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えっ、そんだけ?

誤字脱字の指摘、ありがとうございます。

「アリヨシよ、砂糖の件は自由にしていい」

 オヤジさんが言った。

 砂糖は俺が自由にしていいらしい。

「それでは儂の用事は終わりだ。

 あとは好きにしてくれ」

「えっ、そんだけ?」

「ああ、それだけだ」

 こうして話は終わった。

 本当に、ベアトリスの母ちゃんの機嫌取りだったのね。


 そんなら、

「早速ですが、ドリス・ベックマンをベアトリス付けの騎士にしてもらえませんか?」

 とオヤジさんに進言する。

「ドリス・ベックマンを?」

「はい、砂糖製作の知識はドリス・ベックマンも知っています。

 ドリス・ベックマンはあの村で一人生活しているので、砂糖が流通し始めると製法を知るため襲われる可能性があります。

 ですから、あの村へは誰かドリスの部下として代官を置き、ドリス・ベックマンについては私の手元に置いておきたいのです」

「ふむ、機密保持のためというわけか……」

「そうです」

「よかろう。

 代官はこちらから派遣しておく。

 入れ替わりでドリス・ベックマンはお前の所へ行くようにしよう」

「ありがとうございます」

 俺はオヤジさんに頭を下げた。

 まあ、これで俺の話も終わりだけど……そう思ってベアトリスを見ると、気づいたようで、

「それではお父様、失礼します」

「ステファン様、失礼しします」

 そう言ってベアトリスと俺はオヤジさんの執務室を去るのだった。

「ドリスさんの件、うまくいきましたね」

 ベアトリス歩きながら言ってきた。

「覚えていたのか?」

「はい」

「これで全員そろうな」

「はい、でも私の事もよろしくお願いしますね」

 ニッコリ笑ってはいるが目はちょっと怒っているベアトリスだった


 ということで後は、岩塩に関すること。

「ベアトリス、あの岩塩どうする?」

「そうですね、商人に見せましょう」

 岩塩の件はベアトリスが仕切るので、オヤジさんに言う必要はない。

「見に来る?

 持って行く?」

 あの塊を俺が運ぶなら、巨人に戻る必要がある。

 わざわざ貴族風の服を着てきたんだ。

 そういえば、ベアトリスのお泊りを謝りに来た時、サーベルが巨大化したよな。

 身につけている物は適正な大きさに変わるはずだから、まあ、服に関しては巨人に戻っても問題ないわけか。

 ただ、魔力の消費量がどうなるかまではわからないけどね。

「とりあえず、見に来てもらいましょう。

 伯爵家の懇意にしている商人がいますから……」

 ベアトリスは再び家令に指示を出すと、家令からメイドへ指示が出たようだ。玄関から外へ出ていく姿が見えた。

「『ルンデル商会』の者が来ると思います。

 岩塩を見てもらいましょう」

 ベアトリスが言った。


 リビングに戻ると、

「ご主人様、ちゃんと待っていました」

「アリヨシ、(われ)も待っておったぞ?」

「アリヨシ様、お帰りなさい」

 グレア、ノワル、ウルのそれぞれが立ち上がり俺を迎える。

 何も起こさずに待っていたことを誉めて欲しいのか、グレアの尻尾がブンブン振られていた。

 頭を撫でる俺。三人は気持ちよさそうに目を細めていた。

 でも何も起こさないで待っているのって普通じゃない? 


 ん? 


 俺の傍でじっと立っているベアトリス。

「ベアトリスもか?」

「いっ、いえ、私は……」

「まあ、ついでだ」

 俺はベアトリスの頭も撫でるのだった。


 応接セットに五人で座り待っている。

 ただ、俺の両側の取り合いが始まった。

 ゴソゴソとちょっと鬱陶しい。

「あみだくじするか」

「「「「あみだくじ?」」」」

 紙に四本の縦線を引き、そこに二つ丸を付ける。丸が付いたところはわからないように折って、後は適当に横線を引いてっと。

「ほい」

 厳正なるあみだくじの結果。

 俺の隣に座ったのはベアトリスとウルだった。結局ケモノーズは両端になった。

 そして座る場所が決まったころ、恰幅のいい中年の男が現れる。


「ベアトリス様、お久しゅうございます。

 何やら見て欲しいものがあると聞いてまいりました」

 クルーム伯爵御用達の商人と言う事だ。

「急な呼び出し、申し訳ありません。

 今日は私が開発しようとしている岩塩鉱山の鉱石を見てもらいたくて呼んだのです」

 ベアトリスが説明をする。

「岩塩鉱山、うわさでは聞いていましたが実際に開発されるのですね」

「噂になっていたのですね」


 機密が漏れていたわけか……。

 そりゃ問題だ。


「ベアトリス様、商人は金になりそうな噂を聞き逃すわけにはいきません。

 お気になさらず。

 それでは鉱石を見せてもらえますか?」

 おっと、話をすり替えた。

「それでは、庭に来ていただけますか」

「えっ、庭?」

 ベアトリスがソファーを立ち上がると商人が立ち上がり、俺を含めた四人がベアトリスと商人に付いて行く。

 玄関を出て庭が見渡せる位置に来ると、

「あれです」

 そう言って、庭の中央に刺さった赤い岩塩の塊を指さした。

 岩塩は日に照らされキラキラと輝く。

「ベアトリス様、この位置でもわかる。

 不純物が少なく透きとおって向こうが見えている。

 あれが本当に岩塩なら大変な価値ですぞ!

