グレアと散歩しました。
ベアトリスとノワルが出発したあと、一人で歩いているグレアに、
「散歩するか?」
と軽く聞いてみた。
「散歩ですか?」
ありゃ覚えていないかな?
「俺がノワルのところに行くとき約束しただろ?」
「あっ……」
思い出したのかパッと明るい顔になるグレア。
「はい、行きます」
そして嬉しそうに答えた。
「どこ行きたい?」
ちなみに俺はノープランだ。
「森を走って行きたいところがあります」
「ちなみに場所は?」
「内緒です」
そう返事をするとグレアはフェンリルの姿に戻り俺の前に伏せる。
俺は伏せても二メートル五十センチほどありそうなグレアの背に乗る。
「さあ行きましょう」
そう言うと、グレアは立ち上がり走り始めた。
と言っても俺の家からそう離れていない森。
「ここです、私はアリヨシ様に助けられました」
「そういやそんな事もあったな。あれからまだ一年も経っていないのか」
走竜に襲われていたグレアを俺は助けたのだ。
「はい、でもあの時から私にとって大好きなご主人様です」
背に居る俺に振り返り照れながら言うグレアが可愛かった。
「次、行きますね」
そう言うとグレアは走り始めた。ノワルの飛行に比べれば遅いが、森の中を走る速度は十分に速い。巨人状態の俺よりもだ。
足元でバキバキ言っているから、枝なんて無視してるんだろうな。
温泉の池を越え、崖を飛び降り、川岸に出る。そしてグレアは低目の草木の生える川沿いに上流へ向け走り始めるのだった。
どのくらい走ったのか川幅は狭まり流れも急になる。川岸は鬱蒼とした森林となった。
「結構遠いんだな」
「はい、でも今の私ならもう少しで着きます。
この坂を登り切った先……」
グレアが言った通り坂を駆けあがると広い草原に出る。
「ここは?」
「お父様が倒された場所」
寂しげな声でボソリとグレアが言った。
「ここで、オヤジさんは冒険者に襲われたのか?」
「私が物心ついたときには既にお父様と私だけでした。ですから母親が居たのか兄弟が居たのかもわかりません。
お父様に狩りを習いながら森を渡るような生活をしていました。
ある日、お父様と私は数多くの冒険者に囲まれました。
お父様一人なら逃げられたのかもしれませんが私が居たから……。
私を守りながら戦うのは無理だったのでしょう。
でも倒される直前に父様は私を逃がしてくれました。
『元気でな』と言って私を咥えると放り投げたのです」
グレアは俺を降ろすといつもの白いメイド服に戻る。
「なぜおれをここに?」
「あれ以来ここへは来ていません。
でも、ご主人様とここに来たかった。
お父様に報告するために」
「報告?」
「はい!
『元気でやってます。この人に会って幸せです』って」
グレアは振り返りニコリと笑って言った。
しかし、目からは涙が流れる。
オヤジさんが亡くなった場所か……。
俺は手を合わせる。
「ご主人様、なぜ手を合わせているのですか?」
ノワルが不思議そうに聞いてきた。
「ああ、これは前の世界のお祈りのしぐさだ。
亡くなったものにメッセージを送る時にやるんだ」
「ちなみになんて祈ったんですか?」
「『オヤジさん、俺、グレアを幸せにします。見守ってください』ってね」
グレアが再び涙を流す。
「嬉しい」
そう言って俺の胸に飛び込んできた。
俺の目の前に銀色の髪の毛とぴょこんと出た犬耳。胸にはしっかりと胸。
「やっぱり可愛いいよな」
「えっ……」
「ん?」
しばしの沈黙のあと。
「可愛いって……私が?」
ありゃ、グレアはそう思っていない?
いや、でも自分でそう思っているのもちょっと引くか……。
でも、耳アリ、尻尾アリ、くびれアリ、そのうえ美女なんて居ないぞ?
「ああ、グレアが可愛いぞ?」
「嬉しいです。私はですね……やっぱりご主人様が好きです!」
「えっ?」
俺、こんなストレートな感情受けたことないぞ?
「だから、抱いてほしいのです。私は魔物です。強い者の精をうけ子が欲しいと思うのです」
グレアの体から服が消える。
俺は息をのみグレアをガン見てしまった。
「あっ、あの……ご主人様、恥ずかしい」
グレアは両手で体を隠す。
「おぉ、あまりにも綺麗だったから……」
俺は固まった状態から復帰した。
私、裸なんですけどどうするんですか?
ご主人様……って感じで俺をじっと見てくるグレア。
でもなぁ、さすがに何もない外で抱くのは抵抗がある。
ならば……。
俺は一度、スプーンへの魔力供給を止め巨人に戻って熊スーツ上着を脱ぎ、再びスプーンに魔力を通し人に戻る。
熊スーツは毛と皮を入れると三十センチほどのマットぐらいの厚さがある。
熊スーツの首元を開け、
「おいで」
と、誘うとグレアは中に入ってきた。
まあ、色々やったぞ。
睡眠状態で七百年?
起きて一年経っていない俺。
前世でも素人童貞に近い俺だが、前世の知識でなんとかグレアを悦ばせた。
ぐったりとしたグレアが俺の横に転がり寝ている。
グレアは、獣人だからなのかフェンリルだからなのかはわからないが、尻尾や耳があんなに感度がいいとは思わなかったぞ。
触るだけで「あっ」とか「えっ」とか声が上がる。
汗と赤いのや白いのに汚れたグレアの体、そして周辺の皮を精霊に依頼して洗っておいた。
おっと俺も洗っておこう。
グレアって感じると爪を立ててくる。
んー、狼? フェンリルだから?
結構爪が鋭く、俺の体に赤い跡が付く。
血が出たりはしないんだがね……
これもヒールで回復しておいた。
体を起こしてグレアを撫でていると、くすぐったかったのか目を覚ました。
「ん、うーん。
あっご主人様」
真っ赤になるグレア。
「おっおう」
俺も慣れてないから、気の利く言葉なんかは出ない。
「ご主人様、幸せです……でも、ご主人様が作られた巨人、私はフェンリル、もしかしたら愛し合っても子が授からないかもしれないけれど、今回のことで子が授かると嬉しいです。
愛してもらっただけでも嬉しいのに欲張りですよね」
グレアはそう言って苦笑いした。
「子供かあ、俺もグレアとの間にできるかどうかはわからない」
俺の中にインストールされている知識にも無い。
「まあ、とりあえずみんなで幸せになろっか」
「はい!」
再びグレアが抱き着いてくるのだった。
再び首元から外に出ると外は日が暮れていた。
「さて帰ろう」
「はい、ご主人様」
満天の星空の中、俺はグレアに乗って家に帰るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




