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姫騎士とやり合いました

誤字脱字の指摘、大変助かっております

 意外と待たされた。しばらくするとドタドタと足音がしてゴールさんと共に赤いマントに鎧を着た小さな女性?

 いや、少女が現れた。後ろには屈強そうな騎士たち。

「ゴールさんさん、これはどういうことで?」

「えーっとですね。この辺で甘味というのはなかなか手に入りませんで……はい」

 額の汗を手拭いで拭いながらゴールさんは言った。

「えーい、まどろっこしい。私はアデラ。

 単刀直入に言う。私に砂糖を売れ。

 このような僻地で砂糖を得るのは難しい。

 お前の持っている砂糖を全部売れ!

 言い値で買ってやる」

 おっと、強気な女性ですな。

「…………! …………!」


 話が長そうなので俺はパスでドリスを呼んだ。

「ドリス今いいか?」

「はい、何でしょう」

「イーサの町に居るアデラって知ってる?」

「イーサの町はわかりませんが、アデラと言う名なら『龍血』という二つ名を持っている女性ですね」

「『りゅうけつ』?

 血を流す方か?」

「龍の血で龍血です。

 龍の体に傷をつけ倒したことがあるとか……その時に浴びた血のせいで強くなったそうです。

 ちなみに帝国の王女ですよ。

 帝国は男系の物しか継げませんから、継承権はありませんが」

「倒したドラゴンはノワル級かね?」

「いいえ、野良の龍でしょう。

 ノワル様の前に出た人間は最初のブレスで消し炭になります。

 自我があるかどうかわからないような龍です」

「了解、ありがとう」


「……というわけだ、わかったか!」

 アデラはハアハアと息が荒い。

「悪い、途中から考え事をしていて聞いてなかった。

 まあ、要は砂糖を売れということだな」

 俺がそう言うと明らかに周囲の空気が変わった。

 怒ったかな?

 確かに人の話を聞かなかった俺も悪い。

 ありゃアリーダが震えている。

 ゴールさんの顔色が変わる。

 アデラはニヤリと笑った。

「私の威圧に耐えられた者は居ない」

 アデラ余裕の顔。

「アリヨシ様、あの方は『威圧』をなさっているようです」

「そうだったのか、知らなかった。

 ああ、だから威圧に慣れていないアリーダが参っているんだな?」

 グレアが頷く。

「アリーダ、こういうのは飲まれたら負けなんだぞ?

 俺がこんなちんちくりんに負けると思うか?」

「そうだね、それは無いね」

 アリーダも威圧から逃れられたようだ。

 アデラ焦った顔。


「商人に威圧をかけるなど、商談ではあるまじき行為。

 あなたに砂糖は売らない。

 俺は買い取った獣人の子たちと明日にはこの町を出るよ」

 俺はソファーから立ち上がる。

「死にたいのか?

 砂糖を売れ!」

 アデラは俺に剣を向けてきた。

「死にたくはないし死なないと思っている」

 俺はアデラの剣を人差し指と親指で挟み、ポキリと折る。

「えっ」

「これで戦えないな」

 アデラは折れた剣を見て唖然としていた。

「「「アデラ様! お前アデラ様になんてことを!」」」

 騎士たちが騒ぎ始める。

「丸腰の商人を威圧し、効かなかったからと言って剣を向けていいのか? たとえこの町の司令官だろうが筋違いじゃないか?」

 それでも剣を抜き襲おうとする騎士たち。

「本当の威圧ってのはこういうものだ」

 俺は騎士たちとアデラに向け、威圧を行った。

 騎士は崩れ落ちるように気絶し、アデラはガタガタと震える。

 ゴールさんには向けていないので何が起こっているのかわからない。オロオロするだけだった。

「ゴールさん、とりあえず明日の朝、馬車と子供を迎えに来ますね」

「えっ、ああ、かしこまりました」

「まっ、待て」

 という、アデラの声が聞こえたが、

「さあ、みんな宿に帰ろう」

 と言って俺達三人は宿に帰るのだった。


「お帰りなさいませ。獣人はうまく手に入りましたか?」

 ロルフさんが声をかけてきた。

「獣人は上手く手に入ったのですが、ここの町の司令官であるアデラって人と揉めましてね」

「ああ、龍血ですね。

 けっこう我儘で困っているんです。

 あれでも姫ですから」


 確かに面倒そうだな。


「まあ、何とかしますよ。

 要は砂糖が欲しいみたいですから」

「あっ、食事はどうしますか?

