農場に牛が来たのでプリンを作りました。
誤字脱字の指摘、ありがとうございます。
昼過ぎ、クルーム伯爵のところから牛が来た。
ベアトリスが手配した牡牛二頭、雌牛十頭、子牛(雌)を十頭である。
この前指定したとおりだ。
ホルスタインのような品種改良された牛ではないが乳房がパンパンに張っていた。それを子牛が飲んでいる。
牛たちは柵の中に入り放牧場の草を食んでいる。
事前に木の精霊に魔力を渡し、草を育てておいたのだ。
俺、ノワル、グレア、ウル、ベアトリスの立会で牛を受け取る。
まあ、手続きはベアトリスが全部してくれたんだけど……。
届け物の使者が帰り、牛の様子を見ようとノワルが近づくと牛たちが固まる。
「何でじゃろうの?」
「お前の強さに怯えてるんじゃないか? もしかしたら、お前って乳絞りに最適人材かもしれないな。
まず舐められたりしないだろう」
「舐めたりしたら、食ってしまうがの」
「食ってしまう」の声が聞こえた時、明らかに牛たちが動揺するのがわかった。
俺は台に腰掛けると、
「まあ、見よう見まねだが……」
と言ってキレイな桶に牛の乳を搾る。
明らかにノワルより怯える牛たち。
俺ってそんなに怖い?
まあ、動かないからやりやすいからいいけど。
乳首の根元から先にかけて指を絞り込むと、ジュッジュッ……と牛乳が桶に溜まっていく。
桶半分ぐらい溜まったところで、
「これが牛乳な」
そう言ってコップに汲んで順番に飲ませた。
「美味いのじゃ」
「美味しいです」
ノワルとグレアのケモノーズは美味しそうに飲む。
「飲めなくはありませんが、多量には無理ですね」
「私もです」
ベアトリスとウルはお口に合わなかったようだ。
ただ、俺が
「牛乳って飲むと、胸が大きくなるって聞いたけどな」
とボソリと言った言葉を聞き逃さず、
「これは、薬です」
「私たちに必要な薬です」
そう言って二人はおかわりを飲み干すのだった。
「これでいいのかの?」
ノワルが乳を搾る。
「私もやってみます」
グレアも乳を搾る。
黒と白のメイドが乳を搾る姿。
何か違和感あるな。
しかし、俺のを見ただけなのだが二人は乳搾りが上手かった。
二人が上位の魔物ということもあり、牛もいうことをよく聞く。
正しく言えば聞かざるを得ない。
こりゃ二人に動物系の世話を任せるかな。
「全部絞っちゃダメだぞ。
子牛が飲む牛乳がなくなる」
「了解なのじゃ」
「わかりましたー」
一応忠告しておく。
あっという間に、木桶に二杯分の牛乳が絞れた。
それを見ながら、
「アリヨシ様、これで牛乳の確保ができました。何ができるでしょうか?」
ベアトリスが期待満々で聞いてきた。
「そうだなあ、あとは砂糖があればいいんだが……」
ニヤリと笑うベアトリス。
「そう言うと思って、買っておきました」
荷馬車を指差すベアトリス。
そういえば荷車も一緒に来てたなあ。
その中に油紙で封がされた結構大きな壺があった。
今回の牛の便で一緒に持ってきたらしい。
よく見ると他にも壺や麻袋がある。
「砂糖以外になんかあるの?」
「飼料大根の種と大豆の種ですね。アリヨシ様が欲しがっていたものです」
「服もあるが……」
「巨人状態じゃないときにこの服を着てください」
「ありがとうな、助かる」
ベアトリスの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を瞑った。
「種蒔きはは明日だな。今日は帰ってプリンだ」
「「「「プリン?」」」」
「俺の世界のお菓子だよ」
「「「「お菓子!」」」」
「ウル、手伝ってくれるか?」
「はい!」
俺に声をかけられて嬉しいのか無い胸を張るウル。
俺は荷車を引き皆と一緒にホールへ帰る。
「ウル、簡単だから作り方覚えるといいよ」
