そして二か月経ちました。
俺が整備した街道に馬車が走る。
といってもまだまだ少ない。
まだまだ知名度が低いアーネコス村。
その奥にある俺んちはもっと知名度が低い。
まあ、それでも一人でホールに居た頃に暮れべれば格段の差がある。
じわじわと知られるようになるのかね……と思っていたのだが、そうはいかないようだ。
ベアトリスの家も出来上がり、皆に部屋が割り振られた。
ベアトリスも元々そのつもりだったらしい。
俺の部屋にもベッドは有るのだが。
俺の場合、寝るのはホールにしている。
人サイズで寝ると、魔力が消費されるため朝がダルいのだ。
そのせいかグレアもノワルも人化を解き、俺と一緒に寝るようになった。
たまにベアトリスとドリスがグレアの腹で寝ていたりする。
家ができたら岩塩鉱山の調査って話だったが、ルンデル商会のデニスさんに既に岩塩の塊を渡し、確認してもらったため、調査の必要が無くなってしまった。
現在、岩塩を絶賛採掘中である。
ただ、エルフとドワーフの共同作業になっており、エルフが精霊に頼んで作った塊をドワーフの力で倉庫に持ち込むという形になっている。
砂糖の生産も精霊の力が使えるエルフによって順調である。
既に、一度ルンデル商会へ品物を納めていた。
そして今日、ルンデル商会から再びの岩塩と砂糖の仕入れ、そして売却利益を載せた馬車がベアトリスの家の前に到着した。
えっ、冒険者が周りを囲んでる?前納めた時はそんなに居なかったのに。
「お久しぶりでございます。
ベアトリス様」
おっと、デニスさん自らのお出ましとは……。
「お久しぶりですね、デニス。
あなた直々のお出ましとはどうしたのですか?」
「これを見てもらえればわかります。
お前たち、あの荷馬車を持ってこい」
デニスさんがそう言うと、デニスさんの部下は一台の荷馬車を俺たちの目の前に持ってきた。
あまり大きくはない荷馬車なのに二頭で引いている。
デニスさんが荷馬車にかけたシートを外すと、小さな袋が何十と重ねられていた。
ベアトリスが袋の一つを開け確認する。
「金貨ですね?」
「はい、これが全部ベアトリス様たちの収入となります。
一袋に金貨百枚。
全部で約四十ありますから、四千枚ですか。それが一か月の収入ですね」
冒険者たちがざわつく。
何を運んでいるのか教えてていなかったのかもしれない。
「たった五台の荷車でこれほども?」
ベアトリスが驚く。
「とりわけ砂糖が高かったですね。
南方からの物は茶色がかった砂糖となります。
これはこれで甘く独特の風味があります。
ここの砂糖は白く甘味が強い。
そして安い。
とりあえず大壺三つ分ではありましたが、即売れてしまいました。
岩塩も塩気だけでなく旨味もあると言って貴族の料理人に好まれました。
追加は無いのかという問い合わせもきております。
私どもも、国外からの取り寄せによる輸送費や護衛用の人件費も削減できましたからお陰で儲けさせてもらってます」
まあ、売り上げの何割かはルンデル商会へ入っているから、本当にボロ儲けなのだろう。
「『どこから仕入れているのか教えろ!』と同業者からも聞かれる始末です。
私もクルーム伯爵御用達で良かったと思っております」
「お父様へは?」
「お約束通り、ベアトリス様の取り分の二割分の約千枚の金貨を納めております」
「そう」
「手紙も預かっております」
そう言うとデニスさんは封蝋のされた手紙をベアトリスに渡した。
すぐに目を通すベアトリス。
「仕方ないですね」
とベアトリスがため息をついて言った。
「ん?何が仕方ないんだ?」
俺が聞くと、
「ああ、今回の利益が継続的に続かないと私はあなたの妻になれないようです」
と言う。
「ふむ一時的な収入じゃ意味がないということか。
オヤジさんの言うことも一理あるね」
「あと『金のなる木に虫が群がるかもしれない』とも書いてありました」
「魔物はグレアのマーキングでどうにでもなるが人は難しいなぁ。
デニスさん。
