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アーネコス村の村長が来ました

 数日後アーネコス村の村長(爺さん)が二人ほどお付きを連れ俺の家にやってきた。

「巫女様、先日凄い大きな音と共に高く雲が上がりました。何かご存じでは?」

 ということらしい。

「巨神が言うには、あれは隕石だと言うことじゃ」

 ノワルに対応してもらった。

 落とした本人が言うんだから間違いない。

「隕石?」

 村長(爺さん)はわからないようだ。

「隕石とは空の上から落ちてきた石。凄い高さから落ちてきた石は凄い速さになり凄い力がある。だからあんな風になったのじゃろう」

「『隕石』は頻繁に起こるものでしょうか?」

「滅多には無く、昨日の隕石もたまたまじゃろうと言うておる」

「そうですか、少し安心しました」

 村長(爺さん)は胸を抑えフウとため息をついた。

 納得したようだ。


 ノワルに

「獣人の事も話しておいてくれないか?」

 と、パスで話す。

「村長よ、今度ココに獣人たちが住むことになった」

「えっ、獣人がですか?」

 不安げな村長(爺さん)

「『事後報告で申し訳ない。

 迫害されている者を我々の近くに住まわせることにした。アーネコス村に迷惑をかけることは無いので、安心するように』と巨人が言うておる」

「わかりました、我々に迷惑が無いのであれば問題ありません」

 こっちは渋々納得かな。

 そして村長(爺さん)お付きを連れて、村へ帰っていった。



 獣人たちはエルフに付き従い仕事へと向かう。

 ウルが言うには、獣人には素早さと筋力に補正があり力仕事に向いていると言うことらしい。

 鉱山ではドワーフとともによく働いてくれていると言っている。

 家畜の世話も畑の手入れも丁寧だといっていた。

 採掘した岩塩の運搬やランニングバードや牛の世話は獣人に任せてもいいかもな。

 獣人たちの住む家も作らないとなぁ、仮住まいじゃ大変だろう。


 俺とベアトリスが散歩していると、仮住まいの入口付近に籠があり、その籠の中にフランスパンぐらいの大きさの芋虫が飼われていた。

「何でしょうあれは?」

 ベアトリスが聞く。

「俺もわからないや。ちょっと聞いてみるか」

 近くに獣人の女性を見つけると、

「ちょっと聞きたいんだが、あれは何?」

 と籠を指差し聞いてみた。

「ああ、あれはグレートモスの幼虫です。

 この森の周辺を歩いていたら見つけましたので捕まえました」

「何に使う?」

「この幼虫が好む木の葉を集めてきて与え、繭になるまで育てます。

 その後、その繭から糸を取り布を作るのです。

 糸は白くきらきらと輝く、それは美しい布になるのです」

 養蚕的なものか……。

「アリヨシ様、報告してはいませんでしたが、布を作ってもよろしいでしょうか?」

「いいよ。ここに新しい産物ができるのは嬉しいことだ。

 他にも前の村でしていて、ここでもできそうなことはしてもらっていいから」

 許可を出すと、女性は喜んだ。

「ルンデル商会も来るから、いいモノができたら見せてみるといいよ。

 買い取ってくれるかもしれない」

「勝手に売っていいのですか?」

 女性はなぜか驚く。

「えっ、作った物は作った人のモノじゃないの?」

「今までは、全て税として取られていました」

「税金?

 あんまり考えたことが無いんだよね。ベアトリス、税金とるの?」

 俺は聞いた。すると、ベアトリスは顎に手を当て考え、

「今は村としての形さえできてはいません。

 今は無理でしょう。

 でもアリヨシ様が爵位を貰い領主となるのでしたら税金を取らないといけませんね。

 ただ、我々のところには税収に勝る岩塩と砂糖という産物があります。税率は低くなるのではないでしょうか?」

 と言うのだった。 

「そうだなあ、流れ的にはルンデル商会の買い取り代金の一割を税にって感じかなぁ」

「アリヨシ様、一割の税金などという場所はございません。

 それでいいのですか?」

 ベアトリスが驚いている。

「ベアトリス的にはどうしたい?」

「えっ、そう言われましても」

「要は俺もはっきりしていない。

 もっと俺の爵位なり何なりがはっきりしてからでいいんじゃない?

 それまでは税金はとらないってことで」

「はっ、はあ……わかりました」

 ベアトリスも渋々ってところだね。


 そんなことを話しているとカミルさんがやって来る。

「どうした?カミルさん」

「私どもの村が帝国の目に留まった理由を報告しておこうかと思いまして」

「ほう、なぜ?」

「ある日、急に壁ができました。私たちが通ってきた壁です。

 その壁に脅威を感じた帝国は『砦を作ることにした』と言って我々の村に来ました。

 新しい砦を作るには労働力が要ります。

 元々帝国の中央から逃れ村を作ってつつましく暮らしていた我々に目が留まったのでしょう。

 帝国内で獣人は嫌われる存在です。

 ですから、使い捨てのように扱われました。

 元々少ない食料も『出せ』と言われ、親が食べる分を減らし子供に与える始末でした」

 憎らしげにカミルさんは言った。

「すまんね。あの壁を作ったのは俺だ。そのせいで迷惑をかけた」

 俺はカミルさんに頭を下げた。

「いいえ、我々もあのまま暮らしていても先は無かったでしょう。

 年に一度の税の取り立ては酷いものでした。

 女衆が言っていた布も税を納めるために考えた物です。

 それでも納められなければ子供が奴隷として買われる始末」

「それで、あの村に子供が少なかったのか」

「アリーダも、もしかしたら今年には……」

 カミルさんが言うと、

「私の子はもう……」

 と言って目尻を抑える女性。


「酷いですね」

 ベアトリスが言った。人がそんなことを言うのが珍しいのか、

「ベアトリス様は獣人が嫌いではないのですか?」

 と女性が聞いてきた。

「よく考えてみてください、私は巨人を夫にしようとしているんですよ?それに私の周りには仲のいい他種族や魔物が居ます」

 女性はベアトリスの周りに居る者たちに気付いたようだ。

 それを見てベアトリスがにっこり笑い、

「ね、嫌いになれるはずがありません」

 と言った。


 女性とカミルさんから離れ、俺とベアトリスはホールの周りを見て回る。今までになかった子供のはしゃぐ声が聞こえるようになった。

「俺はいい為政者になれるのかなあ?」

 税として子を奴隷として徴収する帝国の話を聞いて思った。

「優良な財源を作り、民への負担も軽い。

 そして強力な兵も持っている。今

 のところはいい為政者じゃないでしょうか?」

 にこにこしながら話していたベアトリスの顔が曇り、

「ですが……もう少し私も構って欲しいですね。

 いくら婚約していないとはいえ、放っておかれるのはちょっと……」

 と俺を見上げ、ベアトリスは拗ねるように言うのだった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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