エピローグ
【史実パート】
織田-信照。
天文１５年 （１５４６年）に織田-信秀の１０男として生まれた。
母は熱田商人であった大喜七郎左衛門康友の娘であり、世にも美しい姫のような美貌から『熱田の楊貴妃』と言われた。
母の父は熱田神宮神官の大喜五郎丸の縁者で大喜嘉平と言う。
無類の女好きの信秀が美貌に取り憑かれて娶ったとも言われるが、熱田との繋がりを深くする戦略であったかもしれない。
実際に信照が生まれると、信照の母を｜家臣の中根-忠良に下げ渡されて、成長した信照は熱田の東にある中根南城の城主となっている。
信照は熱田と織田家を結ぶ者として信長に仕えた。
天正９年 （１５８１年）２月の京都御馬揃えにも信長の弟として参加し、秀吉の世も信長の弟という事で生き残り、徳川の世でも本多-忠勝の家臣となり、慶長１５年 （１６１０）１０月１８日、忠勝に殉じて追い腹を切り、享年６４歳で亡くなった。
常に城に引き籠もって出て来ず、たった一頭の馬を『５０頭も持っている』と豪語して、一頭の馬を下人に命じて一日中馬を入れ替えて洗い続けさせたと言う。
つまり、朝から晩まで馬を洗い続けねばならないほど馬を所有していると思わせようとした訳だ。
この引き籠もりで虚言癖を持った愚か信照は『天性魯鈍人』（おろかでにぶいひと）と言われた。
そんな愚かな者が戦乱の世を生き抜いるのだろうか？
否、否である。
その厳しい世界を生き残れる訳もない。
人目も憚らず、世の人を謀った稀代の戦略家に違いない。
【小説パート】
さて、我らが信照様は『転生魯鈍人』として生を受けた。
幼い頃から引き籠もり癖が酷く、親しい者しか会わなかった。
そうかと思うと、人目も憚らずに『生活改善、一生不労（引き籠りニート）』のスローガンを言い放つ変わり者でもあった。
普段は引き籠もりの癖に何かをヤル時は率先して動いた。
呼び出されないと末森城に足を絶対に運ばなかった。
兎に角、人を働かせて自分は何もしない事をモットーとし、上前で生きて行くつもりだった。
だから、働いてくれる人材を育てた。
そして、売れる物を作った。
その物が余りに奇抜であった為に、襟を引きずられて表舞台へと引き摺り出された。
暇を見つけてはゴロゴロをしようとする奇妙な武将だ。
その癖、戦になると派手に暴れる。
三好、今川、武田、上杉と名だたる武将を袖にした。
信照は引き籠もりたいが、そんな意思など関係なくドンドンドンドン偉くなり、遂に、将軍、関白まで昇り詰めた。
根が真面目で働き者なのか、性根が腐った怠け者なのかは議論が別れる。
太閤になってからは周りの暴走に振り回されて、度々の失敗に精彩を欠いたと本人は語る。
ただ、あれを失敗と言うと何を成功というのだろうかと皆が首を捻った。
信照が失敗と言うのが、九州平定、イスパニア艦隊の撃破、天下仕置き、琉球併合、美麗島統一、南蛮国の静謐、南海諸国連合の成立だ。
武人が天下を広げ、文官が天下を治める。
広がる天下に信照が『もう好きにせよ』と溜息を吐いた。
そして、知恵の泉も枯れ果てた。
だがしかし、信照が捲いた種が芽を吹かした。
産業革命の波が押し寄せて便利な道具が巷に溢れ、富が国中に満ちて笑顔が溢れた。
信照が望む便利グッズ、飛行機、暖房、クーラー、冷蔵庫、ラジオなど・・・・・・・・・・・・と次々に技術者が造り出す。
大衆も落ちてくる果実を頬張った。
しかし、不思議な事に装甲車や自走砲は造られても自動車は生まれない。
信照が帆船と馬車より速く動く物を禁じたからだ。
超大型な貨物船も帆船とエンジン機関の併用であった。
物資輸送の基幹は帆船が行った。
プロペラ輸送機と超大型水上飛行船は軍事のみで使用された。
機関車も導入されたが、最寄り駅から馬車・荷車を使う。
内陸部にも用水路を巡らせて、荷運びは海沿い、川沿いで帆船が活躍した。
産業革命の落とし物である公害など生まれない。
初めからエコだ。
人のエゴを抑える為に生き神が天罰を与えると言って、強引に過分な便利さを禁じさせたからだ。
昼の食事の後に１時間の昼寝時間が法律に明記されたのが、信照らしい。
しかも１時間は推奨であって２時間、３時間がさらに良いとした。
信照だけの為にあるような法律だ。
一方、過分な道楽は規制しない。
新聞、歌舞伎、落語など文化から、囲碁・将棋・野球・サッカーなどの競技までを奨励し、幕府が大会を開き、補助金を配った。
外地で戦争を継続しながら、内地では平和を貪った。
後年、信照は生来の引き籠もり癖が酷くなり、人目も気にせず部屋では常に寝転がり、寝釈迦像のような信照の姿を見る者が増えた。
重要な行事でも頭がうっすらうっすらと船を漕ぎ、金の涎が袖を汚す。
それでも天下は揺るがない。
往生楽土、遂に完成す。
人々は信照を『天下一の魯鈍人』と親しみを込めて呼んだそうだ。
第３章 『引き籠りニート希望の戦国宰相、ごろごろ目指して爆走中!?』＜完＞
と言う訳で、エピローグのネタは『天性魯鈍人也』から『転生魯鈍人也』が誕生したという話でした。
現実にいた引き籠りニートな武将というのが魅力でした。
しかも信照はおそらく美形です。
信長は女形の踊りを村人に見せたと書かれるほどの美青年だったと思われ、
兄妹のお市は天下の美女です。
信照の母は熱田の楊貴妃と呼ばれた美女ですから、引き籠りニートで美形な武将が誕生していたに違いない。
京都御馬揃えで、信長と信照が並んでいれば、京の女性陣がきゃあきゃあと黄色い声を出したに違いない。
こうして、『京都御馬揃え』をラストにした小説『魯鈍人』のプロットを作り始めたのです。
※、美男子コンビというフレーズが完璧からほど遠かったと反省しております。
しかし、こんなに長くなるとは思っておりませんでした。
つたない文章でも見捨てずに応援して頂いた読者様のお陰でございます。
次回作も応援して頂けると嬉しく思います。
本当にありがとうございました。
なお、読者様の希望もありましたので、その他の武将らがどうなったかの蛇足を追加させて貰います。
完全に書き切れないので、あらすじを紹介する形式にさせて頂きます。
