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イーサの町で獣人の子を買い取りました

誤字脱字の指摘、ありがとうございます。

 次の日、朝早く俺は縮小化しアリーダと共にグレアの背中に居た。

 今回は珍しく熊スーツではなく、市民的な服を着る。

 ベアトリスが見立ててくれた服だ。

 帝国の町に溶け込みやすいということなのだろう。

 グレアの背にリュックを三つ固定してある。

 砂糖と塩を入れていた。

 行商人として中に入るためだ。

 ノワルの移動には負けるが、グレアの移動も速い。

 感覚で時速百キロ以上出ているんじゃないだろうか。

 俺はアリーダを抱えるようにして、グレアの毛を掴んでいた。


 アリーダの村があったクレーターを越えしばらく走ると丘が見えた。

 その頂きから見下ろすと、円形の外壁を持った町が見える。

 一応、王国の最前線なのか外壁が異様に高い。

 巨人状態の俺の背ぐらいか。

 入口は俺たちが来たアリーダの村側とその反対側、つまり帝国側にもう一つあるのが見えた。

「グレア、一度巨人に戻りたいから、森に入ってくれないか?

 少しでも魔力を回復しておきたい」

 量としては微々たるものだが、縮小化を続けると魔力を消費してしまう。

 一日も居ないつもりだが慎重になる。

「わかりましたご主人様」

 そう言うとグレアは森に入り体を伏せる。

 俺はグレアから降り地面に仰向けになると巨人に戻り魔力を回復した。

 立ったままだと木々の上に頭が出てしまうからだ。

 そんな俺の上にアリーダがよじ登り胸の上で寝はじめた。

 トト〇かね……。


 魔力の回復を終えると、再び人サイズに戻る。

 小さくなる途中でアリーダをお姫様抱っこで抱きかかえていた。

 何が起こったのかわからないアリーダは真っ赤になる。

「グレア、帝国側から町に入る」

「畏まりました」

 グレアは俺たちを乗せて進み森が切れる所で、

「ここからは私も人化しますね」

 グレアはフェンリルの姿から獣人の姿になる。


 俺たちと三人はリュックを背負い、森を出て歩く。

「下を見て、元気が無いように歩いてな」

「アリヨシ、なんで?」

 アリーダが聞いてきた。

「元気な奴隷って聞いたことは無いだろ?

 歩き通しの旅をしてきた子供が元気なのも変だ」

「あっそうか」

 アリーダは納得したようだ。

 俺たちはイーサの町の入口に着いた。

 入り口に並ぶ人は少なく、寂れた町

「街に入るには銀貨一枚、奴隷は一人につき銅貨五十枚。

 銀貨二枚を渡せ」

 と門番に言われた。

 ベアトリスが言うには帝国も王国も貨幣は一緒らしい。

 その昔、流通を効率的に行うため、貨幣の基準が決められそのまま使われているということだ。

 ただ、時代によっては金属の含有率を少し下げたりして嵩増ししたものもあるらしく、比較的純度が安定している王国側の貨幣が好まれるということだ。

 俺は胸元から銀貨二枚をだし、門番に渡してイーサの町の中に入った。


 人があまり出歩かない町。

 フルプレートメイルを着た兵士がウロウロしていた。

 一応俺の奴隷という設定にはなっているが、モデル並みのスタイルを持つグレア。

「あんまり目立ちたくは無いが、グレアが目立つなぁ。

 とりあえず泊まる宿を探すか」

 中央へ向かう通り沿いに歩き続けると、宿屋が見つかる。

「ここにするか」

 そう言って中に入った。


「旅人の宿へようこそ。このような辺鄙な場所へ珍しいですな」

 でっぷりと太った店主が現れる。

「この町で獣人の奴隷が手に入ると聞いたもので。

 珍しいとは思いますが見ての通りの獣人好きです」

「確かに珍しいですな。

 この帝国では獣人は忌み嫌われる存在ですから。

 それにしてもそちらの奴隷は見事な毛並みだ。私が欲しいぐらいだ」

 グレアをじろじろと見る店主。

「今回はこの砂糖と岩塩を売るついでに新しい奴隷を手に入れようと、ここまで来たのです」

「獣人の奴隷ですか?

