聖地へ
空中要塞はゆっくりと空を進んでいく。
いや、あまりにも巨大だから遠目にはそう見えるかもしれないけど、実際には自動車くらいのスピードは出ている。
勿論、地上の障害物が無視できるから、実際には自動車よりも効率よく進んでいるのだけどね。
このペースなら聖地がある山脈までは、1時間もあれば到着できるだろう。
まあヘリを使えば、もっと早く到着するのだろうけど、敵の本拠地に乗り込むのだから、戦力的にはこのままの方がいいと思う。
場合によってはこの要塞の威容を見て、相手が無条件降伏してくれるかもしれないしな。
そして暫くすると聖地があるという山脈が見えてきたのだが……。
「お嬢様、接近する飛翔体があります。
その数、およそ380!」
む、敵にこの空中要塞を察知されたか。
「アンシー、モニターに映し出してください」
「はい」
現状では風景しか見えていなかった巨大なモニターの中心が、拡大表示された。
そこに映し出されたのは──、
「あれは……!」
映し出された存在に対して、ミラが反応する。
「知っているのですか?」
「あの姿は、我らが神の眷属として、古文書に記されていたものです」
「神の眷属……」
しかしその姿を、俺はよく知っている。
基本は人型だが、頭部と下半身は山羊で、蛇の尾と背中に蝙蝠のような翼を生やした存在──。
「あれは異世界において、悪魔と呼ばれるものですよ」
「あ、悪魔!?
神の眷属が……!?」
うん、こちらの世界の魔族とはまったくの別物で、ガチの悪魔だな。
これはカトリ教国が崇める主神──その正体が見えてきたぞ……!
「おそらくあなた達が神だと信じてきたものは、神を騙る魔王の類いでしょう」
今まで戦ってきた教国の手先の中には、禍々しい姿の怪物も多かった。
それに教国が人間──しかも自国民すらも──や、多種族の命を軽んじていたのも、これで納得できる。
「そんな……まさか……」
ミラは、今まで信じてきた物を否定されて打ちのめされているようだが、俺の言葉を「嘘」だと一笑に付さないだけ、救いようはあるな。
子供だから単純というか、柔軟というか……。
これで狂信者的な反応を見せるようなら、本当に面倒臭いことになったかもしれないが、今のところそんな素振りは無さそうで安心した。
万が一反抗されたら、俺が作り替えた心臓が止まる……とか有り得るからな……。
ともかく、まずは迎撃だ。
「アンシー、対空砲火」
「はっ」
空中要塞の対空兵器が火を噴く。
一見、小口径のビームだが、一度に数百発も撃ち出しているから、撃ち漏らしは無いようだ。
ただ、さすが悪魔というか、ビーム一発程度では悪魔が形成した防御結界を突破できないらしく、何発も当ててようやく撃墜できる……って感じだ。
おそらく普通の人間には、まず倒すことができない防御能力だろう。
あんなのが世界に拡散したら、あっという間に人類は全滅させられるだろうな……。
「撃墜、49。
通常兵装では効果が薄いです。
それでも攻撃を続ければ、いずれは殲滅が可能ですが、効率は悪いですね」
「では、主砲で対応を」
「はい、それではエネルギー充填──」
「いえ、ちょっ待ってください、それ連射できます?
充填にどれくらいの、時間がかかるのですか?
対空砲火と並行して行えるのなら、続けてください。
攻撃に切れ目があるのは、危険な気がします」
「は、はあ……そうします」
なんだか嫌な予感がしてきた。
悪魔くらいの高位存在なら──、
「──っ!!
当要塞の直近に、敵影多数出現!!」
やっぱり転移魔法くらい使えるか!!
「通常兵装で対空防御!!
同時にバリアの展開いけますか?」
「主砲を中断すればなんとか」
「では、そのように」
転移してきた悪魔は、大半は対空防御で撃墜されたが、中にはその前に攻撃魔法を撃ち込んでくる者もいた。
おそらくその攻撃が直撃しても、そんなに大きな被害にはならないと思うが、一応バリアで防御してもらう。
「この神殿にの力は凄まじいですね……」
ミラが感嘆の声を上げた。
現地人にはこの要塞が神殿に見えるのか。
まあ、城っぽくはあるが……。
このまま難攻不落の天空城という、実績を積んでもらいたいものだ。
さて、悪魔も軒並み撃墜したし、あとは主砲で聖地とやらを吹き飛ばせば終わり……かもしれないが、さすがにそれは無粋か……。
そもそも、教皇たちが何にをしようとしているのかを知らないままだと、後々禍根を残す可能性もあるしな……。
まあそれと同時に、魔王の復活を阻むチャンスを失う可能性もあるが、今まで戦ってきた眷属の怪物達から察するに、倒せないほどの強敵でもないだろう。
「あれが聖地ですか?」
やがて山脈の谷間に、坑道の入り口のような物が見えてきた。
「はい、そのはずです」
それじゃあ……。
「アンシー、要塞はここで待機。
私とあなたで、直接乗り込みますよ」
「ええ、何処までもついていきます、お嬢様」
俺達にとって、最後の戦いが始まろうとししていた。
体調がやばたにえん……。




