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人手が手に入りました。

誤字脱字の連絡ありがとうございます。

 デニスさんとも別れ家に帰ろうとしたとき、ウルが俺の服の袖を引っ張る。

「どうした? ウル」

 俺が聞くと、

「アリヨシ様は人手が欲しい?」

 と俺を見上げて言ってくる。


 なんか言いづらそうだな。


「人手は欲しいな。

 でも秘密を守ってもらわないといけない。

 だから、なかなか見つからないと思っている」

「アリヨシ様はエルフは気にしないの?」

「気にするも何も、お前と一緒に暮らしてるだろ?」

「ベアトリス様は?」

「私も気にしませんね」

(われ)に聞いても同じじゃぞ?

 エルフだからどうとか言う気はない」

「私もですね。

 ウルさんと暮らしてますから」

 ウルは少し考えると、

「ノワル様、私の故郷に連れて行ってもらえませんか?」

 とウルはノワルに頼み込む。

(われ)は良いが、アリヨシは?」

 ノワルは急に頼まれて少し戸惑っているようだった。

「俺は別にいいぞ?

 どういう場所かはわからないが、ウルの故郷ならば行ってみてもいいだろう」

「だったら、私も行きます」

「私もですね」

 ベアトリスとグレアも続いた。


 最初に会ったときは、俺んちの近くをオークに襲われていたから、めちゃくちゃ遠い所に故郷があるとは思わなかったが、実際には結構離れた場所だった。

 帰りは岩塩の塊を持たないので、ノワルは俺の家の近くまで音速で飛ぶ。

 そして速度を落としてウルのいうままにウルの故郷を目指した。

 鬱蒼とした森林の中にポツンと広場のように開けた場所が見える。

 レーダーにはその周囲に光点が見える。二十個前後? 

 これがエルフかな? 

 広さはクルーム伯爵の庭よりまだ狭い。

 ノワルはホバリングしながらゆっくりと広場へ降り立つ。

 俺、ウル、ベアトリス、グレアの順でノワルの背から降りる、そのあとノワルは人化した。


 広場の周りに掘っ立て小屋のような建物が十ほどあった。

「誰かいませんか!ウルリーク・ヴィルヘルトが帰りました」

 周りに向け大きな声で叫ぶウル。

 ありゃ、たいそうな名前。名字持ちって貴族以上だよな。

「姫様、心配しておりましたぞ。

 『巨人が復活した』と急に村を飛び出しその後の音信は不通、どういう事でございますか?

 伝説の巨人は見つかりましたか? 何ですか、その人間と獣人は」

 杖をつきローブを着た老齢のエルフが質問を続ける。

 その後ろからぞろぞろとエルフが現れた。

 ウルってこの村での立ち位置はどうなんだろう。


 つか伝説の巨人?

 イデオ〇か? 


「巨人は見つかりました。この方です」

 えっ、俺? 

 俺をチラ見するウル。

 えっ、元に戻れって?

 そういうことは事前相談をお願いします……なんて言っている場合じゃなさそうなので、俺は、スプーンへの魔力供給を止め巨人に戻った。


「えっ、巨人」

「巨人だ……」

「人類を打ち滅ぼす巨人だ……」

 うわっ、今聞いちゃいけないことを聞いたような気がする。

 俺は、スプーンに魔力の供給を再開し、人に戻る。

「ウル、俺は人類を滅ぼしたりはしないぞ?」

 ウルに近づき小声で話す。

「アリヨシ様、わかっております。

 もう少しお待ちください」

 ウルも振り返り小声で話す。

「しかし、巨人は人と争うことを求めていません。

 共存することを求めています。

 私は巨人の下で人とともに生活していましたが、人間もすべてが悪いわけではないのです。

 今巨人は種族を気にせず人手を求めています。

 わが村もそこに移住したいと思う」

「姫様、我々の先祖は七百年前に人間に負けたのですぞ?

 そして我々は森の中で隠れて暮らすようになった、その待遇を嫌がり人間に復讐をすると言っていたのはあなたではありませんか」

「クルツ、申し訳ない。

 私は外の世界を知らなかった。

 外の世界を知り考えた結果が巨人の土地への移住だ。

 今のままではこの村もなくなるだろう。

 いつからだ?

 我が村に子供が生まれていないのは。

 私より年下の者などおるまい?

 自分たちの生活だけで精一杯、元々子供のできづらいエルフが子を成す行為さえしなくなった。

 このままではエルフは滅亡してしまう」

「だから何だと?」

 クルツと言われた老人が聞いてきた。

「だから、巨人を手伝うのだ。

 あの巨人はバカではない。

 我々を守ってくれるだろう」 

 ウルがここまで言ったんだ、ちゃんと話しとかないとなぁ。

「話に割り込んですまないが、実際人手が欲しいんだ。

 今開拓している土地はまだまだできることがある。

 人間が嫌いならそのままでもいい。

 手伝ってくれるなら、食の心配はしなくていいようにする。

 魔物からも守る。

 来たい者だけでも来てもらえると助かるよ。

 だから、考えてみてくれないか。

 よろしくお願いします」

 俺は頭を下げた。

「巨人が頭を下げたぞ?」

「巨人って傲慢で我が儘なはずなのに」

「代償を取られるとも聞いたが。守ってくれるのなら」

 ぽつぽつと声がする。

 

 巨人って悪い奴らしい。

 

「姫様、巨人と戦ってもよろしいでしょうか?」

 老人が言った。

 

 ん? どういうこと。


「わかりました。

 広場でやりましょう」


 えっ、何で決定? 