 今後はこの街での取引は無くなりそうです」

「それはなぜ?」

「この前、この近くにあった獣人の村で何かが爆発しまして、村ごと消し飛んでしまったのです。

 奴隷はその村から連れて来られたものだったので、もう獣人の奴隷が供給されることは無いでしょう」

 一応、シナリオ通りに誤解してくれている。


「それでも、消し飛ぶ前に来た獣人の奴隷は居るのでしょう?」

「税金の肩代わりに連れて来られた獣人なら、役場の牢屋に居るでしょう。口利きいたしましょうか?」

「はい、よろしくお願いします。

 この子たちを含めて獣人たちはよく働いてくれますので」

 俺がそう言うと、

「夜の方もよく働きそうですな」

 店主はニヤリと笑った。

「そうですね、満足させてもらっています。

 それで、あまり周りに迷惑をかけてはいけないので、できれば大きめの部屋をお願いできますか?」

 俺もニッコリと笑った。

 意味を知っているのかアリーダが赤くなる。

「それでは、当店で一番広い部屋になります。

 料金は一泊一人銀貨五枚ですがよろしいですか?

 事が終わった後に入る風呂も有りますよ」

 再びニヤリとする店主。

 銀貨五枚の相場がわからないが、結構高いのだろうな

「その部屋で頼みます」

「それでは、準備しますのでしばらくお待ちください」

 店主は店員に指示を出す。一人は階段を上り、一人は店を出て走っていった。

「私の名はロルフと言います。

 役場の方で『ロルフに紹介されてきた』と言えば、獣人たちの所へ行けるでしょう」

 店員が下りてくると、ロルフさんに耳打ちする。

「部屋が準備できました。

 こちらへ」

 ロルフさんのあとに続き部屋まで行くと、いきなりリビング。それを中心にしてベッドルームへの扉が三つと風呂への扉が一つ。リビングには二人掛けのソファーが二つテーブルをはさんで置いてあり、そこには水差しが準備されていた。