 今なら出せますが」

「三人分お願いします」

 こうして昼食をとると部屋に戻った。


「アリヨシ、凄かったなあの騎士」

「アリーダぐらい我儘そうだ」

 俺がそう言うと、

「俺はあんなことないぞ。

 アリヨシの言うことも聞いてるだろ?」

 と、アリーダは頬を膨らませて言った

「そうだな、よく奴隷で通した」

 友達たちの前で奴隷のふりをして感情を押し隠す。

 けっこうなストレスだったと思う。

「ありがとな」

 俺はアリーダの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。

「ご主人様、この後どうするのですか?」

 グレアが心配そうに聞いてきた。

「んー、子供たちを連れて帰るだけだが?

 契約書もあるしな」

「あの人ならもう一揉めありそうですね」


 あー、グレア、それフラグだわ。

 回避したいねぇ。


 俺は宿屋の炊事場を借り、プリンを作る。

 材料は持ってきていた。

 意外とうちの素材って魔力量が多いせいか腐らないのよね。

 手際よくプリンを作った。

 容器はお金を払い丁度いい大きさのものを買った。

 そして魔法で冷やす。


「あなたも魔法が使えるのですね」

 ロルフさんが聞いてきた。

「生活魔法程度です」

 出来上がったプリンを三つに紙を被せ紐で縛り蓋にする。

 そして硬めの紙で箱を作ると、プリンとスプーンを入れ蓋をした。


「アリーダ、グレア、俺はあの司令官のところに行ってくる。

 明日面倒なことになっても嫌だしね」

「わかりました。お気をつけて」

「何かあったら、グレアとアリーダで逃げろ。

 お前ならそのくらいは容易いだろ?」

「アリヨシ様は?」

「最悪巨人に戻って逃げるよ」

 そう俺が言うと、

「畏まりました」

「アリヨシ、わかったよ」

 二人は頷いた。


 ロルフさんに騎士の駐屯地の場所を聞き、その場所へ向かう。

 司令官ならそこに居るだろう。

 中を覗くと、数百人程度の騎士が剣や槍、馬術を練習していた。

「ここに居る司令官のアデラ様に話があるんだ、取り次いでもらえないかな?」

 入り口に立つ騎士に声をかける。

「アデラ様に何の用だ!」

「騎士が十人程ボロボロになって帰って来なかったか?

 その原因の男だ。

 そう言えばアデラ様はわかるだろう。

 取り次がないのなら、そのまま入るが?」

 そう言って薄く威圧をすると、

「少し待ってろ」

 と騎士は言って中に入って行った。


 ドドドドドドドドドという足音がすると、三十人ほどの騎士が現れる。

「お前、何をしに来た!」

 その中のリーダーらしき騎士が俺に詰め寄った。

「アデラ様に直接会って謝りに来たんだ。

 お詫びの品として甘いお菓子も持ってきている」

 俺は、プリンの入った箱を前に出す。

「それとも、俺のような商人には会えないというのかな?

 えっもしかしてアデラ様は俺が怖いとか?」

 俺がアデラを煽ることを言っていると、

「わっ私があなたを怖いって?

 バカなこと言うんじゃないわよ」

 騎士たちの後ろからアデラが現れた。

「だったら最初から前に出て来ればいいのに」

「そっそれは……」

「謝罪をしに来たわけだが、お茶ぐらいは出してもらえるのか?」

「仕方ないわね、こっちへ来て」

 俺はアデラの後ろをついて行った。


 応接室のようなところへ通される。

「そこに座って」

 俺はソファーに座る。

 アデラは備え付けの茶器を使って紅茶を入れると、俺に差し出した。

「おっ、ありがとう。

 そういう所は姫様らしいんだな」

 俺が言うと、

「うるさい!」

 と怒鳴られた。

「で、何で私に謝りに来た?」

 顔を近づけてきたアデラは可愛いかった。

「ん?

