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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

企画参加作品・短編

予言者が、転生して、自分で予言を解決するみたいな

掲載日:2021/05/02

 深淵を落ちて行く、魂が一つ。

――お前は、人心を惑わした。それは大いなる罪


 魂に響く声。それは超越者のもの。


――よって、闇のなかで呻吟せよ。悠久の時を経て、生まれ変わり死に変わり


 魂は声に頷く。


――いずれかの時代、いずれかの場所で、惑わした罪を償うのだ!


 長く尾を引いて、星が流れた。

 東の果てに向かって……



【若者の心中】


 その日、俺は何のやる気もなく街に出た。

 季節は初夏。湿度が増している。


 確か、良く当たる占い師が、新宿にいるって聞いた。

 もう、占いでも宗教でも何でも良い。

 俺の人生、なんとかしてくれ!


「アナタノ、オナヤミ、ナンデスカ?」


 新宿駅の南口を出たところで、何れかの国の男性が、文字を載せた段ボールを持って立っていた。


 長い髪は紅茶色。彫りの深い顔。

 眼の色は、くすんだ緑色。

 欧米系の男だろうか。年齢は分からないが、多分中年。


 男が手に持つ段ボールは、こう書いてあった。


 Listen to your worries!

 お悩み、聞き〼(ききます)


 「聞き〼」の書き方が、いかにも胡散臭い。


 普段なら、そんな怪しげな風体の、しかも異国の男に、一瞥をくれることなどない。

 いや、いつもの俺なら、駅頭で路上演奏をしているとか、募金活動をしているといった人たちを、可能なかぎり避けて歩く。


 しかし、今日は、なげやりな気分が強かった。

 お悩み?

 悩みしかない人生だよ!


 俺はそのまま、異国の男に近寄った。


「俺の悩みも聞いてくれるか、おっさん」

「おっさんではない。私はミッシェル」


 言葉が通じると、期待してもいなかった。

 だが、先ほどの「オナヤミナンデスカ」という口調とは打って変わって、ミッシェルは流暢な日本語で答えた。


「じゃあミッシェル、さん?」

「呼び捨てで結構。せっかくだから、君の悩みを聞いてしんぜよう。その前に」


 ミッシェルは段ボールを路上に敷き、その上に座り込んだ。


「ワタシ、ハラヘリマシタ。ナニカ、タベタイデース」


 近くのファーストフード店で、俺はハンバーガーを買い、ミッシェルに二個渡した。


 何で俺が見知らぬ男に、食べ物を恵んでいるんだろう。

 そう思いながらも、ミッシェルの緑灰色の瞳に、俺は惹きこまれていた。


「君の名前は?」

「アンリ。四谷アンリ」


 ミッシェルは、ハンバーガーを頬張りながら、「ほおっ」と言った。


「ではアンリ。話してごらん、お悩みとやらを」


 俺も、ポテトをつまみながら、だらだら話し出した。


 いくつになっても、誰かに聞いて欲しいことがある。

 だが、誰に話して良いのか分からない。


 見知らぬ人、一回こっきりの邂逅しかない人だからこそ、本音を吐き出すことが出来る。

 まあ、ハンバーガーを奢ったんだから、愚痴くらい聞いてもらっても、バチは当たるまい。


「えーとね、まず内定が、取り消された」

「内偵? 君はスパイになりたかったのか?」


 おっさん、いや、ミッシェル。

 あんたの日本語の習熟度、へんだよ!


「それは、本当に、アンリがやりたかった仕事なのか?」

「そうじゃない。けど、この時期、就職先が決まってないのは、なんかハズイ」

「ハズイは正確な日本語ではないな。恥ずかしい、だ」


 やかましいわ!


「では、その悩み、神ならこう答えるだろう。身近な人たちに対して、恥ずかしいという感情を持つのであれば、アンリ、君のことを知っている人が、誰もいないような場所で、ゆっくり仕事を探せばいい。かつて、私もそうして旅をした」


 遠い場所で、職探し、ね。

 それもアリかな。


「あと、彼女を、寝取られた」

「ほお。寝取られた、というからには、君は彼女とヤッたんだな?」


 俺はぶるぶると顔を横に振る。

 きっと顔面は真っ赤になっていただろう。


「い、いや。まだ、そんな!」

「ヤッてないなら、『寝取られた』は正確ではないな。単に取られた、が正しい」


 うるさいよ、おっさん!


「簡単に、ほかの男に股を開くような尻軽ビッチは、どうせ同じことを繰り返す。別れて大正解だ」


 いや、あんた、ビッチとかって、そうかもしんないけど。

 彼女いない歴イコール年齢の男に、ようやく訪れた奇跡だぞ!

 心、ぽっきり折れたんだよ!


