もう1つの侵入
俺はクロムスタと商品の受け渡しをする為に、王都の外へと出ることにしたが、クロムスタが転移魔法を使えたので、それは一瞬だった。
……いよいよ王都に侵入し放題じゃないか。
さすがに王城とか重要施設には、何らかの対策をしていると思いたいが……。
というか、クロムスタがその気になったら、俺はいつ拉致されてもおかしくないな……。
その後、ちょっとした丘を越えて、王都からは絶対に見えない場所へと移動した俺は、そこで音響兵器を「変換」で作成する。
これは音波による攻撃を行う兵器だ。
その昔、亡国の大使館が、この音響兵器による攻撃を受けたという疑惑が生じた事件があったなぁ……。
で、普通の音だと四方八方に広がってしまうが、この音響兵器ならば狙った方向にだけ音を飛ばすこともできる。
そして強い音波によって、相手の耳や脳などにダメージを与えることが可能だ。
まあ、さすがに命を奪うほどの威力にはならないが、根性で耐えられるようなものでもないので、敵を追い払う為には有効な兵器だと思う。
仮に耳が聞こえない人間が相手だとしても、音波から生じる振動自体は無効化できないから、人体の内部に少なからず影響を与えられるし。
ちなみに出力を弱めて使えば、普通のスピーカーとしても使えるらしい。
ただ、今回は試験的な運用になるだろうから、音響兵器は2機だけでいいかな。
それが完成したら左の義手でアクセスして使用方法を理解し、それを紙に書き留める。
「詳しい使用方法はここに書いてあります。
動力源は太陽光で充填できるようにしてありますから、夜間に使用してエネルギー切れになったら、朝になるまで使えませんのでご注意を」
この音響兵器には、ソーラーパネルを組み込んだ仕様にしておいた。
そうしないと1回使っただけでエネルギー切れになってしまい、もう使えないということにもなりかねない。
まあ、少々充填に時間がかかるだろうから、使い勝手は悪いかもしれないが、いちいち俺が魔族領に行って、「変換」でエネルギーを充填して回る訳にはいかないからな……。
「はは……目の前で見ていても、意味が分からないですね、あなたの能力は……」
クロムスタが引き攣った表情を浮かべているけど、能力的にはこいつも侮れないんだけどなぁ。
万が一戦闘になるようなことになったら、出し抜かれる可能性もあると思っている。
できれば敵対したくないものだ。
「それでは、実際に試射したいと思いますが、何処かに魔物の群れでもいればいいんですけどね……」
「ふむ……捜してみましょう」
その後、ゴブリンの集団を見つけたので、1kmほど離れた場所から狙い撃ちをしてみる。
最初は何が起こったのか分からず、混乱した状態で右往左往していたゴブリン達だったが、やがて音波による攻撃に耐えきれなくなったのか、散り散りになって逃げ出した。
「これだけ離れた距離でも、効果があるのですか……」
クロムスタもその性能には満足してくれたようだ。
そんな訳で、無事に商品の納品を終え、クロムスタからは報酬を受け取ってから別れた。
魔族の通貨は使い道が無いから、貴金属や薬品・食料などと物々交換だ。
人間の国で売れそうな物は、支店に納品して、俺は寮へと帰った──のだが……。
「……?」
なんだか騒がしいな。
普段は自室にいることが多い生徒達が、廊下に出て不安そうに何事かを話し合っている。
何か事件があった?
まさか誰かが、巻き込まれていないだろうな?
俺はアンシーに詳細を聞く為に、急いで自室へと向かった。
するとそこにはアンシーだけではなく、アリサやクレア達も集まっていた。
「ど、どうしたのですか!?
何があったのです!?」
「あ、お嬢様、お帰りなさいませ。
大変です、寮に侵入者が!」
侵入者!?
クロムスタに続いて、こちらでも!?
おいおい、この国のセキュリティーはどうなっているんだ!?
「そ、それで被害は!?」
「それがその……」
アンシーが言いよどむ。
アリサとクレアも、掌で顔を覆っている。
え……一体何が?
「本当に何が起こったのです!?」
「あの……大変言いにくいのですが……。
洗濯物が盗まれました……」
「は?」
洗濯物?
「それも下着を中心に……」
「恥ずかしい……」
「なんであんなものを……」
「は?
下着?」
下着泥?
それってつまり……。
「普段は私が警戒しているので、盗めるような隙は無かったのですが、今日は外出していたので、その隙に……。
勿論、お嬢様のもです」
「は?」
俺は呆然とする。
元男としては想定していなかった事態だ。
だが──、
俺のパンツ、盗まれたの!?
それを認識した瞬間、訳の分からない感情が俺を襲った。
これ……どう反応するのが正解なんだ……。
怒れば良いのか、恥ずかしがればいいのか、それとも呆れれば良いのか、理解しがたい事態の所為ですぐには分からなかった。
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