 しかしあのような塊をどのようにして……」

「ルンデルさん、紹介しておきましょう。

 この岩塩鉱山を発見したアリヨシ様。

『私の夫』になる予定です」

「アリヨシです、よろしくお願いします」

 俺は軽く頭を下げた。

「アリヨシ様、こちらがデニス・ルンデルさん。

 クルーム伯爵家御用達の商人です」

「初めまして、デニス・ルンデルと申します」

「この岩塩鉱石を持ってきたのは、そこに居るノワルさん」

「よろしくのう」

 そう言うと、ノワルは人化を解き、バハムートの姿に戻る。


 演出? 


「うっ、うわぁ、ドッドラゴン……」

 二十メートル以上あるノワルを見て腰を抜かすデニスさん。


 デニスさん、それは正しい反応だと思う。


「ちなみに、ノワルさんはアリヨシ様の従魔です」

 ベアトリスの説明を聞き「えっ」って感じで俺を二度見するデニスさん。

「申し訳ない、ノワルがからかったようだ。

 ノワル、人化して」

 再びメイド姿に戻るノワル。

 わざとバハムートに戻って俺の価値をアピールしてくれたようだ。


「ところでデニスさん、あの岩塩が取れる鉱山がクルーム伯爵領内にあり、販売を依頼する商人を探しているとしたらどうします?

 まあ、まだ調査して人手も集めなければいけないんですがね」

 静かに目を瞑るデニスさん。

 計算しているのだろう。

「海水を原料にした塩が流通していますが、この塩は最終的に塩にする際、大量の薪が必要になり薪代の分高くなります。

 更に南部の遠方から運ばれてくるため輸送費で北部であるこちらでは高くなってしまいます。

 噂では薪のために木を切り倒すため森がなくなっているとも聞きます。

 こちらの岩塩は掘り出すだけで済みますから、南部産の塩よりも安くそして大量に流通させることができる。

 北部周辺だけでも顧客を取り込むことができれば、南部産の塩の半分で売ったとしても十分利益は出るのは間違いありませんね。

 私どもに販売を依頼していただけるのなら、喜んでお受けしましょう」

 俺たちに説明しているのか、自分を納得させているのかわからないような言い方で、デニスさんは言った。

「ベアトリス、デニスさんとの交渉はベアトリスに任せるよ。

 両方が納得できる契約にしてくれ」

「わかりました、アリヨシ様」

「デニスさん、後の交渉はベアトリスに任せてあります。

 よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 俺とデニスさんは握手をした。

「先ほども言いましたが、まだ表面しか見ていない状態です。

 どの程度の埋蔵量があるのかもわかりません。

 人手さえない状態です。

 ですから詳細が分かれば、ベアトリスのほうから連絡するようにします」

「わかりました。良い報告をお待ちしております」


「ベアトリス、あの岩塩どうする?」

「私どものところでは、あの量は要りませんね」


 そりゃそうだ、縦三メートル、横二メートル程度の卵型である。削れてもないから使うのも一苦労だろう。

大きすぎたな。


「デニスさんは、あの岩塩要る?」

「あの大きさでは荷車で運べません」

 トン単位の岩塩の塊か、確かに荷馬車には乗らないだろうなぁ。

「小さくしたら、要ります?」

「小さくなるのであれば」

 デニスさんは不安げに俺を見る。

 塩の結晶は正六面体だからうまくやればサイコロ状に割れるはずだ。

 一辺十センチ程度のサイコロ状に切ってくれと土の精霊に頼むと、庭に刺さっていた結晶が無数のキューブ状の物になり崩れ落ちた。

「これでいいかな?」

「あっ、アリヨシ様は魔法が使えるですか?」

 驚くデニスさん。

「まあ、程々に」

 ばらばらになった岩塩鉱石を見て

「これならば荷馬車に乗せられます、いただいていいのですか? これだけでも相当な価値がありますが……」

「ああ、いいのいいの。

 どうせ持っていても使いきれないから。

 ん?

 だったら、試供品として塩を使うようなところへ提供してもらえますか?

 『こんなのが売り出されるかもしれない』って感じで……」

「試供品として渡してお客様の声を聞くと言う事ですね。わかりました。お任せください」

 ドンと胸を叩いたあと、お約束でむせるデニスさんだった。


 さあ、ここでのことは終わり、家に帰るかなぁ


小説を読んでいただき、ありがとうございました。

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