戦後処理
さて、カトリ教国軍は戦意を失った状態なんだけど、時間が経って冷静になったら、また騒ぎ出す者が現れるかもしれない。
そうならない為にも、もう一押しして抵抗の芽を完全に摘んでおこう。
俺は可能な限り遠くへ、大型の爆弾を「遠隔変換」で作り出す。
そして即起爆。
直後、巨大な爆発が生じた。
それは教国軍の中心で発生した場合、一兵残らず壊滅するのは確実と言えるほどの爆発だ。
実際、かなり距離が離れているにも関わらず、爆風によって吹き飛ばされ、地面を転がっている者達もいる。
やがて爆風によって翻弄されていた兵士達は落ち着きを取り戻してきたが、茫然と空へ高く伸びるキノコ雲を眺めているだけで、完全に戦闘を継続するつもりは無くなったようだ。
それも当然だろう。
「見ただろう。
私がその気ならば、お前達の国は消える」
最早、戦いにならないほどの力の差がある。
そのことを思い知ったはずだ。
これで折れてくれれば良いけど……。
「……って」
教国の者達がおもむろに跪き、俺に向かって祈りはじめた。
命乞い……ではないよな?
「おお……天使様……」
とか、聞こえてきたし。
常軌を逸した力を見せつけられた所為で、それに対して彼等が納得できる理由を無理やり模索した結果なのだろう。
訳の分からない現象は、訳の分からない存在の仕業だと思わなければ、現実を受け止めきれないってことか。
まあ、俺の強化甲冑の見た目は銀色に光り輝き、翼で空を飛んでいる……というのも原因かもしれないが……。
確かにちょっと天使っぽさもある。
ともかく、これで教国軍の戦意を奪うことはできたし、むしろ今後は俺の言うことをよく聞いてくれそうだが、逆に扱いが難しくなったな……。
俺のことを天使だと思い込んだまま本国に帰したら、異端者として弾圧されかれないぞ……。
俺のことについては、あまり喋らないように念を押しておこう。
そんな訳で、教国軍は降伏し武装解除……は、既に終わっているな。
俺が「変換」の材料として、取り上げちゃったからね。
なのでこれ以上の戦いは、ここではもう起きない。
だが、面倒臭い戦後処理が、まだ残っている。
その辺はミーティア王女や、マルドー辺境伯と事前に話し合っているので、その通りにしよう。
「さあ、戦いをやめた者達よ。
お前達は、国へと帰るがいい」
まず、捕虜はとれない。
3万人近い敵兵を飲み食いさせるほどの物資は、無いとは言わないが貴重な物なので、敵兵に分け与えてやる義理は無い。
人質として身の代金と交換するという手もあるけど、人の命を軽く扱っている宗教国家が交渉に応じる可能性は低いので、あまり利益も無い。
ならば教国軍には、国に帰ってもらうしかない。
勿論、国に帰った者達が、再び侵攻軍の戦力として派兵されてくる可能性もあるが、だからといって、皆殺しにするのもなぁ……。
仕方がないから今は大人しく国へ返すというのが、現実的にも人道的も妥協できる案だろう。
後々生じた問題は、国による外交の仕事だ。
ところが──、
「何故、お前達は動かない?」
帰国しようとしない者達もいた。
その数、約300人。
「どうか我々を天使様のお側に、お仕えさせてください」
と、俺の下で働くことを希望する者達だった。
「お前達、国に家族はいないのか?
帰る場所があるだろう?」
「私は1人身なので、どうしても帰らなければならない理由はありません」
「俺も」
「俺もだ」
「酒飲みで暴力を振るう親父はいるが、あんな奴どうでもいい」
「帰ってもまた別の戦場に、送られるだけだ」
皆、国へ帰るくらいなら、俺の側にいたいらしい。
でも、こいつらを帰さないと、教国から「人質を取った」とか難癖を付けられない?
……いや、問答無用で他国へ侵攻してくるような国だから、あんま変わらないかな……。
どう対応しても何かしらの難癖はありそうだし、それなら配慮するだけ無駄か。
「分かりました。
ならばお前達にその資格があるのか、今から試します」
そして俺は、「変換」で1本の剣を作り出した。
「1人ずつ順番に、その剣を握ってください。
全員です」
彼らは困惑する。
まあ、意味は分からないわな。
それでも怖々と、交替で剣を持つ。
……特に何も起こらないけどな。
でも、それでいい。
その剣には、俺に対する害意を持つ者が触れれば、反応するように作ってある。
スパイ目的で入り込もうとしている奴ら確実に選別し、俺を裏切らない安全な者だけを残すことが可能だ。
「うわっ!?」
お、不届き者が混ざっていたな。
70人ほど選別が終わった頃に、引っかかる奴が現れた。
そいつは剣が変形したワイヤーに巻き付かれて、拘束されることになる。
「私に害意を持つ者はそうなります。
お前は大人しく国へ帰れ。
他にも心当たりがある者は、今の内に列から離れろ」
そう告げると、30人ほどが選別を受ける為の列から抜けて去っていった。
結構多いな……。
誰かから命令でも受けていたんか?
まあ、それを聞いても、更に教国と深く関わることになるだけだから聞かんけど。
どうせ、同じようなことを考えているのは1人や2人じゃないのだろうから、特定して捕まえようとしてもキリが無い。
ともかく、その後選別は無事に終わり、信用できそうな者達だけが残った。
じゃあ、俺も強化甲冑を解除して、本当の姿を見せるか。
「おお……!!」
俺の正体が意外だったのか、皆がざわめく。
無骨なロボの中に美少女がいるとは、思わなかったようだ。
そして、彼らは再び跪き──、
「聖女様……」
「聖女様だ……」
とか言い出した。
天使とか聖女とか、コロコロと呼び方を変えて忙しいな、君達?
しかもどっちが上の位なのか分からないし。
それと、中には、
「て、天使……」
と、呟く者もいたが、ブレていないようでいて、意味合いがまったく変わっているような気がするのは、そいつの赤面した顔から間違いではないだろうな……と思った。
……違う意味での狂信者集団が、生まれてしまったかもしれん……。
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