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言いたくなければ言わなくてもいい

 俺と静代さんは、アンシーの案内で暗殺組織の拠点へと案内された。

 ちょっと治安の悪そうな裏通りにある、一見普通の一軒家だった。


「シズヨニさんは、ここに来たことは?」


「無い……初めて来る……」


 幹部クラスしか知らない場所……ってことか。

 で、家の中に入ると、ロープで縛り上げられた男達の姿があった。

 こいつらが幹部らしい。


「ひっ……戻ってきた!?」


 男達が(おび)えた様子を見せる。

 アンシーはかなり派手に暴れたようだ。

 しかしそれでも──、


「い、いくら脅されても、何も言わないぞっ!!」


 俺の暗殺を依頼した者について問い詰めても、(かたく)なに情報を吐きそうになかった。

 まあ、裏組織の人間ならば、拷問に耐える訓練ぐらいはしていそうだし、痛みを与えて吐かせることは、難しいのかもしれない。


 とはいえ、暗殺組織の幹部として、数々の命を奪ってきた者達だ。

 彼らの生命に配慮する必要も無いし、かなり過激なこともできるが……。


 とりあえず暗殺者として……犯罪者としては、もう生きられないようにしようか。


 俺は「変換」で作り出したとある物を、幹部達の頭に取り付けた。

 それは鉢金(はちがね)──(ひたい)を守る防具だ。


「な、なんだ、これは!?」


「それは自力で取り外せないような、仕様にしてあります」


「こ……こんな物、道具を使えば──ギィっ!?」


「そういうことを考えると、内側に突起が伸びて頭に刺さります。

 他人に外させようとしても同様です」


 つまりこれは、孫悟空が頭に嵌めている輪──緊箍児(きんこじ)のようなものだ。

 悪さをすると、ペナルティで苦痛を与える。


「あと、犯罪行為をしようとすると、もっと深く突き刺さりますよ。

 あなた達はもう、2度と裏社会では生きられません。

 頑張って一般人として生きましょう。

 いつか真人間になった時、それは外れます」


 まあ、いい歳をした大人が生き方を変えるのは難しいので、更生できずに自滅する可能性は高いだろう。

 そもそも裏社会に生きてきたのなら、少なからず他者からの恨みは買っているはずだ。

 彼らが組織の後ろ盾を失い、一般人同然の存在になったと知られれば、確実に報復を受けることになる。

 数年後、生きている者が果たして何人いるだろうか……。

 俺の知ったことではないが。


 ……というか──、


「こっ……この程度のことで……っ!!」


 幹部の1人が俺の方に向かってくる。

 彼らを縛り上げていたロープは、「変換」の材料にした為に既に消えているから、俺に攻撃を仕掛けることは可能だろう。

 だが、何故(なぜ)あえてそのようにしたのか、その意味が分からない馬鹿は、見せしめになってもらおう。


 本人は多少の苦痛ならば、耐えられると思っているのだろうが──、


「かはっ!」


 男が倒れ、そしてそのまま動かなくなる。


「身を守る為の軽い反撃ならばともかく、殺意を持って人を害そうとすれば、突起が脳まで届いて即死します。

 勿論、他人に命じても……です」


「なん……だと……?」


 幹部達が息を飲む。


 暗殺者が人を殺せなくなる──それは彼らにとって、存在意義を否定されるようなものだ。

 精神的にはかなりキツイだろうな。

 だからこそ──、


「ただし、私の暗殺を命じた依頼者と、ここにいない幹部や暗殺者に対してだけは、例外とします。

 育成中の子供や情報屋程度の、組織と繋がりが弱い者は員は駄目ですが、他は好きにしなさい。

 それと、私にとって不都合な言動も、命に係わる結果になると忠告しておきます」


 ルールを緩めてやれば、そこに流される。

 こいつらが依頼者や他の仲間の情報を吐かなくても、放っておけばこいつら自身が勝手に始末してくれる……かもしれない。


 少なくとも彼らにしてみれば、「こんな話は聞いていない!!」だろうから、依頼者に対する恨みつらみはあるはずだ。

 俺の情報を正しく与えられていたら、喧嘩を売ろうとは思わないだろうからな。

 そして彼らが依頼者をどうにかしたとしても、俺に関する情報は吐けないようにしてあるから、俺が関与したということにはならないだろう。


 まあそのような結果にならなかったとしても、暗殺組織1つを使い物にならなくしたのだから、俺に敵対的な貴族に対する警告にはなるはずだ。

 

「それでは……目的も終えましたし、帰りますよ」


「ちょっ、待てっ!!

 俺達はどうすればいいんだ!?」


 立ち去ろうとする俺を見て、幹部達は慌てる。


「だから言ったでしょう?

 好きにしなさい……と」


「そ、そうしたら、この頭のを外してくれるのか!?

 そうなんだよな!?」


「さあ……どうでしょう?」


 俺は意味深な笑みを浮かべて、その場を去る。

 その後ろにアンシーと静代さんが続く。

 静代さんは、少し戸惑っている様子だった。


「あのような処遇では、不満でしたか?」


「いや……あいつらはいい気味。

 でも…………」


 静代さんは暫く躊躇(ためら)った後に、思い切ったように口を開いた。


「私の心臓も……?」


 それが不安なのか。


「ああ……。

 確かに悪いことをしたら止めるようにすることもできますが、そのような設定にはまだ(・・)していませんよ。

 そんなことをしなくても、あなたは悪いことはしないですよね?」


 静代さんを全面的に信用するほど、俺達は信頼関係をまだ築いてはいない。

 だけど組織から捨てられた彼女は、親から捨てられた俺と少し重なるものがある。

 だから彼女に作った心臓には、何もしていない。

 信じたいと思ったから。


「う、うん、私は裏切らない……!」


 まだ緊張した様子の静代さん。

 ……ちょっと脅してしまったような形になってしまったが、このくらいはいいだろう。

 親しくなっていけば、彼女の不安もいずれは解消されるはずだ。

 とりあえず静代さんの頭を撫でて、ご機嫌取りだ。


「にゅ……」


「お嬢様……」


 アンシーが物欲しそうな顔で見ている。


「アンシーは後でね……」


 まあ、全身を撫でられるのは俺の方だけどな!

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