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迷いの森を俺んちの周囲に作りました。

 ウルが提案した迷いの森。さて、どうすればいいのやら。

「ウル、迷いの森って言ってたよな」

「はい、エルフの魔法になります」

 エルフの魔法か……俺の頭の中のデータを漁ると、確かに迷いの森を作る魔法があった。

「俺も迷いの森は作れるみたいだな」

「そう言えばアリヨシ様はエルフに作られたんですよね。

 だったら使えてもおかしくないですね」

 ウルが頷く。

「そういうことのようだな。

 で、ウル、迷いの森と普通の森は区別がつかないんだろ?」

「そうです魔力が感知できる人間や感知できる物があれば区別は可能ですが、見た目だけならわからないと思います」

 俺の頭に浮かんだ『迷いの森』を作る魔法「フォーロ」、遅滞戦術のために使うようだ。人が迷いエルフが迷わない森。

 俺んちのアーネコス側をぐるりと囲むようにイメージして「フォーロ」を唱えた。

 何も変わらないように見えるが魔力が帯状に広がるのがわかった。

「フォーロ」は空には効かない。

だが人が木を越えるほど飛ぶことはできない。

俺んちの周りには目に見えない防壁が完成したようだ。

まあ、アーネコス側はクルーム伯爵領地のため、こっち側から攻められることは無いだろう。


挿絵(By みてみん)


 俺が連れてきたフォレストウルフもメスが三頭の子を産んだ。

 現在子育て中だ。

 オスは俺の依頼をこなして森の中を走り回っている。

 何か異常があったら遠吠えで教えるということになっていた。

 そして、「ウワォーン! ウワォーン!」と遠吠えが聞こえる。

 フェンリルなグレアが先導して巨人な俺、バハムートなノワル、そしてウラノスに乗ったドリスで向かった。

 レーダーには壁の向こう側で光点が一つ。その後ろから光点が三つ。

 囲まれているかな?  

 俺たちが壁にたどりつくとフォレストウルフはカリカリと壁を掻いた。

 街道が繋がっていない今、ここに来ても壁で遮られ、追手に捕まるのが目に見えている。

「俺とグレアとノワルでいく。

 ドリスは隠れていろ。

 お前が見つかったら戦いの火種になる可能性がある」

「わかりました、私はこちら側で待っています。

 お気をつけて」


 俺は壁の上から覗き込んだ。

 壁に阻まれ囲まれている子供が一人。

 追手を見て怯えていた。

 尻尾がだらりと下がり耳がぴょこんと出ている。

 獣人か……。

「おいガキ、あそこから逃げ出したら殺されるのは知ってるだろう?   というか、俺たちがお前らを逃がすはずが無いだろうに」

「へへへ、この壁のせいで、もう逃げ場は無いな」

「子供とはいえ容赦できないんだ。

 悪いな」

 んー、追手三人は人間らしい。

 同じ鎧を着ていた。ちょっとスレイプニルのときに会った騎士っぽいのと似てる。帝国軍?  

 目が合う俺と追手。

 俺たちが壁を越えた瞬間、表情が凍りついた。

 まあ、巨人と巨狼と巨龍だからねぇ。

 俺は壁を越え帝国側へ入った。まあ巨人のままであれば問題ないか。俺は所詮魔物だ。

 魔物には国境は無い。

 俺が逃げ場のない獣人の子を掴むと気を失う。


 丁度いいな。


 俺は追っ手に見えるようにして口の中へ入れた。


 噛まんけどね


「食われた。もうあいつはダメだ」

「俺たちも逃げるぞ」

 そう言うと、三人は森の中へ消えた。


 俺は口の中から獣人の子を手のひらに出す。

 そして水の精霊と風の精霊に依頼して洗浄と乾燥しておく。

「アリヨシよ、本当に食べたのかと思ったぞ」

「ご主人様がそんなことはしないのはわかっていましたが驚きました」


 ちょっと飲み込みそうになったのは黙っておこう。


「グレア、ノワル、人化してこの子を見ていてもらえるか?」

「了解じゃ」

「わかりました」

 二人はいつものゴスロリ姿に戻る。


「ドリス、壁を作ってからずっと街道を塞いでいたのだが……問題なかったのか?

 今回、壁のせいでこの子は逃げ込めなかった」

「アリヨシ様、現在帝国とは国交がありません。

 ですから街道が遮られても問題ないと思います」

 ドリスはそう答えた。

「しかし逃げてきた者の邪魔になるのもな……」

「そうですね、では門を作りますか?

 そして開けておく。

 帝国との戦争になっても、門が狭ければ王国側に入れる兵士も少ないでしょう。

 できるだけ早く門を閉めるようにすればいいと思います。

 ああ、アリヨシ様なら強引に地の精霊を使って門を埋められますね。

 もしも悪意のある罪人が来た場合でも、アリヨシ様とグレア様、ノワル様が要れば問題ないでしょう」

「帝国で犯罪を犯してこちら側に来るのは困るが、帝国で虐げられてこちらに来る者は受け入れられるようにしたいな」

 俺は壁にメイピで寂れた細い街道の上に人が一人ギリギリで通れそうな大きさで門を作り、メイスで壁全体を石化させた。

 扉は後でドワーフに作ってもらおう。

「こんなもんかね」

「そうですね、人だけが入ることを前提にするならこれでいいのではないでしょうか。王族や貴族は馬車を使いますが、それは諦めてもらえばいいと思います」

「じゃあ、コレで行くか。

 大きさは後でも変えられるしな」


 門の大きさも決まったところで、

「アリヨシよ、目を覚ましそうじゃぞ?」

 ノワルが俺を呼んだ。

 俺を見た獣人の子は、

「うわぁぁぁぁぁぁぁ。巨人があー食べられるぅ」

 と恐れおののく。

「落ち着いてください、あの巨人は悪い巨人じゃありません」

 グレアが優しく声をかける

「大丈夫じゃ」

 ノワルも声をかける。

「大丈夫だから」

 ドリスが獣人の子を抱きしめ背を叩くと、子供は落ち着いたようだった。

 俺も縮小化したほうが良かったのだろうか。

 まあ、男が出ていくよりも優しいお姉さんのほうがいいのは流れだよな。

 落ち着いた子が俺を見る。恐れを抱く顔。俺が笑うと少し安心したようだった。

「さあ、一度帰るか」

 と皆に言って、グレア、ノワル、ガキんちょを肩に乗せ、ドリスはウラノスに乗り俺んちへ帰るのだった。


 帝国はこの子に何をしたのだろう。


小説を読んでいただきありがとうございます。

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