15
月が陰る闇の中でも銀色の髪はキラキラと輝いて見えた。
ああ、またこの人に助けてもらったんだ。
彼は座りこんだままの私をを立たせ、無言で服に付いた砂埃を払ってくれた。
至近距離に顔が近づいて、思わず顔を凝視した。
表情は固く青い目は激しい感情が揺らめいている。
怒ってる。すごく。きっと私が怒らせてしまったんだ。
「ごめんなさい」
その目を見ていられなくて俯く。
彼はわずかに身じろぎし、静かな声で言った。
「謝らないでください。急に怒鳴ってすいませんでした」
見上げると彼の方が不安気な顔をしていた。
再度、爆発音がする。目を向けると城の中央部で炎が燃えていた。
遠くで剣撃と人の叫ぶ音が聞こえた。
誰かが戦って傷ついている。その事実だけで、身体が震えだした。
怖い。鞄なんて取りに戻るんじゃなかった。
何か起こるってわかっていたのに、のこのこ戻って本当に私は馬鹿だ。
また、この人に迷惑をかけている。
恐怖と情けなさから涙が溢れ出てくる。
「泣かないでください、大丈夫です」
頭上から優しい声がした。
「ここにいては危険です。私は一緒に行けませんが城の外へ行けますね?」
頷くと肩に手を添えられ、彼の指先は正面を指した。
「このまま真直ぐ行けば城外へ抜けれます。振り返らず走ってください」
これ以上迷惑をかけてはいけない。しっかりしなきゃ。
深く息を吐き呼吸を整え彼を見返した。
「助けていただいてありがとうございました」
深くお辞儀をして走り出した。
私はだだ正面だけを向いて駆ける。
まだ、背後で爆発は続いてる。
気持ちが急いて絡みそうな足を必死で前へ前へと動かす。
彼に聞きたいことがあった。
あなたは誰なんですか、と。
無事にここを出てまた会えたら聞こう。
なぜあなたの声は私の知っている人と同じなんですか、と。
庭園を抜けて城の高い塀が見えた。
これに沿って行けば必ず外へ抜けるはず。
ほんの少しの安堵が油断を生んだのかもしれない。
茂みの中からゆっくりと少年が現れた。
少年の身体はやけに細くて、枯れ木の様だ。
一人取り残されてしまったのだろうか。
「ここにいたら危ない、一緒に行こう」
手を掴み歩き出そうとする。だけど、少年の身体はピクリとも動かない。
そして、至極楽しそうな笑顔を浮かべた。
「お姉さんのこと探してたんだ」
その不気味な笑顔に後ずさる。
「大丈夫だよ。簡単な質問に答えるだけだから」
少年は一歩ずつゆっくり近づいてくる。
「お姉さんはこの世界の人?それともあっちから来た人」
「え・・・・」
動揺した私を見て、少年は満足そうな顔をする。
「おいで、ルシこの人だよ」
少年が声を発すると暗闇の中から狗が溶け出すように現れた。
これは良くない。今すぐ逃げないと。
足を動かそうとするが、黒いモヤがまとわりつきあっという間に身体の自由を奪われた。
「駄目だよ、抵抗しちゃ。痛くしなきゃならなくなる」
突如、身体中に電撃がはしった。
頭が痺れたようになり、目の前が真っ暗になった。
それでも必死でもがく。
そのうち呼吸が苦しくなって、私の意識は深い深い暗闇の底へ落ちていった。