「はい!」
おぉ、ウルがヤル気満々。
他の三人は食べる気満々。
定番のプリンを作る。
ランニングバードの卵も朝取れで手に入っていたので、材料も揃っている。
まあ、大体で……。
牛乳と卵、砂糖をボウルのような容器に入れ加熱しながらかき混ぜ、織りが荒いキレイな布で濾す。
本当は、茶こしとかなんだろうけど、無いからなあ。
適当な容器にプリン液を入れ、湯を沸かして、その中に入れて蒸す。
蒸してる間にカラメルをっと……。
出来上がったプリンを冷やすのは、水の精霊に依頼して。
冷えたプリンにカラメルをのせて出来上がり。
なんだかんだと十個ほどプリンができた。
「ほい、プリンの完成」
四人の前に一人一個づつ、スプーンと一緒にプリンを置く。
待て状態の四人、号令を待つばかりだ。
「食べていいぞ」
俺がそう言うと、四人は一口頬張った。
「……………」
沈黙の四人。
「おーい、どうした?」
「「「「んー! おいひい!」」」
口にスプーンを突っ込んだまま言うと、四人は夢中で食べ始めた。
これなら作った甲斐はあるな。
プリンを食べ終わると、
「アリヨシ様、これは是非商品にするべきです。いえ、しないといけません」
鼻息荒く俺に詰め寄るベアトリス。
「まだ材料がない。数は作れないぞ?」
「材料は、私が何とかします」
「俺は別に金儲けがしたい訳じゃないんだ。
皆のご褒美で作ったんだ。
まずは自分の近くにいる人が喜んでくれればいい」
「うっ、そんなこと言われたら……何も返せないじゃないですか」
ばつが悪いのかモジモジするベアトリス。
「そうじゃ、欲を出してはいかん。
まずは岩塩鉱山を軌道にのせるのじゃ。
そうすればアリヨシが新しいお菓子を作ってくれるじゃろう」
俺に乗っかったノワルの言葉にグレアもウルも頷く。
予言がかっているが、まあ、新しいお菓子を作る気は十分にあるけどね。
「そうですね、一歩一歩です」
ベアトリスは納得したようだ。
「お菓子を売るなら、もっと人が増えてからだな。急ぐ必要はないさ」
さて、残り六個。
プリンに視線が集まる。
「まだ要る人」
さっと手が上がる四人。
「じゃあ、一個づつな」
キャッキャ言いながら、再び四人が食べ始める。
「じゃあ、俺はドリスにプリン持っていくから」
「ドリス様が気になるのですか?」
グレアが聞いてくる。
「まあ、あいつは領主やってるからこっちで暮らせないだろ?
だから、差し入れしようと思ってね」
「優しいのう、アリヨシは……」
からかい半分でノワルが言った。
「お前だって、巣まで俺が出向いたら嬉しいだろ?」
「そっ、それはのう。
我のためだけに来てくれるのなら……嬉しいぞ」
そういうシーンを考えているのか、ノワルの目が宙を向く。
「確かにドリスさんだけをのけ者にするのは可愛そうです。
アリヨシ様がドリスさんの所に行くのを許してあげましょう」
仕方ないという感じで、ベアトリスが許可をくれた。
なぜに許可?
「二人っきり、羨ましいです」
と、気づいたようにいうウル。
「皆ともそういう時間を作るようにするから」
そう言うと、
「必ずですよ」
ウルに念を押される俺。
そして、同時に頷く残り三人。
「とりあえず行ってくるよ」
「「「「はい」」」」
プリンを食べる四人に見送られドリスの所へ向かった。
一応プリンに紙で蓋をして、緩衝材になりそうな藁を入れた箱に入れる。
埃とか入っちゃ嫌だからな。
縮小化したまま走るのは初めてだが、走ってみると何てことはなく速い。
揺らさないように気をつけて走る。
速いからといって「キーン」とかやって自分で恥ずかしくななった。
これでコケたら台無しだ……なんて思ったら、本気でコケそうになる。
揺れたけど大丈夫かな?