俺んちのこと知ってるのは?」
デニスさんは腕を組む。
「ここを知っているのは商会内の一部の者です。
今のところ我が商会からここのことがバレてはいませんね。
それこそ我々にとってこの場所は金のなる木です。
他に取られるわけにはいきません」
「じゃあ、バレるとしたら?」
「今回雇った冒険者。
一応法外な報酬を用意して『この場所を他言しない、した場合は罰金と奴隷へ落とす』という契約にはなっておりますが、なかなか難しいかもしれません。
あとは言い辛いですが、クルーム伯爵からの可能性もあります。
定期的に旦那様は収支報告を王都に報告しなければいけません。
アーネコス村からの税収が上がったと書いたとしても、あり得ない倍率です。
その原因がアリヨシ様が開発した岩塩鉱山と砂糖畑だと書き出せば、間違いなくこの場所に注目が集まるでしょう」
「冒険者の口をふさぐのは確かに難しいかもしれない。
ベアトリス、次のオヤジさんの収支報告は?」
「ちょうど三か月後ぐらいですね」
「ふむ、まあ冒険者の方は魔物と同じ対応をとることにするか。
俺らに危害を加えるなら殺す。
危害を加えないなら追い出す」
するとウルが声をかけてきた。
「アリヨシ様、アーネコス村側の森を『迷いの森』化してはどうでしょうか?」
「『迷いの森』とは?」
「はい、方向感覚を失わせ、迷わせ、そして最終的には入ってきた場所に戻る魔法です。
エルフには効きづらいのですが、普通の人間であれば森を抜けることは困難でしょう。
元の入ってきた場所に戻るので森で力尽きるということもありません」
帯状に迷いの森化させれば、森を抜けて情報収集しようとする人間は防げるということか。
どうせアーネコス村から俺んちまでは一本道だからその道を通らざるを得ない。
俺んちにはエルフとドワーフなどの人種が多いから道を人が歩くだけで目立ちそうだ。
「ウル、一度話し合おう」
「わかりました」
ウルは意見が通って嬉しそうだ。
「取引はルンデル商会以外を使わないようにしたいんだが、何かあるか?」
「魔符であれば問題ないでしょう。
登録された者同士が魔符に触れると青く光ります。
登録されていない者が魔符に触れると赤く光ります。
相手を登録する必要がありますが人を確認するにはいいと思います。
次に来るときに準備しておきます」
「わかったよ、魔符のことはデニスさんに任せる」
「畏まりました」
これで、何とかなるかねぇ。
言い辛そうにしているデニスさん。
「あと一つお願いが」
「ん?
デニスさん何?」
「早急にこの場所へルンデル商会の支店を作りたいと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「俺はいいと思うが、ベアトリスは?」
「私もいいと思います」
「デニスさん、こっちは問題ない。
ただ、ここは人間が少ない場所だ。
『それでいいのなら?』という前提になるが?」
「私は商人です。
品物が取引できるのであれば、巨人でも問題ありません」
チラリと俺を見るデニスさん。
ありゃ、バレてる。
「よく知ってるな」
「先日、巨人が道を作ったと言う噂が立ちました。
それもわざわざオピオからアーネコス村までの道でございます。
しかしその巨人は今はおりません。
考えられるとしたら、何らかの手段で人に化けているということ。
そう言えば、ベアトリス様が誰も使えない魔道具を二束三文で買われたと言う噂がありましたね。
それは確か小さくなれるスプーン。
さて、誰がお使いなのでしょうか?」
デニスはニヤリと笑った。
食えないオッサンだ。
「俺だよ」
俺が素直に言うと思わなかったのかデニスは驚いていた。
「まあ、デニスさんが種族を気にしないのならばこちらは助かるよ。
できれば今後もいい取引ができればいいな」
「はい、よろしくお願いします」
「こちらこそだ」
俺はデニスさんと握手を交わす。。
小説を読んでいただきありがとうございます。




