悔いを残さぬように
執事の姿を認めたアンシーは、彼の方へと指先を向けるが──、
「アンシー、そいつはいい」
「左様でございますか」
俺の指示で、アンシーは戦闘態勢を解除した。
執事は俺達の能力を見ているので、秘密保持の為に消す選択肢もあるのだが、今回は絶対に勝てない相手だと分からせる為にも、彼には生き証人になってもらう。
「まあ、完全に敵対しないとは言い切れないから、顔は覚えておいてくれ」
「はい」
「く……」
震え上がり、後ずさる執事。
「そんな訳だから、夫人にはよろしくお伝えください。
なお、敵対するのなら、この屋敷と彼らのようになりますので……。
理解したら帰ってもいいですよ」
帰ったら全力で夫人達を抑えてくれよ?
「か……かしこまりました」
そして執事は、門の外に待たせていた馬車に乗り込んで帰っていく。
俺も帰りたいところだが、この四肢を失った状態を、あの3人娘には見せられないなぁ。
多分、卒倒すると思う。
魔力が回復したら、新たに義手と義足を作り直せるが……。
すぐには無理だな……。
「アンシー、暫く身を隠せる場所に俺を運んでくれ」
「はい、坊ちゃま」
あとは回復してから寮に帰れば、一件落着だ。
……そのはずだったのだが……。
俺はタカミ商会の、店舗兼住宅へと運び込まれた。
今はアンシーの指示で、従業員も身を隠しているので、無人らしい。
ここならば、「変換」の材料もあるので都合がいい。
これで一安心……と、思ったのだが……。
何故かアンシーは、俺を抱きしめたまま離してくれない。
「あの……アンシー?」
「坊ちゃま……私、この命が無くなりそうになった時、酷く後悔しました。
もっとやりたいことをしておけば良かった……と」
「そ、そうだな。
悔いを残すのは良くない」
俺は一般論として答えたつもりだったが、アンシーは言質を得たとばかりに微笑む。
「え……あの……は?」
アンシーの顔が近づいてくる。
「~~~!?」
そしてついには、彼女の唇が俺の唇を塞いだ。
その後、手足が無い所為で抵抗できなかった俺は、滅茶苦茶弄ばれた。
……まあ、手足があっても抵抗はしなかったかもしれないが……。
戸惑いはしたが、あんな情熱的な求愛に抗えるかよ。
それにアンシーの心が本物だと、確信できたことも嬉しかった。
あんな行動は、「変換」で作られた疑似人格にできる訳がないだろうしな。
それにしても、こんなことで、自分が女だと実感するとは思わなかったわ……。
男よりも強い快感があるとは聞いていたが、マジだったよ……。
もうアンシー無しじゃ、生きていけないかも……。
その後、思わぬ消耗をしたものの、なんだかんだで満ち足りたので、回復は思いのほか早かったぞ。
そして義手と義足を作り直したが、材料が男達の死体だけでは足りず、商会の在庫を使ってもフルスペックの物は難しい為、当面の間は以前よりも性能が落ちた物で我慢するしかなさそうだ。
いずれはもっと性能の良いものを作って、換装しよう。
で、3日ほどで無事に寮へと帰ることができたが、私達のことを心配していた子達には、思いっきり泣かれてしまった……。
それでも取りあえずは、平和が戻ったといえる。
……なんか公爵家の持ち家が消滅したとかで、王都は騒ぎになっているけど、俺には関係無い話だ。
エエ、ゼンゼンカンケイナイデストモ。
「ふぅ……」
でも、耳に入るとちょっと心がざわつく。
また厄介事の種にならなければ良いが……。
「ああ……姉様の物憂げな顔、美しい……」
「確かにそうだけど、なんか色気があるね……。
なんかあったのかしら……」
「まさか行方を眩ませていた間に、殿方を知るようなことがあったのでは……!?」
……寮の食堂──カフェみたいな雰囲気の所だが、そこでお茶を飲んでいる俺に対して、3人娘が遠巻きに噂をしている。
ちょっと聞き捨てならないことが聞こえてはたけど、男はまだ知りません。
前世的にはある意味知ってはいるが、今後も物理的に知るつもりはない。
……ただ、女は知ったけどね。
というか女にされたけどね。
だけど、そんなことは言えないわなぁ……。
知らんぷりしておこ。
俺が何も言わなければ、真実なんて分からんからな。
でもできれば、態度にも出すべきでは無かった。
だけどアンシーを意識すると、つい顔に出てしまう。
その辺はアンシーを見習うべきなんだろうなぁ。
……だが俺の隣に立った彼女は何事も無かったかのように、しれっとすまし顔をしているのが解せぬ。
前々からその傾向はあったけど、徹底してクールだよなぁ。
でも夜だけ激しいのは狡いよ……。
「ご、ご主人様!」
暫くするとミミが、慌てた様子で食堂に駆け込んできた。
「どうしたのですか?
騒々しいですよ」
「あの、書状が!
王宮からだべ!」
……嫌な予感しかしないな……。
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