まあ、そんなこともあったが、何とかドリスの村に着くとドリスの館へ向かった。
おっと、俺、ドリスの館へ入ったこと無いや。
仕方ないパスで呼ぶか。
「おーい、ドリス。今から館の外に来られる?」
「えっ、なんで館に?」
「お菓子を持ってきた」
「今すぐ行きます」
そう言ってしばらく門の外で待っていると、
「ダダダダダ……ザザー」
という音が聞こえた後、
「いったーい!」
とドリスの声が聞こえる。
コケたな。
「お待たせしました」
埃を払いながらドリスが出てきた。
「今日は鎧じゃないんだな」
「いつも鎧では疲れます」
「そりゃそうか、それにしても埃まみれだな。
おでこと鼻も擦りむいてるし」
「アリヨシ様が来たので慌てて外に出たら、躓いてしまいました」
俺は風の精霊に依頼し、埃を飛ばしてもらう。そして鼻をヒールで治す。
「可愛い顔が台無しだぞ」
俺がそう言うと、
「可愛い……」
と呟き、俯いて真っ赤になるドリス。
固まったドリスに、
「さあ、お菓子を食べよう。
テーブルのある場所へ連れていってくれないか?」
と言ってモジモジしながら歩くドリスの後ろをついていった。
「ここ?」
ドリスに連れてきてもらった場所には大きなテーブルがありそこにはポツンと椅子がひとつ。
「ドリスは一人で食事するのか?」
「まあ、下男と一緒に食事することはありませんね」
「寂しくないか?」
「最近はアリヨシ様とパスで話ができますから」
やっぱり寂しいんだろうなぁ。
「じゃあ、お菓子出すぞ」
俺は箱の中からプリンを二つ出す。
「ドリス、スプーンを二つ出してくれ」
ドリスは調理場と思われる場所にいくとスプーンを持って戻ってきた。
箱の中は水の精霊に頼んで冷やしてあったから冷たい。
しかし揺れて崩れてなきゃいいが……。
中から出てきたプリンの蓋を開けると、緩衝材のお陰か表面が少し荒れていたが、崩れていないようだった。
「ほい、新しいお菓子な。
プリンと言う」
ドリスの前にプリンを置き、
「食べてみてくれ」
そういうと、ドリスのスプーンがスッとプリンの中に入った。
カラメルと一緒に一口掬い上げ、口の中に入れる。
「…………」
このリアクションは、四人と一緒。
「美味いか?」
「ふぁい!」
スプーンを口にくわえ返事をするドリス。
「じゃあ、俺も一緒に食べよう」
やっとプリンを食べることができた。プリン液やカラメル液は味見で舐めはしたが、出来上がりはまだだったからな。
こんな味だったかな? ちょっと自信がないや。
久々に食べた向こうの味に涙が出てしまった。
一年も経っていないのにな。
涙を流した俺が気になったのだろう、
「アリヨシ様、涙を流しています。
悲しい事があったのですか?」
ドリスが心配そうに俺を見る。
「いいや、このプリンが懐かしかっただけだ。
俺が生まれ変わる前の世界のお菓子だからな」
「この世界に来て辛い訳ではないのですね」
「そうだな、ドリスやグレア、ノワル、ウルにベアトリスと一緒になかなか楽しい生活はしていると思うぞ?
悪いな、心配させたか」
俺の答を聞き嬉しかったのか、
「良かった!
この世界が嫌な訳じゃないのですね」
パッと明るい顔になるドリス。
そして再びプリンを食べ始める。
プリンを食べ終わると、
「アリヨシ様はこのお菓子を流通させる気はないのですか?」
とドリスも聞いてきた。
「ベアトリスと同じことを言うんだな」
一応小さな村とはいえ領主様だからかな?
利益を考えてしまうのかもしれない。
「まあ、流通させようにもこのお菓子は長持ちはしない。
今んとこはみんなのご褒美でいいだろ?」
「そうですね、わたしたちだけのご褒美……それでいいです」
そう言ってドリスは頷くのだった。
小説を読んでいただきありがとうございました




