第2話 東京
総理の嶋田史郎が秘書官に起こされたのは、午前3時を回るころだった。
いつでもパリッとした背広をきた総理秘書官が事情を伝える。横にはまだ寝間着姿の細君がいる。
「新潟が!?」思わず総理は声を上げた
とにかく総理官邸の地下危機管理センターには、緊急参集チームが集まり、防災庁と内閣府が情報の収集に全力を努めた。
だが。
「新潟空港の滑走路をカメラが映したものです」
はじめはなんでもなかった。
しかし、突然、画面に半円の物体が画面を覆うかの数で出現した。
物体たちは増え、歩き、いつのまにか破壊されていた。
「物体のなかには光線のようなものも出す物体もあるようです」
国交大臣がいうと、水色の防災服を着た総理は、ええぇ、と驚愕の声を上げ、しばらく無口になり、前のめりになって、再び口を開いた。
「国民は? 新潟市民は?」
別の閣僚が手を挙げて、立ち上がった。
「現在、市内からの通信は途絶し、隣接する自治体からも次々と連絡が途絶えています。繋がっても、何かが襲ってきたと途絶するケースが多く……」
「それじゃあ……」
総理は深く椅子に座り込んで、沈黙した。
嶋田総理は両手で顔を覆い、目は閉じていたが、しばらくしてスッと目を開けた。
「防衛出動だ」
一部の政治家や官僚から、総理、と声が上がった。
何せ最高レベルでの自衛隊出動、武力行使を前提とした攻撃に、その対象を国やそれに準ずる勢力としている。
そして、この防衛出動の発令は誰一人行ったことがない。
「我が国の状況は危機的状況にあって、しかも相当な速度で進んでいる。そして、その災厄の進行を遅らせたり、止まらせるのは自衛隊しかないと考える」
防衛大臣、というと、大柄の男が若干困り顔で数歩前へ出て返事をする、
「全ての自衛隊は武力行使が可能な状態で待機。また敵勢力が迫っている部隊には、状況に応じて武力攻撃を行え」
「総理!」
防衛大臣は思わず発声したが、それ以外に方法はなく、大臣も同様だった。
それを知ってか知らずか、総理はその発声を無視して続けた。
「敵と近隣の部隊、作戦行動可能な部隊は自衛や国民保護、もしくは作戦行動にのっとって出動。また敵の被害にあった、もしくは遭いそうな国民はただちに可能な範囲で救出せよ」
総理は深いため息をつき、椅子に深く座っていたのを前のめりに座った。
「他に……」
ボソッと、まるで悪魔の一声を放つかのような低い声で言った。
「他に必要なものはないか」
全員が黙った。必要なものだらけだからだ。
「武器! 弾薬! 燃料!」
若手官僚の一人が言った。
総理はゆっくり立ち上がって反応した。
「とりあえず民間企業に増産体制をただちに要請しよう! あとは米軍、それ以外に海外からの支援を要請する!」
外務大臣が、はい! と返事をする。
「他には!?」
総理がそう言った後、いくつかの単語が飛び交った。
総理は、秘書官にメモ帳にそれらを書かせる。
総理はふと耳にしたある単語を聞き返した。
「専門家ァ!?」
思わず、その声の主を見た。文科省の若手官僚だった。
「それは何の専門家だ?」
「て、敵に関する専門家です……」
別の官僚が言った。ベテランといった感じの男だ。
「SF作家や関係者を集めるのはどうでしょう? 彼らは想像力に長けており、未知の生命などにもそれなりに詳しい」
総理は頷いた。
「じゃあそういう人物をリストアップして、至急招集だ」
彼は横にいた秘書官のメモ帳をみて、うん、と頷いた。
「とりあえずこれ以上のほしいものは打ち切りだ。自衛隊は防衛出動。敵の動向を監視、交通規制や避難民の誘導、その他もろもろ動いてくれ! 何かあれば俺に伝えてくれ!」
総理はドカッと座って、声を大きめにして言った。
「俺はここにいる!」