 何となくな。そんな風に紅茶の準備をしていると可愛いのにな」

 俺が不意打ちでそう言うとアデラは真っ赤になった。

「このままにして置いたら明日の朝まともに街を出られないかと思ってね」

 ビクリとするアデラ。

 図星だったかね。

「別に俺が襲われるのはいいんだ。

 それを何とかする力は持っている。

 この町の最高の力を持つあんたがその程度なら問題はない。

 それがわかって部下を俺と戦わせるのを止めに来ただけだ。

 おっと悪い、コレ土産。プリンってお菓子な。

 俺が宿で作ったもの。

 冷えているうちに食ってくれ」

 俺はプリンの入った箱を差し出した。


 アデラは恐る恐る箱を開けると、中にある容器に触る。

「あっ、冷たい」

「冷やしてあるほうが美味いんでね」

 その後容器を取り出し、紙の蓋を外した。

「あっ、香ばしい匂い」

 一応カラメルも作って上に乗せてある。

「そのスプーンを使って食べてくれ」

 アデラはスプーンを持つとプリンを掬って食べ始めた。

 無言のまま食べ続けるアデラ。

 一つ、二つ、三つすべて食べ尽くす。


「美味かったか?」

 コクリと頷くアデラ。

「まあ、そういうことで手打ちな。

 砂糖は同じ重さの金貨と交換だ。

 相場だろ?

 買う気があるなら、明日の朝金貨を準備しておいてくれ」

 俺はそう言うと席を立つ。

「それと、そんなに気が強い振りをしていると損だぞ?

 敵を作らないようにしないと……。

 あっ、まさかそれでこんな僻地に飛ばされたのか?」

「うるさい!」

 図星らしい。

 まあ、あんな言い方をしていたら敵作るよな……。

 我儘が通るところばかりじゃないし、どう見ても脳筋だしなぁ。

「さっき言っただろ?

 ちゃんとしてれば可愛いんだ、男たぶらかして甘えられる相手を探すんだな。

 じゃあ俺は宿に戻る」

 さあ帰ろうと扉を開けようとした時、袖を引っ張られた。

「ん? どうした?」

「みんな弱いんだもん」

「だもん?」

「他の者は甘えたら壊れる!」

「壊れない者を探せば良いだろ?

 それに甘える時は手を抜け」

「ここに居る」

「いやいや……俺なんて嫌いだろうに。

 言わなかったが、俺の威圧で失禁しただろ?

 そんなことさせる奴だぞ」

 ボッという音がしそうなくらいに赤くなるアデラ。

「きっ気付かれてたんだ……」

「まあ、そうだな。

 気付いた」


 えーっと、このまま居るのは危険をはらむ。


「じゃあ、そろそろお暇を……」

「そんな恥ずかしい姿を見られたら、私はお前に嫁ぐしかない」

 天井を見ながら不穏な言葉を話すアデラを置いて俺は宿に戻った。



 次の日の朝宿を引き払い役場に行くと、想定はしていたがなぜか騎士が増えて五十人とアデラ。

 ゴールさんは荷馬車に子供たちを乗せ、出発の準備をしていた。

「ゴールさん、あれは?」

「いえ、マサヨシさんの護衛をするとかで……」

 はあ……溜息が出る。

「アデラ、何しに来た」

「おっお前たちの護衛をしようかと……」

「ご主人様、あれは私たちと同じ匂いがしますが……」

 グレアが言った。

「たち?

 匂い?」

「盛りのついたメスの匂いです」

 チラリとアリーダを見ると赤くなる。


 自分も盛りが付いているって言っていいのかいグレア? 


