露見する正体
アリサの話によると、学校内で私物を隠されるとか、机にゴミを置かれるなどの嫌がらせを受けているようだが、彼女本人への直接攻撃は無いらしい。
しかも頻度もそれほど多くはないし、隠された物もすぐに見つかるような場所にあったので、そこまで悪質なものではなかったようだ。
それでも被害を受けた方は嫌な気持ちになるし、それは犯人が自らやめるか捕まるまでは続くことになる。
う~ん……。
おそらく犯人は、イタズラ程度の軽い気持ちでやっているか、あるいは気が小さくてあまり過激なことが出来ないタイプか……。
だとすると、ドリルお嬢様のセリエルは違うな。
あいつはもっと陰湿なことをするタイプだと思う。
今のところそういうことをしてこないのは、家が寄親にあたるマルドー辺境伯家の次女・コリンナが抑えてくれているからなのだろう。
ともかく現状では、犯人の正体は分からない。
となると……。
「直接犯行現場を、押さえるしかないですね……」
「……どうやってですか?」
俺の発言に対し、アンシーが首を傾げる。
「おそらく犯人は、アリサ様と同じクラスの人間でしょう。
教室内でアリサ様がトイレに行くなど、隙を見せた時に犯行が行われているはず。
クラスが違うお嬢様では、対応できません」
「それは……授業を休んで、監視するとか……」
「そんなことで悪評が立ったら、余計に状況が悪化しますよ。
私達メイドも学校内での護衛は可能ですが、基本的には授業中の教室へは入れませんし、行動の自由も制限されます。
アリサ様が教室を出たら同行しなければ怪しまれますから、単独での調査も難しいでしょう……」
うむぅ……。
確かに授業をサボることで悪評が立てば、さらに俺に対する陰口が増えるかもしれない。
そしてそれが、アリサへと波及することも……。
そしてメイド達に監視させるというのも、アリサと行動を共にしなければならないのならば、犯行現場を押さえるのは難しい……と。
「いっそ、机とかに罠を仕掛けられれば……」
「……犯人を殺す気ですか?
というか、他の生徒にも被害が及びますよ……」
ですよねぇ……。
「だ、大丈夫だよ、エル。
私が頑張って上のクラスに行けば、無くなるかもしれないし」
「アリサ……」
確かに犯人とクラスが別になってしまえば、犯行が行われなくなる可能性はある。
それに俺と一緒のクラスなら、警戒もしやすい。
しかし同じクラスになれるまでには、結構な時間がかかるだろう。
俺がわざと落第点を取って、アリサと同じクラスに落ちるべきか……?
いや、そもそもアリサには他に友達がいるのだろうか?
俺にもいないけど、俺は元々男で大人だから女子と友達になるのは難しいし、欲しいとも思わないが……。
でもアリサには、同年代の友達で味方になってくれる人が、他にいてもいいと思うんだよな。
まずはその辺から、考えなければいけないのかもしれないねぇ……。
「取りあえずコリンナ様に、相談してみるとしましょう。
セリエルは論外ですが、他の寄子へ働きかけてもらえるかもしれません。
あとは……あまり期待できませんが、教員にも報告してみますね」
「そ、そうだね……」
まずは貴族の子女の中に、アリサの仲間を増やすのが最優先だな。
そして教師は……貴族同士の揉め事へと、積極的に首を突っ込むとは思えない。
複雑怪奇な貴族の勢力争いに関わると、どのような結果を招くか分からないからな……。
まあ、言うだけならタダだから、対応してもらえるようにお願いだけはしてみるが……。
それと俺のスキルでどうにかできないか、それも検討してみよう。
防犯カメラのような物は作れないが、そういう機能を持った武具ならば作れる可能性はあるからな。
ただし、犯人に気付かれないほど小型化させるのはちょっと難しいので、そこが問題ではあるが……。
「あ~、疲れた~」
あれから俺はできる限りの対策をする為に、あちらこちらへと足を運び、それが終わったらアリサを慰める為に、ちょっと豪華な外食へと出掛けた。
美味しい物を沢山食べたら、多少は気が紛れるからね。
ついでに好きな物を買えば、ストレス発散にもなる。
ただ、普段の生活とは違うことをするとやっぱり気疲れし、自室に戻ったら一気にそれが襲ってきた。
で、ベッドに転がって、そのまま一眠りしてしまった訳だが……。
「む……」
「目が覚めましたか、お嬢様。
また眠る前にお風呂に入ってください。
丁度いい時間ですよ」
目覚めた俺に、アンシーが入浴を促す。
「ああ、そうだな……」
元日本人としては、風呂には毎日入っておきたい。
ただ、女子寮の大浴場を使うのはなんだか罪悪感が凄いので、終了時間ギリギリの利用者が殆どいない時間帯を狙って入っている。
とはいえ、いつもアンシーが俺の身体を洗う為についてくるので、俺1人で入浴することはまず無いが。
アリサとミミが一緒の時も多い。
しかしアリサはもう眠ってしまったというので、今日は俺とアンシーだけで行くことにした。
「あ……誰かいる……」
脱衣所のロッカーが使われている。
浴室に先客がいるな……。
この時間帯に人がいるのは珍しい……。
でも、俺が元男だって知っているのなんてアンシーくらいしかいないし、堂々としていれば何も問題は無いはずだ。
よし、入るぞ。
「え……」
しかし浴室に入った瞬間、先客と目が合った。
一瞬だけ呆気にとられた表情をした先客だったが、次の瞬間には劇的に顔を紅潮させ、そして自身の身体を手で隠すような動きをする。
その挙動は、まるで男に裸を見られたかのような……。
はは、まさかね……。
しかし──、
「な、なんであなたみたいな人が、女子校に入学しているのよっ!!」
そう叫ぶなり先客は、俺の横をすり抜けて逃げるように脱衣所へ走り込んだ。
その反応を見る限り、どう考えても俺の正体に気付いている。
「どうしよう、アンシー……。
正体がバレちゃったかも……」
俺は縋るような目でアンシーを見る。
しかし彼女は、落ち着いた態度を崩さずに告げた。
「いえ、あれはアーネスト坊ちゃまの妹である、クレア様だと思いますが……」
「あ」
そういえば俺には妹がいた。
既に絶縁状態の実家は男爵家だから、妹がこの学校に通っていても不思議じゃないのか。
……って、あれ?
もしかして、今まで俺を監視していた謎の視線の正体って、俺のことに気付いていた妹のものだった……!?
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