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エルフの引っ越しをしました。

 朝、薄明るくなったころから俺とグレア、ウルはノワルの背に乗ってエルフの村を目指す。

 俺的には迷惑な時間かと思うのだが、ウルが言うには、

「エルフは朝が早いので、明るくなれば問題ないですね」

 とのことで、この時間となった。

 実際、エルフの村に着くと、クルツを先頭に全員がすでに整列していた。

「アリヨシ様、この村の住人二十三名、いつでも移住が可能です」

 クルツは俺に報告する。

 えっ、エルフって軍隊? 

 まっすぐな列。

 荷車に山のように積み込まれた荷物。

「いつでも移住が可能」という言葉にピッタリな状況だった。


「じゃあ、引っ越ししようか。グレアの背に十名。残りは俺の肩と手に乗ってくれるか?」

 俺は巨人に戻っていうと、

「アリヨシ様、その前に一つお願いがあります」

 と言って真剣な顔をしたクルツが一歩前に出る。

「何だ?」

「この村を焼き払って欲しいのです」

「えっ、いいのか?」

 俺は驚いた。

 百年単位で暮らした場所だろうに。

 クルツは

「私たちはアリヨシ様の下で暮らすと決めました。

 ですから、もうこの村は必要ありません。

 戻る場所があると言うことは甘えになるのです」

 という。

 俺が他のエルフを見ても皆頷く。

 俺は火の精霊に頼み、言われた通り全ての家屋に火をかける。

 森の木でできた家屋は燃えやすく、すぐに炎は燃え上がり、しばらく見ている間に村の家屋すべてを焼き尽した。

 エルフたちそれぞれが涙を流しながら村が消えていく様を見送った。


 数百年暮らした土地を離れる。

 辛いだろうなぁ。

 こんだけ覚悟を決めて来ているんだ。こいつらも幸せにしないと……。

 俺が知っている知識を総動員して幸せにできたらいいな……。

 と思った。


 馬が四頭いるそうで、ウルとエルフ三名は馬に乗って俺んちを目指す。三日ほどかかるということなので、運び終わったら迎えに行くということで先行してもらった。

 場所確認は俺のレーダーを使えばいいので問題ない。


 俺とグレアはエルフ運びを行う。

 ノワルには馬車運びを依頼した。

 ノワルには手があるから荷物を抱えられる。そこも利点である。

 俺らより格段に移動が速いので、俺たちが集落にたどり着く前に、荷車は移動し終えていた。

 クルツは指示を出し村人たちを家へと導く。

「クルツ、こんな感じの家で良かったか?」

「そうですね、この家であれば問題ありません。村の家はありあわせの手作りでしたから、いろいろと問題が……。周囲の魔物の心配をしなくていいだけでも安心できます」

 あの森の中だからなぁ。魔物が居てもおかしくはない。

 各人の荷物を家の中に運び入れる姿が見えた。

 荷物の運び入れが落ち着くと大きな袋を持ってエルフたちが出てくる。

 袋の中に草をパンパンに入れているのだ。

 その後、水の精霊に何かを頼んでいた。

 袋の中から水球が現れ、排水路の上で弾ける

「クルツ、あれはもしかして草の布団を作っているのか?」

「そうです。水分を抜いてまた草を入れることで固めの草のマットができます。

 布団は逆にほどほどに抑えます。結構温かいんですよ。

 枕も作り方は同じです」


 そう言えばエルフの荷車に寝具系は少なかった。

 そういう理由だったのか。


「薪はあそこにあるから、使ってくれ」

 時間のあるうちに作って置いた薪の場所を指差す。

「わかりました。

 我々も薪は作れますからあとはこちらでなんとかします」

「助かるよ。

 あとで昨日狩ったオークを置いておくから、好きに食べてくれ」

 グレアが「エルフに」と言って狩ってきていたのだ。

 周りを見ると、エルフたちは各々の家に落ち着いたようだった。

「グレア、オークをこの広場まで持ってきておいてくれ。ノワルは俺とウルを回収に行くぞ」

 と、俺は指示を出す

「はい!」

「了解じゃ」

 グレアはホールに向かう。

 それを見て俺は小さくなりノワルに乗ってウルの場所へ向かった。


 レーダーでウルを探す。

 固まった八つの光点。あれだろうな。

「あそこら辺に居るようだ、高度を下げてもらえるか?」

「わかったのじゃ」

 ノワルは返事をすると、俺が指差す辺りで高度を下げ森の中を確認する。俺たちに気付いたウルたちはノワルに怯える馬たちを宥めていた。

「お待たせだ、集落まで移動するぞ」

 そう言うと、ウルが

「アリヨシ様、ノワル様や今のアリヨシ様では馬が怯えます」

 言った。

 確かに、ウルたちは手綱を持ち馬を抑えている。

