故郷は今
「何っ、トースの小僧が!?」
「そんな……」
トースの死を告げられて、元パーティーメンバーであるドンガトとエカリナは衝撃を受けていた。
今は違う道を進んでいたとはいえ、かつては苦楽を共にした仲間なのだから当然の反応だろう。
そんな2人に俺は、1つの提案をする。
「色々とお仕事があるかと思いますけど、ここはひとつトースさんの為に、彼の故郷へ行ってご両親の安否を確かめませんか?」
「……そこにトースを死に追いやった者がいると?」
「その可能性はあると思いますが、確かではありません」
「可能性があるのなら、行く価値はあるな!」
と、ドンガトは自らの左掌に右の拳を打ち付け、パシッと小気味の良い音が鳴り響く。
「ええ、弔い合戦をしなきゃ、気が済まないわね!」
そんな訳で、2人も同行することになった。
その後、準備を整えた俺達はオスプレイに乗って、アルク達の故郷であるカプサタ村へと向かった。
俺に同行するのはアンシーの他に、当然アルク達冒険者4人、クレアとアリサ、そしてミミだ。
クレアとアリサは、トースから作った剣へ魔法を付与する作業をしてもらう為に同行してもらった。
空路とはいえ数時間かかるから、その移動時間を利用して作業をしてもらおうという訳だ。
ただ、やたらと頑丈な剣身に作ってしまったので、付与魔法の呪紋を彫り込むことができない。
なので柄の方を、加工してもらっている。
ミミは彼女達の護衛だ。
一方、ミーティアは領都に残って、俺の代理として領地運営をしてもらうことにした。
国内に教国人が侵入して破壊工作を仕掛けてくる可能性が高いので、その対策も考えてもらう。
元王女だから、政治能力は高いのよ。
そして静代さんとセリエルは、彼女の護衛だ。
というかセリエルは、航空機での長距離移動が無理なので……。
連れてきても現地に到着した頃には、乗り物酔いで動けなってしまうだろうし。
で、数時間飛行して、カプサタ村が見えてきたので、例によって離れた場所に着陸し、そこから村の様子を観察する。
敵が潜伏している可能性もあるので、まずはドローンで偵察だ。
「う~ん……?
のどかな村のように見えますが……。
アンシー、どうです?」
「現時点では異常を感じません。
動体検知センサーからも、大規模な伏兵は無いようです」
ふむ……。
敵はいないかもしれないってことか……?
「ここからでは異常は見つからないようなので、直接村に入ってみましょう。
クレアとアリサとミミはここで待機。
アルクさん、トースさんのご実家までの案内をお願いします」
「ああ、分かった……」
村へと向かうアルクの表情は硬い。
たとえ村に何事も無かったとしても、それはそれでトースの両親に、息子の死を告げなければならないからな……。
勿論、何もないのが1番いいのだが……。
俺達が村に入ると、人気は無かった。
……まあ僻地の限界集落なら、こんなものだろう。
そもそも人口が少ないのだ。
それに農村だから、離れた場所にある畑の方で作業しているかもしれないし……。
やがて誰にも会わぬまま、トースの実家の前へと辿り着いた。
他の家々と比べると少し裕福そうな佇まいなのは、トースが仕送りしていたからなのだろうか。
「中に動体反応があります。
敵の待ち伏せにしては、身を隠そうとしている気配がありません。
住人である可能性が、高いと思われます」
アンシーによれば、家の中に誰かいるようだ。
「じゃあ……いくぞ。
……ごめんくださーい!」
アルクは家の中へ呼び掛ける。
暫くすると、家の中から誰かが出てきた。
「はい……?」
「お久しぶりです、おばさん」
「お久しぶり……です」
「あら、アルクちゃんと、リーリアちゃんじゃない」
出てきたのは、40代くらいの女性だ。
これがトースの母親かな?
息子に似て、少し地味な印象の女性だった。
「お嬢様……妙です」
「え?」
アンシーは何かに気づいたようだ。
でも、見た目ではトースの母親に、おかしなところは……いや、あるな……。
それにはアルク達も気が付いたようだ。
「おば様……その手は……?」
リーリアが問う。
トースの母親の左手は、手首から先が無くなっていたのだ。
お前は俺か?
「ああ、これはちょっと怪我をしてねぇ……」
いやいや、怪我ってレベルじゃないだろ。
経験者として言わせてもらうが、それは「生きるか死ぬか」というレベルの大けがだし、めっちゃ痛いぞ。
何年も前の古傷ならともかく、最近できた大怪我で平然としているのはおかしい。
それにトースが言っていた。
暗殺を強要してきた人物から、人質になった親の手首を見せつけられた──と。
つまりその手は、この母親の物だったということだ。
この母親は、間違いなく人質になっていたはずだ。
それにも関わらず、彼女は平然としている。
これはどういうことだ……?
「彼女の体温は異常に低いです。
それに心音も感知できません」
と、アンシー。
それ、既に死んでいるってこと?
ゾンビじゃん!
ゾンビじゃなくても、グールとかヴァンパイアとかそんな感じの魔物じゃん!
ともかくアンシーの言葉で、冒険者達も一気に警戒態勢へと移行する。
その瞬間トースの母親は、穏やかだった表情を獣のごとく凶暴な物へと一変させ、襲い掛かってきた。
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