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備え付けのクローゼットを見て思わずため息をつく。

中にはクリーム色のドレスがぶら下がっていた。

洋服屋であの後、知らない人に払ってもらったドレスなんて持ち帰れないと強く言ったが、店員さんの粘りに負けて何故かこの中にある。

銀髪の強面の男性なんて知り合いにいないし。もしいたとしても無償でドレスをくれるなんて・・・怖すぎる。


今日は天恵祭だ。

日が沈むと城へと続く道には明かりが灯され人々は正装で参加する。町の至る所で音楽が鳴り踊りや見世物が催される。

城はこの日だけ大きく解放され、誰でも王様や王女様に謁見できるそうだ。

聞いただけで胸が躍る。


しかし、私のクローゼットの中身は仕事場で着る作業着のみだった。

今だに研究所の地下倉庫は封鎖されたままだった。

このまま仕事を失ったらどうしよう。不安が頭をよぎり、首を振るう。こんな楽しそうなことがある日に暗くなっても仕方ない。今日くらいはうんと楽しましないと!


ふと思い出し、タンスの奥に大事にしまってあった白いワンピースを取り出す。ルーベンスから貰った物だった。

これもどう考えても普段着にしか見えない。

さんざん迷った末、クリーム色のドレスに腕を通す。

今日だけ。今日着たら捨ててしまおう。

髪を結い上げて鏡を見る。

ドレスの力だろうか、いつもより二割増で子綺麗に見えた。

そして鞄にアリアから貰った皮袋とルーベンスに渡すプレゼントをを詰め込み部屋を後にした。


城下町は夕暮れで、人で溢れかえっていた。

装いは皆華やかで、町のいたる所で歓声が聞こえる。

待ち合わせ場所に着くと、すでにグレゴリがいた。こちらに気付くと手を上げて近づいてくる。

グレゴリは濃紺の燕尾服を着ていて、その姿は王子様と呼んでいいくらいだ。


「ルリ、この前は急に帰ってごめん」

と謝られる。

いいよと告げると、とびきの笑顔を向けられた。

「その服を選んで正解だ」

と満足そうな顔をする。

「でも、この代金・・・」

「大丈夫だ。あいつに先払いしてもらっただけだ。後でちゃんと半分払ったよ。残りは頑なに拒まれたけどな」

「あいつって、誰のこと?銀髪の人のこと?」

意味がわからず問うが

「俺はライバルに対して余計なヒントは与えない」

と意味不明の事を言ってそれ以上は答えてくれない。


そして、膝を折り手を差し出される。

「とりあえず、今日のエスコート役は俺だから」

なんだろう、鳥のくせに様になっていて悔しい。

少し頬が熱くなったのは気の所為だと思いたい。

手を取り人の流れに沿って歩き出す。

少しずつ夕闇が色濃くなり、町にはポツポツと灯りが灯り出す。

その幻想的な景色に思わず声を上げた。

「綺麗。皆楽しそうに見える」

「そうかもな」

グレゴリはいつもより口数が少ない気がする。

「どうしたの?お腹痛いの?」

「違う。緊張してんだ」

「あ、そっか。確かこのあとお見合いパーティーに参加するからでしょ?」

鳥の、と付け加える。

「・・・どこでそんな話に変わったんだ!?」

とグレゴリは呆れた顔をする。

「鈍感もここまでいくと、ただの阿呆だな」

人混みの中、背後で歓声が上がり上手く聞き取ることができない。

「え?なんて?」


前方から軽快なリズムで音楽隊が行進してくる。人々は道を開け、グレゴリと手が離れ左右に分かれてしまう。

「だから、俺はおまえに告白するつもりで誘ったんだ!」

グレゴリが道の反対側で何か言っている。

「え?全然聞こえない!」


やがて音楽隊が過ぎ隣に戻ると、グレゴリの白い頬は赤く蒸気していた。

「どうせ、聞こえて無いんだろう?まあどうせ今は勝ち目がないからいいんだ」

「??」

「とりあえず俺はスッキリした。満足だ」

とグレゴリは笑った。




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