獣人救出作戦
俺は走り帝国との壁をハードルのように飛び越える。
「きゃあ!」
アリーダが悲鳴を上げた。
「悪いな、揺れたか」
右肩の辺りにしがみ付くアリーダを見た。
「この服の毛で体を固定しているから大丈夫。それよりも急いで!」
「おう、了解」
邪魔になりそうな木などは折りながら走る。
レーダーで光点が集まる場所へ向かった。
村の近くにつくと、アリーダを降ろし、俺は縮小化グレアとノワルは人化した。
レーダーで再確認すると、数十人の光点から少し離れて数人の光点、さらに離れたところに十数人の光点があった。
「俺は巨人に戻って村を襲うふりをする。
兵士は二、三人逃がして村の結果を報告させればいいだろう」
「アリーダ、グレアと一緒に村人のところに行って説明してくれ。
話が決まれば壁の方へ行ってドリスと合流だ」
「わかった」
アリーダは頷いた。
「グレア、アリーダと一緒に村人のところに行ってもらえるか?
グレアは人化しても獣人だから話しやすいだろう。
それとアリーダの護衛も頼む」
「ご主人様わかりました」
「我は?」
「上空から様子を見てもらおうか、壁の方へ走る兵士が居たら倒してもらっていいから」
「わかったのじゃ」
それぞれの配置が決まり、アリーダとグレアはさっそく村へと向かう。
ノワルはバハムートに戻り空を舞う。
そして俺は巨人に戻った。
俺はわざと気付かれるような大きな足音を立てて歩いた。
監視の兵士が居ると思われる場所へ向かう。
音に気付いた兵士が俺と目が合い顔がぎょっとする。
居るはずのない巨人が急に現れたのだ。驚いて当然。
「巨人だー! 巨人が来たぞ!」
と言って俺を指差し奥の建物に走った。
別の建物からも増援の兵士が走り出す。
これが全部かな?
わざと二人をスリープクラウドの範囲から外して魔法を使い、兵士たちを眠らせる。
バタバタと二十人近くの兵士が急に倒れ込む。
俺はそれを見て大げさに笑い。一人をつまむと口に入れるふりをした。
残った二人の兵士はそんな俺を恐れて近くに居た馬に乗ると、村から出て逃走を始めた。
「ノワル、どんな感じ?」
パスでノワルに話すと、
「この方向なら問題ないじゃろう。
逃げて報告に行くじゃろうな」
と、教えてくれる。
「了解だ、方向を替えそうなら軽くブレスで追い立ててやって」
「わかったのじゃ」
俺はグレアにパスで話す。
「グレア、どんな具合?」
「今、アリーダちゃんが説得中です。
しかしアリーダちゃんの言葉だけでは難しそうですね。
村を捨てるわけですから……」
こりゃ長引きそうだ、効果の長いスタンクラウドに変えておこう。
俺は眠っている者たちにスタンクラウドをかけ痺れさせておく。
そして、俺は縮小化して村人たちのところへ向かう。
柵で囲われた収容所に着くと、
「あっ、ご主人様」
俺に気付いたグレアに話しかけられた。
「長引いてるみたいだね」
「そうですね」
俺の声に気付いたアリーダが俺の方を向いた。
「苦戦中?」
「ごめんなさい、上手くいかなくて」
申し訳なさそうにアリーダが言った。
「気にするな、生活がガラッと変わる判断だ。
皆がためらうのは仕方ない」
俺は、アリーダの頭を撫でながら言う。
そんな俺を見て、
「あなたは?」
村の代表と思われる男が俺に話しかけてきた。
「アリーダを助けたアリヨシという者だ」
男は俺を見ると、
「アリーダを助けていただきありがとうございました」
と、礼を言ってきた。
何で?
