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ウサギ(ロップイヤー)型獣人のミミをメイドとして雇用してから、1ヶ月が経った。
ろくに能力もテストせずに外見だけで採用したので、その働きぶりはどんなものかと思っていたが、少々ドジっ娘の傾向があるという、ある意味外見を裏切らないものだったよ……。
なんだかいかにも田舎育ちで、ぽや~っとしているもんなぁ。
まだ15歳で、人生経験が足りないというのもあるのだろう。
ただその一方で、銃撃の能力はかなり高いらしく、いざという時には戦闘要員としての働きも期待できる。
というか、草食獣なのに狩人の才能があるのか……。
そして更に、彼女の長所はある。
「ねえ、ミミさん。
その耳を触ってもいいですか?」
「ほへ?」
このロゼーカンナ市に来てから獣人を初めて見たけど、この世界においては大都会ともいえるこの街でもその数は少なく、出会うことは希だ。
俺は見かける度に、あのモフモフの耳や尻尾を触ってみたいと思っていた。
しかし見ず知らずの相手に、いきなり「触らせてください」なんて言ったら変態扱いされかねない。
今の女の子の姿なら、無邪気な好奇心からくる行為だと、セーフ判定される可能性もあるが、やはり赤の他人相手ではちょっと礼を失する。
だが、親しい相手ならば?
この1ヶ月で、ミミとはそれなりの信頼関係を築いてきたと確信している。
だからこれは、雇用主の権力を振りかざした強制的なパワハラ&セクハラ行為だとは、ミミも思わないはずだ。
あくまでも親しい主従の間での、スキンシップなのだよ!
「え……おら……いえ、私の耳をですか?」
「前から触り心地が良さそうだと、思っていたのです」
前=面接の時だが、別に触る為だけに採用した訳じゃないぞ。
メイドの増員が欲しかったのは事実だし。
ただ、ミミには付加価値があった──それだけだ。
「う~ん、耳や尻尾は、恋人とかにしか触らせてはいけない習わしなのですが……。
ご主人様は女の子だからいいですよ」
同性はセーフ!
よし、この調子で親睦を深め、いずれはバニーガールの衣装を……ゲフン。
「では、この椅子に座ってください」
俺はミミを椅子に座らせ、後ろに回り込んで両耳に触れる。
「ふわっ……!」
ミミの身体が、少しだけピクンと跳ねる。
耳が敏感なのかな?
それならば優しく触ろう。
おお、サラサラの毛並み。
実に手触りがいい……!
確か耳とその周辺って、血管がやリンパ管が集中しているんだよな。
マッサージをして、血行をよくしてやろう。
眼精疲労や肩こりに効くはずだ。
俺は耳全体を、揉みほぐしはじめた。
クニクニコリコリとした感触が、なんとも心地良い。
「お客さん、こっていますねぇ。
気持ちいいですかぁ?」
「な、なんの遊びだかぁ……?」
ミミの素の口調が出ているということは、取り繕う余裕が無いほど効果があるということなのだろう。
ついでだから、頭皮マッサージや肩もみも追加するか。
「ご、ご主人様、そこはしなくても……!」
「まあまあ……。
ミミも初めての仕事続きで疲れているようですから、これでリフレッシュして元気に働いてください」
俺は従業員を大切にする雇用主なのだ。
体調管理にだって気を使うぞ。
そして暫くすると、グッタリとしたミミができ上がった。
上半身のこりを解きほぐした所為で、脱力してしまったようだ。
……やりすぎた?
「何をなさっているのですか、お嬢様……?」
「ひっ!?」
いつの間にかアンシーが背後にいた。
俺が夢中になっていたというのもあるが、また気配を消すのが上手くなってる……!?
なんだか俺の護衛をする為に、銃の扱いとか色々な技術を磨いているらしいからなぁ……。
そして今の彼女は、気分を害しておられる。
俺はなにやら浮気を咎められているような、後ろ暗い気分になった。
「い、いや、ただ主従でスキンシップしていただけだから!」
それ以上でも以下でもない。
こんなのは、理髪店でしてくれるマッサージの延長みたいなものだ。
邪な感情なんて、入り込む余地は無い……無いよ?
「それならば……私にもしてくれないと、駄目ですよね?
むしろ私がお嬢様にしてあげましょう」
「え……はい。
じゃあ後で……」
他のメイドと、扱いの差をつけるなということか。
……あるいは、特別扱いしろということか。
いや、俺の中でアンシーは特別だよ?
しかしそれを態度として、言葉として出し足りなかったのだろう。
でも、照れくさいじゃん。
「それよりもお嬢様、お客様です」
「お客……?」
アンシーが部屋の扉を開ける。
その扉、アンシーが部屋に入ってくる時に、開け閉めした?
マジで音とかしなかったんだが。
それとは対照的に、扉が開いた瞬間、騒がしいのが入ってきた。
「エルー!!」
それはルエザリクさんの娘、アリサだった。
今年で10歳になる。
最近は俺のことを、エルネスタを縮めてエルと呼ぶようになった。
そんな彼女はこの家によく遊びに来るし、時には泊まり込んで入り浸るくらい、俺にベッタリだ。
実の姉のように、慕ってくれていると思う。
そのアリサは、勢いよく俺に抱きつき──、
「エル、一緒に王都の学校に通いましょう!!」
「何故、そうなりましたか!?」
よく分からないことを宣った。
この世界に義務教育とか無いし、それだけにわさわざ遠い王都の学校まで行く理由も無いのだが……。
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