上げて落とす
俺は大勢の女子に囲まれていた。
あの変態と同じような状態だが、囲んでいる娘達の反応は違う。
それぞれが憧れとか恋慕にも似た視線を向け、キャアキャアと語りかけてくる。
俺、聖徳太子じゃないから聞き分けられないわ。
あの後、気絶した変態を縛り上げて官憲に引き渡したことで、下着泥棒事件は決着となった。
その功績を学校中から褒め称えられているのが、現在の状態である。
「そう、素晴らしいのですわ、お姉様は!
あの悍ましい物体を相手に、勇敢に立ち向かったのですから!!」
「うん……姉様は素晴らしい」
「なんでクレアちゃんが自慢げなの……?」
そして囲みが解けても、例の3人娘は俺の後についてきて、賞賛を繰り返している。
このやりとり、何度目だ。
あまり褒められると、何かのフラグなのではないかと不安になる。
それに俺としては、1人の男を女にしてしまったかもしれないので、少し罪悪感があるな……。
まあ、回復魔法をかければ、男性としては一命を取り留めることができるだろうけど。
「そんなことより、危険だと言っておいたのに、あの場に来てしまったあなた達は問題ですね。
それに何故、他の子達を止めなかったのです?」
「そ、それは……」
「あんな大勢の子達は無理だよぉ」
「私はお姉様の勇姿をこの目に焼き付けたく……ではなく、心配のあまり……!!」
それぞれに言い分はあるのだろうけど、言いつけを守る努力をする姿勢が無いのは駄目だな。
そもそもセリエルは論外だし。
感情にまかせて暴走する狂犬かよ……。
「あなた達、暫く謹慎ですね。
街に出ては駄目です」
「「「ええぇ~!?」」」」
3人は不満そうだったが、結果的にこの判断は正解だった。
数日後、学校の周囲で不審者が目撃されるようになったからだ。
……なんで?
あの変態の仲間が、報復に動いているとか?
これはちょっと調べてみないと、駄目かもなぁ……。
また変な事件が起こってしまっては困る。
学校の対策はあまりあてにならないし、官憲への報告がてら、あの変態の情報を聞いてみようか。
「それではミミ、寮での警戒をお願いします。
何かあった時は、妹達を守ってください」
「ハイです」
俺はミミに寮のことを任せて、アンシーと出掛ける。
官憲の詰め所に着くと、俺は受付に要件を告げた。
そして応接室へと案内されることになったが、その際に受付と他の者が視線で会話しているのが見えた。
……なんだ?
お茶でも用意しろという、そんな合図?
一応俺も貴族だから、扱いを間違えないようにする為の確認だろうか?
でも特別扱いは無く、15分ほど待たされた。
お茶も出ないのかよ!
その後、応接室に担当者が来たので、あの変態の現状について聞こうとしたのだが──、
「は?
釈放された?」
担当者からは、予想外の答えが返ってきた。
下着泥棒は比較的軽い犯罪だから、数日で釈放というのは有り得ない話ではないのかもしれない。
だがそれは、平民相手に限った場合の話だ。
貴族令嬢達の下着を盗み、辱めた男が、そんな軽い罰で済むはずがない。
最悪、死罪も有り得たはずなのだ。
「そんなこと、ある訳が……」
「そう言われましても、上からの命令でして……」
命令?
あの変態、お偉いさんの関係者だったのか?
「その上とは何なのですか?」
「言えません」
「子爵家当主からの命令でも?」
「はい」
担当者は変態の釈放を命じた者に付いて、喋ることを拒んだ。
官憲とはいえ平民──。
その平民が貴族の命令に背くということは、もっと上の貴族が絡んでいるってことだよな……。
「え~、これでその件に関して、私から話せることは以上です。
それで……丁度良かった。
あなたは彼の者を捕らえた、タカミ子爵閣下本人でしたよね?」
「はぁ……。
そうですが?」
ん?
担当者が突然話を変えたぞ。
「あなたには捕縛命令が出ています」
「なっ!?」
アンシーが気色ばむが、俺は彼女を手で制した。
まずは話を聞こう。
「は……?
どのような理由でですか?」
捕まるようなことをしたという、心当たりが無いのだが。
「貴族の子息への、暴行罪と聞いています」
「それは……」
あの変態がその貴族の子息だったというのなら事実ではあるけど、それを行うべき正当な理由はあった。
でも、今それを言って解決するのなら、そもそも最初からこんなことにはなっていないだろうな。
犯人の引き渡しの際に、経緯は話してあるし。
ん~……。
こりゃ、変態の親だと思われる上級貴族に、睨まれたか。
「お嬢様、部屋の外に
多くの気配が……!!」
その時、アンシーが俺に耳打ちした。
直後、複数の男が部屋に入ってくる。
「大人しくしろ!
逮捕する!!」
「お、お嬢様っ!!」
「アンシー、ここは抵抗しないで。
捕縛命令が出ているのは私だけのようですから、あなたはこのまま帰ってみんなにこのことを伝え、そして何があってもいいように備えてください」
「し、しかし!」
アンシーは納得していないようだが、ここで暴れて彼女まで捕まってしまっては、余計に状況は悪化するだろう。
「私なら大丈夫ですから」
俺1人ならどうとでもなるけれど、アンシー達や商会も巻き込むようなことになったら、収拾が付かなくなる。
ここは様子を見て、相手の動きに合わせて対応を考えた方がいいかな?
……だが、この俺の判断は間違いだった。
ここを強行突破し、関係者を連れて王都を出るくらいの果断なる判断と覚悟が必要だったのだ。
ここで甘い対応をしなければ、あんなことにはならなかったのに……。
いつも読んでいただきありがとうございます。