「アンリ、良いことを教えよう。男の価値とは、何だ?」

「えっ? 金持ち、とか、イケメンとか」


 ミッシェルは鼻で笑う。


「最近のニッポン男子の矜持は落ちたものだな。刀一つで黒船を追い払おうとしたサムライは、一体何処に消えたのだ」


 いつの時代の話だよ! 知らねえよ!


「アンリ、男の価値とは信念だ」


 信念……

 何それ美味しいの?


「私は自分の信念を貫くために、今、此処にいる。そして君のおかげで過去生かこせいでは果たせなかったことが、どうやら果たせそうだ」


「ミッシェルの信念とかって何なんだ?」

「空から降る、恐怖の大王を阻止することだ」

「恐怖の大王って? 空から?」


 俺が質問すると同時に、ミッシェルはいきなり、白衣の男性数人に、取り囲まれてしまった。


「そろそろお帰りの時間ですよ、ノートルダム様」

「ミッシェルで結構」


 ミッシェルは不愛想な表情で、路上に停車している車に、連れていかれる。


「アンリ!」

 ミッシェルが叫ぶ。


「最後に君に会えて、良かった。君の未来に心配はいらない。私には、君がこの国で、成功者となる姿が見える」

「マジかよ、ミッシェル!」

「本当だ! なぜなら私は偉大なる予言者、ノス…」


 車は走り去った。

 去った車の後部には、精神神経科で有名な病院の、名前が印字されていた。


 ああ、そうか。

 ミッシェルは、そうなんだ。

 なんとなく、納得した。

 夕刻に近づく都心部に吹く、風は袖の隙間を抜けていく。


 それでも良かった。

 たとえ、電波を受信できるタイプの人であったとしても。

 俺は心が軽くなった。

 そう、ハンバーガー二個分くらい。



【おっさんの祈り】


 ミッシェルは、長らく滞在している病院に連れ戻された。


 連れ戻したのは担当医と事務職員。

 ミッシェルを病室に促し、施錠したあと、二人は自販機で飲料を買う。


「なんで、気がつくといなくなるんでしょうね。朝、施錠の確認してますよ」


 担当医は心底どうでも良い、といった風情で答える。


「本人が言う通り、『偉大なる予言者で、超能力者』だからじゃない?」


「記録を見ると、彼は千九百九十九年の8月から、ここにいるそうですね」


「恐怖の大王を阻止するって皇居前で叫んで、この病院に運ばれたそうだ」


 そのミッシェル。

 病室で深々と神に祈っていた。


 どうやら間に合ったようだ。

 千人目の若者が、アンリという名だったのは、きっと神の恩寵だ。


 ミッシェルはかつて、予言の書を記した。

 予言の内容は、当時の本国のみならず、二十世紀末に向かう東洋の国にまで広がり、人々を大いに不安に陥れたのだ。


 それは罪である。

 そう超越神は言った。


 生まれ変わり死に変わり、人々に不安を与えた罪を贖うように、と。

 そのために、千人の魂を救うように。


 彼が予言の書に記載した年に、地球の滅亡はなかった。

 神が滅亡を救ってくれた、というわけではなく、単にミッシェルが、計算間違いをしたからである。


 本当の恐怖の大王は二十一世紀になってからやって来る。

 今夜零時にやって来る。

 その大王を片付けたなら、ミッシェルの長い旅路に、決着がつくのだろう。


 アンリよ、若者たちよ。

 絶望するなかれ。

 顔を上げ、前を見よ。


 君たちの苦悩をいくばくかでも、私が引き受けるから。

 私が引き受けて、神に捧げるから。

 折れた心も包帯を巻けば、いずれ蘇ってくるのだから。

 

 ミッシェルの祈りは、神に届いたのだろうか。


 深夜零時。


 関東一円で、無数の火球が観測された。

 それはあたかも流星群の如く、青く小さく光った灯を、首都圏に降らせた。

 

 翌日のニュースは、こんなことを伝えた。


「火球の原因は不明ですが、国立の天体観測所の見解によれば、隕石が何らかの影響で、砂状に砕けて落下したのではないか、ということです」


ミシェル・ド・ノートルダムは、日本では、ノストラダムスという名で知られている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 大破局の予言で人々を不安がらせた事と、予言の日がズレていた事。 この二点へのケジメをつけるために現代に転生したミッシェルさんの運命は、実に胸アツでドラマチックです。 また、ミッシェルさんと…
[良い点] ノストラダムスの予言には惑わされたくちです。いや、冗談抜きであれを信じたせいで人生の狂った若者、一定数いたと思いますよ。当時はかなり流行りましたし。 ノストラダムスが悪いというか、「大予言…
[良い点] 「隕石阻止企画」から拝読させていただきました。 ごくごく普通の悩める青年アンリと実は自らの背負った大きな宿命と向き合っているミッシェルのピントのずれたユーモラスな会話が楽しかったです。
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