「つまり、俺にアデラが惚れていると」

「そう言うことになりますね」


 俺はアデラに近寄る。

「アデラ、ちょっと来い」

 と言うとモジモジしながらアデラがやってきた。

「な、何だ?」

「一応言っておく、俺は帝国側の人間ではない。

 俺はこの子たちを連れて王国に帰る」

「だから?」

「お前、帝国側の人間だろ? 王国側の男を惚れちゃいかんだろ」

「問題ない、最悪私がそっちに行く」


 アデラが来たら戦争の引き金とかになるだろうに……。


「しばらくはここで我慢するが、そろそろ適齢期だ。

 行き遅れになる前に『嫁に行け』と言われるだろう。

 そうなれば王国側に逃げ込む。

 亡命だ。

 アリヨシの事だ、逃げてきた者を無碍にすることは無いだろう?」

 ニヤリと笑うアデラ。


 あっ、それはしないだろうなぁ。


「ご主人様、読まれてますね」

 ヤレヤレ感満載のグレア。

「アリヨシだからなあ」

 面倒臭そうなアリーダ。

「俺だから」って言うのが理由になるんだ……。


「それに、月一回ぐらいはアリヨシが砂糖を納品に来てくれないかな。  あっ、お菓子も込みだぞ。当面ははそれで我慢しよう。

 それに私が居たほうが、王国側への侵攻なくていいだろ?」

 確かに、戦争なんて無いほうがいい。

「ご主人様」

 グレアが俺に声をかけてきた。

「理由ができればこの町を訪問しやすくなります。

 役場経由で奴隷商人を紹介してもらえれば他の獣人の奴隷を助けることになりませんか?」

「おお、ナイスだグレア」

 俺はアデラに向き直ると、

「アデラ、頼みがある」

「ああ、聞くぞ」

 即決ですか……。

「ここの役場でもいい、別の場所でもいい、獣人の奴隷を集めてくれないか?」

「なぜじゃ」

「俺の下で働いている獣人たちの子供を捜したいからだ。

 探せば獣人たちが働くようになるだろうし、人手も増える。

 まあ、そんな感じだ。月一回砂糖を納品に来るときに、代わりに獣人の奴隷を引き取っていく。

 俺には帝国側の伝手が無いからな。

 協力してくれる奴隷商人が居たら頼んでみてくれないか?」

「よし、わかった」

 やっぱり即決ですか……。

「帝国は人間至上主義だと聞いたが大丈夫か?

 姫が奴隷を買っているなどと風評が出たら問題ありだろ?」

「帝国の事など気にしなくていい。

 私はお前の役に立ちたいだけだ。

 ただ、昨日より美味しいお菓子が食べたいな」

 帝国よりお菓子か強いとはな。

 まあそれも面白そうだ。

 俺はアデラにパスを繋ぐと、

「まあ、何かあったら俺を呼べ、すぐに来てやる」

 何が起こったのかわからないアデラ。

「俺の魔法だ。遠くの者と話せる。お前が俺と話したいと思えば話せるからな」

 俺がパスを切ったとたん、

「聞こえるか!」

 と、甲高い声が聞こえた。

「ああ、聞こえてる。

 だから、面倒な事が起こったら呼べ。わかったな」

 アデラはコクリと頷いた。


 結局砂糖も岩塩も全部のお買い上げになった。

 今後は砂糖だけをリュック一個、毎月納入する契約となる。

 アデラは気にしていないようだが、王国側の俺が持ち込んでいいのかね。

 そして俺とグレアとアリーダは馬車に乗り、十人の獣人の子と俺の家を目指した。


 そして、街も見えなくなった頃、

「みんな聞いて」

 アリーダに子供たちの視線が集中した。

「村がなくなったのは本当だけど、みんな生きてるから。

 お父さん、お母さんは生きてるから」

 アリーダが言うと、すすり泣きが聞こえてきた。

 うれし泣きなのかどうかもわからない。

 ただ沈黙が訪れる。

「さあ、みんなのところへ帰ろうか」

 俺はそう言うと、馬に鞭を入れ速度を少し上げるのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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