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軽くプリン戦争(ベアトリスVSベアトリスの母ちゃん)が起きました。

 三日後、朝からプリンを作り、ドリスんちに持って行ったようにコップに蓋をし箱に藁を詰め少々揺れても大丈夫なようにした。

 岩塩もノワル一抱え程度の塊を削り出し準備する。

 いざ伯爵の館へ行こうとなった時、元々俺とベアトリスで行く予定だったのだが、ノワルがみんなで行こうと進言してきたのだ。

(われ)の背も大きくなり、皆と飛ぶぐらいは大丈夫なのじゃ!」

 ということらしい。

 ノワルはデカくなった胸を張っていた。

「「チッ」」

 つつましい組の二人からあからさまな舌打ちが聞こえる。

「まあ、皆で行くのも良いんじゃないのか?

 せっかくだからベアトリスが手に入れてくれた貴族風の服を着ていくか」

 拡大縮小が確実な熊スーツを愛用しているが、今日はオヤジさんだけでなく、ベアトリスの母ちゃんにも挨拶をする必要があるからな。

 ウルも町娘モード。

 ベアトリスは良家のお嬢様。


 まあ、伯爵の娘だからな。


 グレアは白のメイド服っぽいの。

 まあ、これなら問題ないか……。

「ちなみに、ベアトリスの母ちゃんの名前って?」

「ああ、ブレンダと言います」

 ほう、ブレンダ・クルームね。

「それじゃ、行くか。ノワルよろしくな」

 俺達四人はノワルの背に乗り、ノワルの手には岩塩を持ち、クルーム伯爵の館へ向かった。


 今回は岩塩の塊を持っているので、音速までは出していないが……それでも、すぐに館に着いた。

 館に着くとノワルはホバリングしてゆっくり降りる。

 館の者たちも慣れたもんで、

「お嬢様が帰られた、ステファン様にご報告を」

 などという声が聞こえる。

「あっ」っというノワルの声がした後、

「ズズーン」

 という岩塩の塊が落ちる音がした。

 庭の中央に石碑のように立ってしまっている。

 後で動かしておくか。

 そして俺達五人は、館の庭に降り立った。ノワルは人化し黒のメイド服っぽいのに身を包む。


「アリヨシ様こちらです」

 ベアトリスが先導し、館のリビングのようなところに通される。

 すると家令にベアトリスが何かを言うと家令はどこかへ行った。

 オヤジさんに報告に行ったかな? 

 その後、俺たちはソファーに座り、オヤジさんからの呼び出しを待つ。

「この紅茶、ベアトリスのほうが美味いな」

「はい、アリヨシ様のところに行ってからは紅茶は自分で毎日ですからね。

 それで上手くなったのでしょう。

 でもあまりこの場所ではそのようなことをおっしゃらないでください。

 メイドたちが悲しみます」

「おお、悪い。

 そういえばベアトリスもメイドとか居たほうがいいんじゃないのか?」

「私はあの場所で皆さんと居られる方が気が楽なんですよ。

 メイドが居ると監視されているようで……。ウルさんもグレアさんもノワルさんも居ますし……。

 でも、この四人のうちで私が最初のお手付きにならなかったのが残念ですけど……」

「ああ、それは流れだろ。

 俺もグレアと散歩に出てたあと手を出すなんて思っていなかったしな。

「アリヨシ様、グレア様はちゃんと計算していたんですよ?

 その計算通りにアリヨシ様は動いたのです」

「えっ」

 おっと、あれって計算だったのか。

 驚く俺を見てベアトリスは

「ですよね、グレアさん」

 とグレアを見る。

「……はい」

 真っ赤になって俯くグレア。

「まあ、乗っかったとはいえ。

 どっかで一線超えるつもりだったからそれでいいだろ?

 他の三人だってあとはきっかけだろうし……」

「「「きっかけ?」」」

 真っ赤なグレアを放っておいて身を乗り出す三人。

「ん?

 だって俺の妻になるんだろ?

