夜に輝く光
私は42号。
新しく公爵になる少女の暗殺計画──。
私はそれに従事し、少女の監視と計画の成否を見届ける役目を請け負っていた。
しかしそれは失敗し、暗殺の実行役はあっさりと返り討ちに──。
監視役だった私は生き残ったけど、現場からは慌てて逃げ出すしかなかった。
ただ、尾行の可能性もあるから、真っ直ぐに拠点には戻らず、遠回りをしてなるべく痕跡を残さないよう、慎重に移動する。
あれが追ってきたら、勝ち目なんか無いし……!
そしてようやく拠点に辿り着く。
ただし本拠地ではない。
万が一にも組織の本拠地がばれることがないように、いざという時にはいくつもある仮の拠点で身を隠すことになっている。
そこで私は、計画の失敗を報告する為、コウモリの足に手紙を結んで夜空に放った。
小動物を操るのが、私の能力だ。
これで組織にも、詳細が伝わるはず……。
後は組織からの指示を待つだけだが、それが本当にあるのかは分からない。
このまま組織に見捨てられて、自分自身の力で生きていかなければならなくなる……そういうことも有り得る。
そうなったら、何処へ行こ──
「かっ……!」
えっ……なに?
胸から棒が生えて……これ矢……!?
私……組織に捨てられるどころか、消されちゃうの……?
私の意識は、暗い闇の中に落ちていった。
そして2度と浮かび上がることのないはずだった私の意識は、浮かび上がる。
ぼんやりとした意識の中、快さを感じた。
後頭部に柔らかな感触……これ何?
目を開くと、見知った顔があった。
「あ、目覚めましたね」
「!?」
暗殺対象だった少女の顔だ。
名前はエルネスタ・タカミといったか。
私、その子に膝枕されている!?
「驚かせてしまいましたか。
ふふ……尻尾の毛が逆立って可愛い」
「なっなっなんで!?」
私は飛び起きようとしたが、エルネスタは手でその動きを制した。
「まだ動かないでください。
新しい心臓が、まだ身体に馴染んでいないかもしれないので」
「新しい……心臓?」
何を言っているの?
新しい心臓……って。
でも、確かに私の胸に矢が刺さって……!!
「私が新しい心臓を作りました。
ちょっと特殊な心臓をね。
それがなければあなたは、あのまま組織の証拠隠滅の為に殺されていたでしょう」
「……!!」
心臓を作る?
そんなことできるの?
いや、私が今生きているのだから、できるのだろう。
それよりも、エルネスタが私を生かしている理由だ。
「何が目的で私を助けて……?」
「あなたに、組織の情報を話して欲しいのですが」
「……話すと思うのか?」
「あなたを裏切った組織に、義理立てする必要がありますか?」
「ぐっ……」
それは確かにそうなんだけど……。
「まあ、話したくないのなら、それでもいいです。
私はただ、小さな子供が命を落とすのが、忍びなかっただけなので……。
目的は達しました」
それだけの為に、私を助けたって言うの?
確かに私は年下かもしれないけど、自分も子供のクセして……。
「いえ……。
他にも組織に、あなたのような子供がいるのなら、保護したいですね。
その為にも協力してくれませんか?」
「それは……その……」
組織は私達の育ての親とは言えない。
だけど組織で一緒に育った子供達は、兄妹のようなものだ。
「みんなを助けてくれるの……?」
「私を本気で殺そうとしている相手ならば難しいかもしれませんが、私に従ってくれるのなら、今後は生活の面倒もみましょう」
「……分かった」
組織にいる子供達は、いずれ私のように使い捨てられるだけだ。
それならば、この人に懸けてみよう。
「そうですか。
良い子ですね」
「うにゃ!?」
エルネスタが私の頭を撫でる。
なんだか変な声が出てしまったが、その手の感触は心地いい。
こんな心が安らぐことは、初めてかも……。
「そういえば、あなたのお名前はなんというのですか?」
「……私に名は無い。
組織には42号と呼ばれていた」
「42……ですか。
ヨンかシ……フォー……?
ニ……フタ……ツー
シーツーはマズイか……。
じゃあ少し変えて……」
私に名前が無いことについて驚いた様子のエルネスタだったけど、すぐに何やら訳の分からないことを呟き始めた。
私にはよく分からない言葉が、混じっている。
そして───。
「あなたのお名前は、シズでどうでしょうか?
遠い国の言葉で『静かな』という意味があります」
「シズ……」
それが私の名前……?
「それに42を語呂合わせすると、『ヨニ』……やはり遠い国の言葉で、『夜に』とか『大層』という意味になります。
この言葉だけでは不完全ですが、『夜に輝く月のようになる』とか、『大層な成功を収める』とか、好きな意味を込めるのもいいでしょう」
自分で意味を……?
自由に決めていいの……?
そんなことが、許されるの……?
考えたこともなかった。
「そ、それなら私は、シズヨニと名乗りたいと思います!」
「え……それでいいのですか?」
「これがいいんです」
エルネスタは少し困惑したような顔になったけど、折角提案された名前だから、両方使いたい。
それにこの名前は、私に相応しい。
夜の闇の中で、静かに身を隠して生きてきた私に──。
そしてそんな私を照らし出してくれる光を、私は見つけた。
私はこの光を標にして、これから生きて行こう。
それはこの名と共に選んだ、私の自由なんだ。
エルネスタ「念願の猫耳幼女と仲良くなれたぞ!」
アンシー「また、たらし込んだんですか……?」