「私はこの村のリーダーを務めるミカルという者です。
アリーダの父親でもあります」
アリーダのオヤジさんだったのね。
「俺は、アリーダにこの村の人を助けて欲しいと言われて来たんだ。
助かりたければ壁の向こうへ逃げて欲しい。
向こうに行けば食料もあるし畑も作れる。仕事もあるし給料も払う。
ここに居て帝国に虐げられるよりは安全だと思うんだけどね」
「なぜそんなに、我々の事を」
ミカルさんは聞いてきた。
「俺、壁向こうでいろいろやってて、正直手伝ってくれる人が欲しいんだ。
人手が足りなくてね。
それに来てもらえれば、あなたたちを守ることもできる。
アリーダに聞いたんだろ?
俺は巨人だ」
そう言うと、縮小化を解き巨人に戻る。
それを見て獣人たちが驚く。
「こんな感じだ、そこのグレアもフェンリルだから」
俺がそう言うとグレアはフェンリルの姿に戻った。
「本当にフェンリル……」
ミカルさんはグレアを見る。
「どうだろう、俺の所に来てもらえないかな?」
俺はそう話しかけた。
ミカルさんは少し考えると村人たちに振り返り、
「このままここに居ても帝国の兵たちに迫害され、無理矢理働かされるだろう。
アリーダが言うように私はこの巨人を信用しようと思う。
皆の衆どうだろう、この村を捨て巨人のところに行かないか?」
「俺はこの魔物たちが優しいのを知っているから、巨人のところへ行く」
アリーダは宣言する。
しかし一人の年老いた獣人が、
「儂や婆さんは足腰が弱い、お前たちの邪魔になってはいかん、だからここに残る」
と言った。
「アリヨシさんは壁の向こうまで行けば馬車を準備してるんだ。
それにこの村は魔法で消してしまうと言っている。
爺さん死んでしまうよ!」
「今は兵士たちも痺れて動けません。
今のうちに家財を集め移動してください。
私は村人たちが離れたのを確認した後、この村を兵士ごと消滅させます。
あなた達は私の魔法で消し飛んだことになり追われることも無いでしょう」
「私もアリーダと巨人の下へ行こうと思う。
このまま暮らしても、わたしたちだけではなく子供たちも苦労する。
壁の向こうであれば仕事もあり食料もあるというじゃないか、今の生活よりも下になることは無いだ」
リーダーであるミカルさんが村を捨てる意思を表に出すと、
「だったら俺も行く」
「私も……」
と声が上がった。
「儂も行きたい。でもこの足腰じゃ……」
再び年老いた獣人が言う。
「だったら俺の手に乗ればいい、壁の向こうに連れて行くから。
他にも足が悪い、体が悪い者が居たら言ってくれ、俺が連れて行く」
俺は、手を差し出した。
結局全員が俺の所に来てくれることになる。
数台の馬車の荷台に最低限の家財を積み、足腰の弱い者や動けない者は俺が手で運び、他の者は歩いて移動を開始した。
俺は早々に壁まで到着し、ドリスが連れてきた馬車に足腰の弱い者や動けない者を載せた。
「ドリス、あとから来た獣人たちを頼む」
「わかりました」
ドリスの返事を聞き、俺は再び村のほうへ行く。アリーダとすれ違うと、
「もう村に誰も居ない!」
と、アリーダは叫ぶ声が聞こえた。
俺は頷きレーダーを確認すると、確かに村の中には兵士の数の白い光点のみが残っていた。
「ノワル、そろそろ魔法使うから壁の向こうに戻っていてくれ」
俺がそう言うと、黒い影が壁の方へ飛び去る。
広範囲な殲滅魔法を俺の頭から探すと「メテオストライク」が頭に浮かぶ。
本当にあるんだなメテオストライクって……使ってみたい!
