純粋な悪意
魔族のクロムスタが、王都に現れた。
しかも堂々と。
彼女の正体を知られたら、王都は大混乱に陥るだろうな……。
まあ、人間にしか見えない外見から、クロムスタが魔族だと見抜ける者はまずいないだろうけれど、どこの誰に会話を聞かれているか分からないので、これは目立たない場所に移動した方がいいだろう。
「他人の目が無い宿にでも行きましょうか」
「宿ですってぇ!?」
素っ頓狂な声を上げて、なんですかねセリエルさん?
「まさかお姉様、その御方と逢い引きを……っ?」
なにを考えているんだ、このピンク脳ドリル。
そもそも、クロムスタは女性だぞ。
そして認めたくはないが、俺も今や美少女だ。
どこに色恋沙汰へと発展する要素があるのだ?
いや、特定の界隈ではあるのかもしれないが。
「違います。
商談です」
「それでは、私もお供を……」
「あなた達は、先に寮へ帰ってください。
ミミ、護衛をお願いします」
「そんな……!」
セリエルはまだ食い下がろうとしたが、子供の我が儘に付き合っている場合じゃないんだよ。
「いい子だから言うことを聞いて……。
後でご褒美をあげますから」
「ご褒美……!
あのビリビリするのですの!?
分かりましたわ!」
セリエルは恍惚とした表情をした。
電気ショックは、一般的にご褒美にはならないんだぞ?
もう完全に駄目だな、この子……。
アリサやクレアも引いた目で見ているが、セリエルのことは君達に任せるわ。
頑張って寮に連れ帰ってくれ。
その後、俺とクロムスタの2人きりで宿へと向かう……ということにならず、アンシーが特別な理由も無しに俺から離れるはずもなく、3人で向かった。
「え~と、今回あなたがここに来のは、教国の関係ですか?」
「そうです」
クロムスタは頷いた。
俺も取り引き相手のことを、一応調べている。
現在、魔族が生活している地域に対して、積極的に侵攻しているのはカトリ教国という宗教国家だ。
教国が国教としているカトリ教は人類至上主義を掲げ、亜人や魔族を滅ぼすべき不浄だと断じている。
つまりカトリ教か魔族のどちらかが滅びない限り、この争いは終わらない。
カトリ教が融和的な方向に教義を変えれば話は別だが、おそらく時代が変わらなければそれは無理だろうな……。
それはどれだけ先の話になるのだろうか。
「ここの所、我々の抵抗が強まっていますから、向こうもムキになったのでしょうね。
攻撃が激しくなっています」
「あ~……」
たぶん教国にとっては、魔族の駆逐は正義の行いだという認識なのだろう。
その正義が、遂行できていない。
それは自分達の存在異議すらも否定する、「悪」だと感じているはずだ。
だから彼らは、なんとしても自らの正義を押し通そうとする。
純粋に──ひたむきに──それが悪意だと自覚が無いままに。
まあ、魔族にだって魔族至上主義の者はいたし、一方的に被害者だとも思わないけれど、正義を振りかざす教国の方が危険かな。
自分が正しいと信じて疑わない連中は、必ず他者にその思想を押しつけて犠牲を強いるからな。
いずれはこの国にいる亜人に対しても敵意を向けてくるだろうし、そうなると身内にエルフやドワーフや獣人がいる俺としては他人事では無くなる。
そうなる前に教国の勢力を削っておいた方がいいのかもしれない……が、それって教国に大きな打撃を与えるってことだから、沢山の人間が死ぬことになるだろう。
兵器などで打撃を与えれば、物理的に人が死ぬ。
経済的に打撃を与えれば、貧困で人が死ぬ。
だから説得で争いを止めることができれば1番いいけど、それができるのなら戦争なんてとっくにこの世から無くなっている。
難しい問題だねぇ……。
でも、今更な話ではある。
俺が魔族に防衛装備を供給しているから、戦いが激化している側面もある。
だが、俺か何もしなければ、一方的に魔族の犠牲者が増えただけかもしれない。
だからそんなに間違ったことをしているつもりも無いが、簡単に割り切れることでもないな……。
いずれは俺自身が、本気でこの問題に立ち向かわなければならない日がくるかもしれないが、今は魔族に提供する装備を一段階上のレベルへと引き上げるだけにとどめよう。
「それでは今回もスタングレネードと、対人地雷を納品しますね」
対人地雷は人が即死しない程度の、小さな威力に調整した地雷だ。
この世界の回復魔法を使えば、足くらいは生えてくるので、取り返しが付かなくなるようなことは滅多に起こらないだろう。
そういう意味では、提供する俺としても気分は楽だ。
まあ、治療を受けるまでは、兵士の動きを止めることができるので、魔族が追撃すれば死人はでるだろうが……。
それは戦いである以上は避けられないことだから……と、自身に言い聞かせないとやってられない。
「それと、大きい物も運べますか?」
「はい、『空間収納』があるので、馬車数台分なら大丈夫ですよ」
俺ほどじゃないけど結構凄いな。
俺の容量は多分無限だ。
「それでは目立たない王都の外で、受け渡しをしましょう。
そこで使い方も教えます。
アンシー、少し帰りが遅れると、寮の方に断りを入れてくれませんか?」
「……」
アンシーは無言で抵抗の意思を示す。
俺を魔族と二人きりにすることが、彼女には心配なのだろう。
しかし明確に「嫌だ」と言わないということは、必要な手続きであるということも理解している。
連絡も入れずに帰りが遅くなったら、あの3人娘が確実に騒ぐし……。
「分かりました……。
どうかお気を付けて……」
そんな訳で、アンシーを先に帰らせて、俺は王都の外へ出ることにする。
「ところで、何を提供していただけるのですか?」
「いつも通り、直接敵を倒す物ではありませんが、音響兵器を考えています。
スタングレネードを更に高性能化させて、音での攻撃に特化させたものです」
クロムスタの問いに、俺はそう答えた。
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