逆らわない方がいい相手
そこに現れた女は、水色の肌に金色の長い髪と目の色を持っていて、全体的に黒く動きやすそうな服を着ている。
腰には剣を佩いているから、おそらくは剣士か……あるいは魔法剣士か。
って、その大きな胸で、剣が振れるのか!?
年齢はまだ十代に見えるが、魔族の寿命は知らないので、実際の年齢は分からない。
まあ、見た目は美少女だ。
少し気の強そうな顔付きをしているが、それでいて冷静沈着な雰囲気も醸し出している。
つまり、敵になるかもしれない俺達を前にしてもなお、余裕があるのだ。
そしていざとなれば、実力行使に出るタイプだと思う。
おそらく彼女は、そこに死体が転がっている魔族の仲間だろう。
「なっ……!?
魔族……っ!!」
突然出現した女に対して、アルク達が慌てて武器を構える。
しかし女は魔族呼ばわりをされても、平然としていて、特に否定もしなかった。
魔族で確定ということか。
できれば、よく似た別の種族──ということであって欲しかった……。
これはマズイな……。
「待ってください!」
俺は一触即発となりそうになっている、アルク達を止めた。
ここで戦いになって困るのは、俺達の方だからだ。
何せこいつには──、
「……ガスが効かなかった……?」
平然としている魔族の女を見て、俺はそう判断した。
だとしたら強敵だぞ。
しかし女は──、
「いや、効く訳ないだろ。
我はそなたらの後をつけてきただけだからな。
障害が全部排除されていたから、楽で良かったぞ」
「なっ……!?」
尾行されていたのか!?
全然気付かなかった。
そしてそれは俺達の隙を突いて、いつでも殺すことができたということでもある。
逆に言うと現時点でこの女は、俺達を殺すつもりが無いということか?
安心していいのか、それとも更に警戒した方がいいのか、よく分からない……。
こういう時は、直接本人に聞いた方がいいな。
「その……あなたはどのような立場で、この場にいるのですか?
そこで倒れている男の仲間……?
仇を討とうとしている……とか?」
「無い、な。
そやつは我の命令に背いた。
人間とはなるべく事を構えるな……と、布令を出しておいたのだがな……。
人間を敵視する勢力は、どうしても一定数存在するのだが……困ったものだ」
女は深く溜め息を吐いた。
ん……?
この人が本当のことを言っているのかは分からないけれど、敵ではないのか……?
というか、結構魔族の中でも偉そうなんだけど!?
布令を出すことができるという、政治的なポジション……。
まさか……魔王かその親族?
いや、これは聞かない方がいいな。
相手も自分が何者なのかは、たぶん言わないだろう。
魔王がこんな所にいたなんて事実を俺達が国に報告したら、たぶん大騒ぎになるし、今回のロゼーカンナ市への襲撃も、魔王の仕業だということにされかねない。
あ、だからか。
「あなたは今回の件に、魔族が関わっていたという事実を知られたくないのですね?
その為には、死体すらも残したくない……と」
「……そうだな。
こちらの不始末を隠すようで悪いが、このまま真相が広まれば、我々と人間の間で本格的な争いが起きかねん」
俺の指摘に、彼女は感心したように笑う。
見た目が幼女な俺が、人間達の代表のような形で彼女と会話しているからな……。
それは魔族の目から見ても、奇異な光景なのかもしれない。
「しかしそれでは、私達の存在は都合が悪いのでは?
我々があなた達のことを、報告するかもしれない」
そう、普通なら口封じの為に、ここで殺されてもおかしくない状況だぞ、俺達。
ヤバイぞ、俺達。
「いや、人間と事を構えるなと言っている我が言行不一致では、示しが付かないだろう。
ましてや子供に手をかけるなど、外道の所業。
そんなことはしない」
「……そういうことならば、我々は口を噤みましょう。
しかしそんな言葉だけでは信用できないでしょうから、魔術的な契約が必要なら、甘んじて受け入れます」
ここは全面降伏だな。
もしも戦いになったら、たぶん俺達の方が死ぬだろうし。
「いや、信用しよう。
そなた達とは、友好的な関係を築きたい。
特に幼いのに、強力で珍しい武具を使いこなすそなたとはな」
ほう、俺の価値に気付いたか。
ならばこのまま誘拐されてもおかしくない状況だが、彼女はそんなことをする様子は無かった。
どうやら誠実で、信用に値する人物のようだ。
「対等な取り引きならば応じますよ?
ただし、犯罪や人間との戦いに使うようなことは認めませんが」
「ちょっと、エルネスタちゃん……!」
エカリナさんが口を挟もうとしたが、俺はそれを手で制す。
彼女は「魔族との取り引きは、公になると人間社会での立場が危うくなる」と、忠告したいのだろう。
それは分かるが、俺の勘は魔族とのパイプは作っておいた方が良いと告げている。
ぶっちゃけ人間の中にも、俺の能力を利用とする信用できない奴はいるので、信用できる者ならば誰であろうと味方にしておいた方がいい。
「ふふ……愚か者の尻拭いで、こんな遠く後までくることになったが、エルネスタと言ったか?
そなたとの出会いを考えると、感謝せねばならないようだな」
と、女魔族は、転がっている魔族の死体へとめを向ける。
「む……?」
しかしその表情は、訝しげに歪められた。
え、何か問題が?
「おい、クロムスタ!」
彼女は虚空に向かって呼びかける。
すると、何処からともなく──、
「はっ、マグエアル様。
ここに」
「うわっ!?」
忍び装束のような衣装を纏った、短い赤髪の女が現れた。
不思議なことに、彼女の肌は人間と同じ色で、もしかしたら魔族ではないのかもしれない。
魔族に従う人間もいるということか?
それよりもちょっと待って。
お前、忍者か!? 忍者なんだな!?
手裏剣を今度作ってやるから、投擲を実演してほしい。
というか、護衛がいたのか。
こちらにも全然気付かなかった……。
やっぱり敵対しなくて正解だったよ……。
戦っていたら、不意打ちで一方的に負けていたと思う。
そして、魔族の女の名前は、マグエアル……と。
「クロムスタ、こいつは何か違うのではないか?
あまり顔を覚えておらぬのだが……」
そんなマグエアルの指摘を受けて、クロムスタという女は魔族の死体を覗き込む。
「……あ~、これは標的の弟ですね。
一応粛正リストには入っていますが、本命ではありません。
しかしこのダンジョンの中は一通り見て回りましたが、姿が見えないようです……」
ん?
つまりどういうこと?
「済まぬ、今回の事件を起こした者は、まだ何処かに潜伏しておる」
マグエアルは、決まりが悪そうに言う。
……ということは、そいつを排除しない限り、ロゼーカンナ市はまた襲撃されるってこと?
あるいは、国内の別の町が襲われる……ってこともあるのか。
それ、マズくね?
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