「戦うのか?」

「お願いします」

 ウルが頭を下げる。

「あなたの力量を図るためにクルツが仕掛けてきているのです。

 本当に村人を守る力があるのかを確認するために」


 やらなきゃいけないのね。


「仕方ないなぁ」

 俺は広場の中央へ向かう。

 老人と正対した。

「ウル、どうなったら勝ち?」

「戦闘不能になったら終わりです」


 俺にどうしろって言うんだ。

 どうせできるだけ傷つけちゃいかんのだろ。

 さて、どうしよう。

 戦闘不能って事は気絶させればいいのか。あれで行くか……。


 ウルの、

「はじめ」

 の言葉と同時に、風の精霊に老人の顔の周囲の空気を抜いてもらう。

 窒息を狙ったのだ。

 首を掻きむしるしぐさをすると、一瞬で老人は倒れ落ちた。

 すぐに空気復旧。


 あっ、これ暗殺で使えるね。

 使わんけど。

 あー、気絶してるね。


「クルツ様が一瞬」

「あのクルツ様が」

「…………」

 エルフたちは老人が一瞬で気絶したことに驚いていた。

 ウルでさえ、目を見張っている。

 結構強い人だったのね。


 老人の頬を軽くたたくと目を覚ます。

「爺さん、大丈夫か?」

「ん? あぁ、大丈夫だ」

 俺が手を出すと老人も俺の手を掴む。

 そして俺は老人を引き起こした。

「勝てると思っていなかったんだろ?

 俺は見えないが俺の周りにはすごい量の精霊が張り付いているってウルに聞いたことがある」

「わかっておったのか?」

「なんとなくだけどね。負けて負け様を見せようとしたのかなと……」

「村人も戦いの結果を見れば、おぬしがどのような性格なのかよくわかるだろう。

 残虐に殺すような者には誰もついて行かん」

「それじゃ合格でいいか?」

「ああ合格だ。我々は何をすればいい?」

 老人はニヤリと笑った。

「そうだなぁ、牛とランニングバードの世話。

 飼料大根を育てて砂糖づくり。

 岩塩の採掘。大豆の栽培。

 のちには小麦栽培。

 あとは、菓子作りかなぁ。

 お酒も欲しいね。

 やりたいことは一杯だ」

「おぬしの頭の中は楽しそうだな」

「ああ、楽しい。

 だから俺たちだけでなくここの人たちも一緒に楽しめたらいい」

 ん? 

「ところで、ウルは何で姫様なんだ?」

「エルフ王国十七代目の正統なるご息女。

 本名はウルリーク・ヴィルヘルト。

 大戦後では二代目になる」

「大戦時の王がお爺さんになるわけか」

 なんか、後で揉めそうだなぁ。

 そん時はそん時か。


「おぬし名は?」

「アリヨシだ、あんたはクルツだな」

「そうだ、だが、今から儂はお前の下で働く。

 だからアリヨシ様と呼ぶ。

 おぬしは爺さんでもクルツでもどうにでも呼べばいい」

「じゃあ、クルツだな。よろしく頼む」

「かしこまりましたアリヨシ様」

 クルツは俺の前で傅いた。


 そのあとの話は滞りなく進み、三日後に迎えに来ることを約束し、村を離れた。

 さて、住居を作らないとな。

 ノワルに乗って帰る途中。

「ウル、お前、お姫様だったんだな。

 それも結構おてんば一人でここまでくるなんて無茶するよ」

 俯いて何も言わないウル。

 図星かな?

「しかし俺が起動したことをどうやって知った?」

「父が亡くなる前『もにたー』というものを渡されていました。

『いつもは緑に光っているが、赤くなった時、巨人が復活する』と教わっていたのです。

 父もお爺様から教わったと言っていました」

「それで、俺を確認しようと俺んちに近づいたときにオークに襲われたのか」

「はい、その通りです。

 巨人そのものに助けられるとは思いませんでしたが……」

「俺が行かなかったら死んでたし。

 俺が行っても恐れて動けなくなっていたじゃないか」

 まあ、あの時はクマスーツだからなぁ……恐れるのは仕方ないけど。

 再び俯いてウルは静かになった。

 そして思い立ったように、

「アリヨシ様、私のことは全部話しました。

 クルツからも聞いたのでしょう?

 あとはよろしくお願いしますね」

 と言ってペコリと頭を下げるウル。

「よろしくとは?」

 ボッと赤くなるウル。

「機会があればな」

 チョット遅れ気味のベアトリスの視線が痛い。


「一つ聞きたいんだが、ウル、エルフたちは精霊魔法が使えると考えていいのか?」

「はい、元々エルフの特徴は精霊魔法が使えることです」

「だったら地の精霊魔法は使えるんだな」

「そうなりますね」

「だったら、岩塩の採掘も畑を耕すのも大丈夫だな」

「個人差があるとは思いますが、大丈夫でしょう。

 しかし、魔法を採掘や農耕に使うとは……」

 使えるものを使わない手はない。

 収穫とかは手でやる必要があるが、わざわざ鍬を振って畑を耕す必要はないはずだ。

「さあ、帰って飯にしよう。

 ウル、一緒に作ろうか」

「はい」

 その時ノワルはすでに家の前への降下に入っていた。


小説を読んでいただきありがとうございました。

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