒れこんだ。


「ドンドンッ、ドンドンッ」


荒く扉を叩く音がするが、一歩も動く気にはなれず無視を決めこむ。

「ルーベンス、居るんだろ?入るよ」


扉が開き青い騎士が入り込んでくる。

ルークだ。彼は両手の酒瓶をテーブルに置き、無断で保冷保存庫を漁り出した。


「何のようですか?」

不機嫌さを隠さず声を発するが相手は気にした様子もない。

「干し肉しかないね、まあいいか、はい、お前の分」


グラスを受け取り口に含む。

空腹にアルコールが沁み渡った。


「準備はどうだ?」

ルークは半分ほど飲み、干した肉を一噛みする。

「滞りなく完了しました。そんなことを聞きにここに?」

「そう言うなよ。同じ学び舎の友人を理由なく訪ねてはいけないのか?」

「あなたが理由なく動く事はないかと」

「・・・まあ、明日のことを考えると気持ちが昂ぶって落ち着かない、ただそれだけだ」


「アリア殿はよろしいのですか?私はあなたが王女の代理に彼女を差し出すとは思いませんでした。彼女はあなたの婚約者でしょう」

私の問いにルークは笑みを浮かべたまま返す。

「うちの団長秘書は優秀だ。確実に仕事をこなしてくれるだろう」

あと、元婚約者だと彼は言いグラスの残りを飲み干す。


「彼女の好意にあなたが気付いてないはずないでしょう」

ルークは一瞬真顔になるが、すぐにいつものヘラリとした笑みを浮かべた。

「アリア嬢の話よりも、俺はお前の周りの雛の話が気になるよ」

「なんのことでしょうか」

またまた誤魔化すねぇと言いながらルークはニヤニヤと笑う。


ルークという男は昔から飄々としていて食えない。

いつも私の堅物さを笑い、づかづかと人の内側に入ってくるが、それでいて決して自分の懐を見せることは無かった。





「それより、王が躊躇なく城を舞台に差し出すことに驚きだった。まあ、妹君に異常に固執することについてもだが」

とルークはグラスに酒を注ぎ足す。

「そうでしょうか、聡明な王です。無益な戦乱を招かない為に最善を選んだのではないでしょうか」


王女に関しては私は何も言えない。王の溺愛ぶりは異常に見えたが、それも個人の自由であろう。


「お前はどうなんだ?」

「何がですか?」

「最近まとう空気が柔らかくなったように感じる。まさか、鬼神と言われた男に春が来るとは」

「何の話だかさっぱりです」

つれないぇとルークはぼやき酒を煽った。





日が登り天恵祭当日になる。

静かに身支度を終える。

ソファではルークが酒瓶を抱いたまま眠っていた。

彼は普段そう深く酔うことはない、余程何かがあったのだろう。

数少ない友人の問題事が片付くことを願いながら扉を閉めた。


森は朝日を浴びて輝いていた。

静寂を壊すように森の奥から激しく羽をばたつかせる音が近づいてくる。


グレゴリだ。

青い鳥はひらりと足元に着地した。


「この前はありがとうな!おかげで助かった!!」

「いえ、かまいませんよ。ただ金額が半分ほど足りませんでした」

「すまねぇ。そんなにするとは思わなかった!」

グレゴリは羽を頭にあてアイタタと叫ぶ。

「なにをそんなに買われたのですか?」

「いや、ルリを天恵祭に誘ったんだ。でもあいつ地味な服しか持ってなさそうだったからな。だからドレスをプレゼントした」

とグレゴリは自慢気に胸を反らせる。

「ルリコと天恵祭へ、ですか?」

「そうだ、ちゃんとパートナーとして誘ったぜ」


天恵祭は結婚を控える男女が城で行われる舞踏会に参加するのが習わしだった。

ルリコがそこへ?

彼女の名前を聞くだけでもやもやする感情が湧き出してくる。

これをなんと呼べばいいかわからずにいた。



「ルーベンス、そんなおっかない顔しないでくれよ」

グレゴリの声ではたと現実に戻る。

「すみません、考え事をしていました。あと、代金は半分こちらで持ちます」

グレゴリはきょとんとして首を傾げる。

「なんでだ??まさか・・おまえもルリのことを」


「・・・・・・」


「だからそんな顔で睨むなよ。おっかねぇ!!」

と言うとグレゴリは飛び立ち、あっという間に見えなくなった。














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