「ふむ、眠らせるか……」

 スリープクラウドを唱え馬を眠らせて暴れないようにした。

 最初っからこうして置いたら良かったと後悔する。

「お主ら(われ)の背に乗れ」

 ノワルには背にエルフ三人と左右の手に馬一頭ずつの計二頭を連れ、早々に飛び立つ。

「ごゆっくりじゃ」

 とニヤけながら家の方へ飛んでいった。

 変な気を遣いやがって。

 俺はウルを肩に乗せ馬を二頭片手に持ち歩き始めた。


「アリヨシ様、ありがとうございました。

 あのままでは、村はゆっくりと朽ち果てるしかなかった……」

 ウルが俺に礼を言ってきた。

「こっちこそ助かったよ。人手は欲しかったしからね」

 俺も礼を言っておく。

 実際、精霊魔法が使えるエルフは人手としては十分だと思う。

「生活環境の変化に刺激を受けてエルフに子ができればいいのですが……」

 ああ、混浴もあるからね。

「まあ、子供ができるできないはタイミングが合うかどうかだろうから、元々長寿のエルフだ、タイミングなど簡単に作れるだろうし、長い目で見ては?」


 ん? ウルの表情が変わった。

「どうかしたのか?」

「私は印がきてから二週間経ちました。

 だから、私はあなたを迎える準備ができています。

 私はあなたの子が欲しい。

 ダメでしょうか?」


 そんなことも話したが、種族的に合っているかどうかもわからない。


「ハア? 以前にも言ったけど、俺とウルの間で子供ができるかどうかさえもわからないんだぞ?」

「『出来ないかも』であって、『出来ない』と言うわけではありません。可能性が無いわけではないのです。

 ですから『愛しあうなら子供のできる確率が少しでも高いときにしたい』と思いました」

 真剣な目で俺を見るウル。

「この事はノワルも知ってたな?」

 ウルはコクりと頷く。

「引っ越しの最後にできれば二人きりにして欲しいとお願いしました」


 だから、ノワルに「ごゆっくり」と言われたわけか。


 俺は頭をポリポリと掻きながら、心を決める。

 巨人状態で熊スーツの上を脱ぎ、ついでに馬二頭も適当に寝かせる。

 俺は縮小化してウルとスーツに潜り込んだ。

 んー、熊スーツが簡易のラブホになりつつあるな。そんなために作ってもらった訳じゃないんだが、意外と便利。


 白磁のように白い肌、腰まであるブロンドの髪、小振りの胸、小説やアニメの中でしか居なかったエルフが目の前にいる。

 尖った耳を触ったとき、体が固くなるウル。

「私は胸がないから……魅力ないですか?」


 なんて聞かれてもどう言ったら良いのかはわからん。


「あ、ああ。ウルには十分に魅力はあるよ」

 としか言い返せなかった。


 もうちょっといいセリフが出ないもののかね。

 正直、自分の女性経験の少なさが情けない。


 二人きりの空間で俺はできうる限りのことをして、ウルはそれを受け止め続ける。

 そしてウルは果て、眠りについた。

「お疲れさん」

 ウルの体と周囲を洗浄しておく。

 そのあと、ウルの髪を撫でながら寝顔を観察していた。


 どのくらい経ったのかはわからないが、馬が嘶く声に俺は気づく。

 ウルも目が覚めたようだ。

 自分の乱れ具合を思い出したのか真っ赤になる。

「さすがにスリープクラウドの効果が切れたか……。ちょっと外の様子を見てくる」

 そう思ったが、馬以外に二つの光点。

 俺はスーツの外に出て確認すると、犬っぽいのが馬を見ていた。

 一頭は大きめその後ろに少し小さいのが従う。

 俺は再びスリープクラウドを唱え、犬ごと眠らせる。

「番犬にならんかね。グレアに頼めばなんとかなるかな?」

 そんなことを考えていると、ウルも外に出てきた。

「フォレストウルフですね。どうするのですか?」

「飼い慣らして、エルフの集落で番犬にでもできればとね」

「ウルフ系は慣れづらいですが、慣れてしまうと良く言うことを聞きます」

 慣れづらい?

 ウルフ系の頂点がうちに住んでいるんだが。

「そこら辺はグレアに任せてみるよ」

「はい、そうですね。

 フェンリルであるグレア様に任せておけば問題ないでしょう」

「さあ、帰ろうか。

 みんながウルの話を聞きたくてウズウズしているだろう」

 そう言って俺は巨人に戻った。

 手に乗るウルは、恥ずかしそうに赤くなった顔を下に向ける。

「ウル、しっかり捕まっていろよ」

「はい」

 ウルはギガントベアの毛を手に巻き付け体を固定する。

 それを確認すると、俺は馬とフォレストウルフを手に載せ、家に帰るのだった。



小説を読んでいただきありがとうございました。

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