第8話 群馬戦線の攻防
群馬県では東部方面隊主力部隊と東北方面隊の一部部隊が敵の前進を食い止めていた。
群馬県内では高崎市-前橋市-桐生市のラインで前線を張っていた。
東京都練馬区にある陸上自衛隊朝霞駐屯地には東部方面総監部司令部が置かれていた。
司令部には関東甲信越の巨大な地図が置かれ、図上には複数の記号が戦況に沿って配置されている。
周囲には高級幕僚たちが迷彩服をきて、指示や命令を出していた。地図の周りには通信員が各部隊に通信している。
「現在―――」と総監部情報幕僚。
「第1師団第1普通科連隊を主力とした第1戦闘団が東京に展開し、首都防衛の任についています。治安維持が目的ですが」
「本来ならば、より多くの部隊を首都防衛の任につかせたいな。北関東や甲信越からの避難民も増大し、治安維持の任も深刻化してきている」
まあ、どだい無理な話だが、とある幕僚が付け加えて言った。
東部方面隊隷下のうち関東と静岡県を守備する第1師団と信越地方を守備する第12旅団がいたが、新潟奇襲で新潟県上越市の第2普通科連隊と新潟県新発田市の第30普通科連隊は壊滅した。
同じ隷下の長野県松本市の第13普通科連隊は妙高高原から長野県に侵入する敵を食い止めるために行動し、展開している地域上、中部方面隊の指揮下に入っていた。
つまり第12旅団主力部隊は壊滅しているか、別方面隊に異動していた。
中部方面隊から2個戦闘団、東北方面隊からの1個戦闘団の増援部隊を第12旅団の指揮下に置いた。
なお、戦闘団とは普通科連隊を主力に各科の小部隊を集めた部隊のことである。
「東部方面隊主力と東北方面隊の2個普通科連隊がこの群馬戦線を支えています」
また、他の戦線は、情報幕僚。
「長野と富山は中部方面隊が、山形と福島は東北方面隊がそれぞれ防衛を担当しています」
作戦参謀が言う。
「桐生の第32戦闘団が敵の大攻勢を受け、損耗5割程度だそうです」
「後方に引き下がっていた第34戦闘団と合流させよう。それでも元の8割程度だが……」と東部方面総監
「戦力が段々と削られているな。増援はまだか」幕僚長が言った。
「北海道の、北部方面隊はフェリーによる本州移動を行っているそうです。それぞれの方面隊に応援にやって来るのはもうしばらく時間が要りますね」と情報幕僚。
「教導団を編入させる話はどうなったんだ?」
富士教導団は富士学校隷下の教導部隊で、普通科部隊から機甲科部隊までそろっていたが、まだ前線に出ていなかった。
東部方面総監部には、同方面隊指揮下に入るという噂が入ってきていた。
「まだ富士にいます。待機中らしいですが、現状、期待しすぎない方がいいでしょう」
何人かの幕僚が唸った。
噂とはいえ、装備も一級品であり、隊員も教導部隊だけあって能力も高い。
追い詰められつつある東部方面隊には、有効な戦力となるはずだ。
「あと問題は弾薬と燃料です」
作戦幕僚が苦い顔をして続けた。
「どこも戦うには心もとないです。民間企業が増産体制に入っているとはいえ、それでも数が足りません」
「海外の増援物資を待つしかないか……」
そういって総監は天を仰いだ。