 つか俺も三人を妻にしたいし」

 身を乗り出した三人に言う。

「正直に言っておくと、ノワルは本当に流れだけだと思う。

 ウルはウルのことを正直に教えてくれた時、ベアトリスはちゃんと岩塩の事業を軌道に乗せた時、ドリスは今日の話の時に上手くやれたらだな。

 ベアトリスの場合は、まだ何もしていない俺が手を出してみろ、オヤジさんが領軍を連れて攻めてきそうだ」

「それはあり得ますね」

 そんなことを話ししていると、家令がベアトリスと俺を呼びに来た。


 俺とベアトリスは大きな扉の前にたどり着く。

「ベアトリス様とアリヨシ様をお連れしました」

 家令がそう言うと、

「入れ」

 というオヤジさんの野太い声が聞こえた。

「おはようございます。お父様」

「お久しぶりです、ステファン様」

 一応、屋敷内のためオヤジさんには敬語を使う。

 オヤジさんは執務用の大きな机の前に居た。

「おはよう、ベアトリス。

 久しぶりだなアリヨシ。

 ところで新しいお菓子というのは……」

 俺が手にした箱をガン見するオヤジさん。

「こちらになります」

 俺は、箱をオヤジさんに渡した。

「悪いな、アリヨシ。あれがどうしてもと言ってな」


 あれって、ベアトリスの母ちゃんのことなんだろうな。


「いいえ、作るのは簡単ですから気にしないでください」

 すると、俺がプリンを出すのを見計らったように扉がノックされ、

「私です、入りますよ」

 という女性の声が聞こえた。


 おっとベアトリスの声に近い。


「ああ、入れ」

 オヤジさんが言うと、ブレンダ様登場って感じでベアトリスそっくりの縦巻きを盛った美人が登場した。

 おっと、ベアトリスには無い胸がある。

 俺がベアトリスの母ちゃんの胸を見ているのを気付いたのだろう、ベアトリスに袖を引っ張られる。

 顔はちょっと怒っていた。


 悪い……。


「それが、ベアトリスが言っていたお菓子」

 俺が持ち込んだ箱を見て言う。

 それしか見ていないのね。

「ああ、今アリヨシが持ってきてくれた」

「あなたが例のアリヨシさん」

 ベアトリスの母ちゃんは値踏みするように俺をじろじろ見る。

「奥様、お初にお目にかかります。

 ベアトリス様とお付き合いをさせてもらっております」

「お付き合いと言っても婚約もまだでしょ?」

「はい、後には認めていただこうと思っております。

 ステファン様には『結果を残してから』と聞いておりますので。

 まずそこからになりますね」

「ふーん、まあ頑張って」

 あまり興味無さそうにベアトリスの母ちゃんは言った。

 とりあえずファーストコンタクトはどうだろう。

 さて、どういう印象を持ってもらったかな? 

 それよりもプリンらしい。

 なぜか右手にスプーンが見える。


「あなた、あなた」

 肘打ちをされるオヤジさん。

 しかし、何をして欲しいのか気付かないオヤジさん。

「ステファン様、お菓子を召し上がってみてください」

 俺のほうを見てナイスフォローって感じで笑うベアトリスの母ちゃん。

 オヤジさんは箱を開け、中からプリンを出した。

 そのプリンをベアトリスの母ちゃんは取り上げ、蓋を外す。

 そして準備してあったスプーンでプリンを掬い取り口に含んだ。

「…………」

 無言の数瞬。

「ベアトリスとの婚約を許します。

 ですからあなた、ここに住みなさい。

 何ならここの料理を取り仕切りなさい」

 急に俺とベアトリスの話を進め始めるベアトリスの母ちゃん。

「はぁ?」


 何を言ってるんだこの人。


「お母さま、ダメです。アリヨシ様は私たちのものです。

 あげません」

 ベアトリスは俺の前に立つ。


 取られてはなるものか! って感じかな?


「こんないい物を作れる者を手元に置かないなど、あり得ません。

 即刻この屋敷に住むべきです」


 ふむ、ベアトリスの母ちゃんはプリンが食べたいだけらしい。


「奥様、このお菓子の原料となる物がこの周辺にありません。

 ですからここに私が居てもこのお菓子を作ることは無理ですね。

 それにこの館に住まうとしても、私はステファン様を納得させる結果を出していません、ですから許可を頂けないでしょう」

 ウンウンと頷くオヤジさん。

「でっ、ですが……このお菓子は……」

「お母様、アリヨシ様は『私の』婚約者になる方です。

 お母様にはお父様がいらっしゃるじゃありませんか」

 再びウンウンと頷いているオヤジさん。

「そっ、そうですね……でも、たまにはここに来るのでしょう?」

「ステファン様との相談があればですが」

「その時は……」

「はい、お菓子を持参するように心がけます」

「よろしい、良い婿が来そうですね」

 満面の笑みでベアトリスの母ちゃんは去って行った。

 オヤジさんのプリンを失敬していくのを忘れない。

 結局、プリンの話しかしなかったな。


「ステファン様、結局プリンを食べられませんでしたね」

「ああ、儂は甘いものをあまり好まんからいいのだ。

 あれで機嫌がよくなるのなら尚更な」

 ヤレヤレ感を出してオヤジさんは言った。

「貴族の妻と言うのは次代を産むためでしかない……と思われておる。

 ベアトリスのような娘は稀だ。

 ブレンダの楽しみと言えば、子供の成長、あと衣食ぐらいしかなくてな。

 これで孫でもできればまた違うのだろうが……」

「その事です。

 お父様、巨人の知識らしいのですが、子供を授かる確率を上げる方法があるらしいのです」

 あっ、俺がこの前言った奴か? 

「何?

 巨人の秘術か?」


 おー、大層な話になっているな。中学時代で漁った知識なんだが……


「まあ、そんな感じですね。これがメモになります。

 お兄様にお渡し願えませんか?」

「わかった、預かっておく」

 オヤジさんはベアトリスからメモを受け取った。

 メモをチラ見するオヤジさん。

 それは、オヤジさん用じゃないからね。


小説を読んでいただきありがとうございました。

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