「なになに? 敵味方判別できないので使用に注意してください。
使用後しばらくして指定地点に落下します」
説明書付きかよ。
隕石が落ちてくるんだから、そりゃ敵味方の判別なんて無理だろう。
「しばらく」ってのがどの程度なのかわからないのが怖いな。
えーっと、確か隕石の直径の約十倍がクレーターの範囲になるんだったな。
って事は五十メートル程度の隕石を落とせば、単純計算で五百メートルのクレーターができる。
十分この村は吹き飛ぶか。
「ドリス、皆そっちに行った?」
「はい、壁の内側に皆入りました。
馬車は通れませんから馬と荷物だけは壁の内側に入れた感じですね。現在移動の準備をしています」
「ドリス、皆に伏せるように行ってもらえるかな。
大きな音のあとに凄い爆風が行くと思う。
壁の内側に居れば問題ないと思うが、一応ね。
あと、絶対門のほうに近寄らないように……爆風が吹き抜けるから。
馬は暴れてはいけないので押さえつけずに放っておけばいい、馬車に繋いでいる馬も外しておけ、あとで回収する。
そっちの準備ができたら連絡をくれるか?
村を消す」
「了解しました、早急に対処します」
ドリスの返事が返ってきた。
グレアとノワルにも壁の内側で人化して伏せているように言っておく。
ウルとベアトリスには、
「デカい音がするけど村を消すために魔法を使った音だから心配しないでいい」
と言っておいた。
「アリヨシ様、皆伏せて準備できました。門付近には誰もいません」
ドリスから、準備完了の連絡が来る。
「それじゃ、やるぞ」
村から結構離れた場所に立つと、直径五十メートルの隕石をイメージし落下地点を指定してメテオストライクの魔法を使った。
ごっそり魔力が抜ける感覚。
しかし、上空に光り輝く星が現れたのを確認すると全速力で走り縮小化して伏せた。
表面積は小さくしないとね。
「チュドーン!」という衝撃音が聞こえたあと、バリバリという木が倒れる音と共にものすごい爆風を感じる。
どのくらい経ったのだろう、爆風が収まっていた。
俺の上には爆風になぎ倒せされた木が覆いかぶさっている。巨人に戻り立ち上がると大きなきのこ雲が見え、その根元は燃え上がり赤く染まっていた。
大丈夫かね?
急いで、壁の方に戻ると壁は健在。
「グレア、ノワル、ドリス、大丈夫か?」
と聞いてみると、
「ご主人様、大丈夫です」
「我もじゃな」
「周囲の木が倒れましたが、伏せていたおかげで皆怪我もありません」
三人も獣人たちも問題ないようだ。その後、
「ご主人様、やり過ぎです」
「やり過ぎじゃな」
「やり過ぎですよ」
三人に文句を言われてしまった。
まあ、仕方ないか。
「じゃあ、戻ろうか」
俺はレーダーで馬を探し出し、馬車に繋いだ。
余った馬は手綱を引き連れて行歩く。
それに続き獣人たちは歩き始めた。
俺んちに着くと、ベアトリスとウルが現れて、
「凄い音でした、それにあの雲」
「何なんですかアレ」
と、二人が口々に聞いてきた。
「ああ、メテオストライクだ」
そう言うと、ウルが固まる。そして、
「メテオストライクなんて、何百人ものエルフが同時詠唱で使う魔法じゃないですか。
それも魔力操作が難しくて成功率も低い!」
と捲し立てる。
「んー、俺の魔力量なら問題ないようだね。
なんせエルフと比較して五十万対一の比率らしいから。
まあそういうことで、メテオストライクで村を消滅させた。帰るところを消滅させたわけだ。
だから俺には獣人たちを幸せにする責任がある。ベアトリス、ウル、手伝ってもらえるかな?」
「はい、当然です」
「私も」
二人は頷いた。
獣人たちに食事が終わるとミカルさんや獣人たちと話をする。
その時、
「あなたは、私たちの主になる人です。
ですから『アリヨシ様』と呼ばせていただきます」
ミカルさんが俺に言うと、獣人たちも頷いていた。
そして、今後の事について、獣人にやってもらいたい仕事の内容、賃金、衣食住について、獣人たちの質問を交えて話し合い合意すると、
「わかりました、我々はあなたに従いここで生活をします
。ここまでしていただいたのです。十
分に恩に報います。
いいな、みんな」
カミルさんが話を締め、それに合わせ獣人たちは頷くのだった。
小説を読んでいただきありがとうございます。