 中には水が満たされている。

「凄いな」

「一応、貴族も泊る部屋です。

 ただ、いつも貴族が来るわけじゃありません。

 ですから、少々安くして使っていただく方が助かるのです」

 裏事情をロルフさんが言った。

「こちらが鍵になります。

 渡しておきますね。

 お客様は魔法は使えますか?」

「ああ、この娘が使える」

 そう言ってグレアの肩を持つ。

「でしたら問題ありませんね、それではついてきてください」

 俺達三人は脱衣所に入り、そのまま風呂へ向かった。

「これが魔法照明、このボタンを押して魔力を通せば夜の間は十分に持ちます。

 不要になればこのボタンを押せば消えます。

 湯船に湯を張る時はここに手を置いて魔力を通してください。

 湯船に湯が溜まります。

 手を離せば湯が止まります。

 湯量が多いので注意してください。

 あとわからないことがあれば受付けに誰か居ます。

 そちらに声をかけてもらえれば対応します」

 説明が終わるとロルフさんは部屋を出ていった。


「アリヨシ、夜の方って……」

 モジモジしながらアリーダが聞いてきた。

 ちょっと期待しているようなグレア。

 俺はため息をつくと

「アリーダ、ないから。

 それにお前の仲間を助けに来たんだろ?」

「そっそうだよな、無いよな」

 何をがっかりしているのかわからないアリーダ。

 そして、ちょっとがっかりのグレア。

 アリーダがいなければ考えるが……今は無いな。


 リュックを置くと、俺たちは受付で場所を聞き、役場へと向かった。

 役場へ向かう途中、

「アリーダは奴隷だ。だから友達に会えたからと言って喜んではいけない。

 喜ぶのはみんなを買えたあと。いいかい?」

 コクリとアリーダは頷いた。

 入り口を入り、近くに居た職員に「ロルフさんの紹介で来た」と告げると、すぐに獣人たちの檻に連れて行かれる。

 体など洗っていないのだろう、その部屋からは異臭がした。

 目はうつろで、体もダルそうだ。

 子供は十人だ居た。

「アリーダ。なぜ」

 獣人の一人がアリーダに声をかけた。

「ニコ、私は今このアリヨシ様の奴隷。よくしてもらっている。獣人の奴隷を増やしたいというから、ここに連れてきたの」

「でもアリーダは……」

「村に居たはずじゃないの?」と言いたいのだろうが、その言葉を言う前に

「私は奴隷だから、アリヨシ様の言うことを聞かないといけない」

 と言って言葉を遮るアリーダ。


 すると、責任者らしき男が現れた。

「私がこの子たちを担当しているゴールと言います。獣人の奴隷を探しているとロルフ様に聞きましたが、間違いありませんか?」

「それにしても元気が無いな」

「先日、子の獣人たちの村が消滅したというのは知っていますか?」

「ああ、宿屋で聞いた」

「そのせいで、親を亡くしたこの子たちの元気が無いのです」

 体も洗わせず、食事も最低限なのも原因のようだがね。

「では、この十人を全て買いたい。

 獣人は主人の言うことをよく聞くのでね。

 できれば、荷馬車を一台用立ててくれ。

 その荷馬車にこの子たちをを乗せて移動する」

「荷馬車は馬一頭?

 それとも二頭?」

「馬二頭で頼む」

「荷馬車は中古でもよろしいでしょうか?」

「問題ない」

「畏まりました。

 我々もこのまま奴隷商人に売っても買い叩かれ税金の足しにもならない可能性がありましたので助かります」

 揉み手のゴール。

 早く売り払いたかったようだ。タイミング的に良かったのだろう。


「代金は?」

「子供たちの価格が一人銀貨五十枚で金貨五枚。

 馬車は馬一頭が金貨二枚。

 馬車本体が中古なので金貨一枚と銀貨五十枚。

 金貨十枚と銀貨五十枚になりますが勉強させていただいて金貨十枚でどうでしょうか?」

 妥当なのかどうかはわからないが、買えなくはない。

「代金は即金でいいか?」

 懐から金貨を十枚を取り出した。

「はっはい、すぐに契約書を作ります」

 そう言うと、ゴールという男は役場の方へ戻っていった。


「アリーダ、なんで奴隷なんかに」

 ゴールさんが居なくなると、アリーダに声がかかる。

「今は言えない。この街を出るまでは言えない」

 何か含みがあることに気付いたのか、獣人の子供たちは頷くと静かに座った。

 ゴールが書類を持って戻ってくる。

「アリヨシ様、ここにサインをしていただけますか?」

 二枚同じ書類があり、お互いに所持することで契約が成立するようだ。

 俺がサインをしてゴールさんに渡すと、ゴールさんはその書類にサインをして、一枚を俺に渡した。

「荷馬車の準備は明日になります。

 この子たちの引き取りも明日でよろしいでしょうか?」

「ああ、それで頼むよ」

 俺は書類を懐に入れた。


「ゴールさん。

 俺の荷を売りたいんだが、どこに持って行けばいい?」

「えー、どのような物を売るおつもりで?」

「砂糖と岩塩なんだ」

「さっ、砂糖ですか?

 本当に?」

 リアクションが凄いな。

 そんなに驚くことか? 

「こんな辺鄙な場所に、砂糖をお持ちに?」

「ロルフさんには言ったんだが、奴隷を買うついでにこの街で売ろうと思っただけなんだ。

 売れないのであれば、別のところで売るだけ……」

「ちょっちょっとお待ちください。

 あっ、こちらでお待ちいただけますか?」

 ゴールさんは別の職員に声をかける。

 俺たちは客室に通され、ソファーに座って待っているように指示された。

 なぜか、お茶まで出てくる。

「どうしたんでしょうね」

 グレアが気にしている。

「砂糖の話が出たら顔色が変わった。砂糖絡みで何かあるのだろう」

「砂糖なんて、アリヨシの村ならいくらでもあるのにね」

 アリーダが面倒臭そうに言った。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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