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ノワルの引っ越しを手伝いました。

誤字脱字の指摘、助かっております。

 暫くすると、俺の(ホール)の横にベアトリスの家が建ち始めた。

 岩塩鉱脈の調査の時に泊まるためのものだそうだ。

 担当の大工たちは周りに居るフェンリルとドラゴンに恐れながら家を作っていた。

 というか、家なんか作って、いつまで調査するつもりなのやら。

 ベアトリス曰く、とりあえず家ができたら岩塩鉱脈の調査に入るという事だ。

「家があれば寝る所やトイレを気にしなくても済みます。

 風呂は目の前にありますが、一応つけておきます。

 台所もちゃんとありますよ?

 アリヨシ様はいろいろな料理を知ってそうですから……」

 という事らしい。


 金を出したのはオヤジさんか。

 豪気なことだ。

 いや、ただベアトリスに甘いのだろう。

 まあ、ドリスが泊るところができるのはいいな。

 ウルも泊らせてもらうようにするかな? 


 大工たちが作業しているのを見ていると、ドラゴンの姿のノワルが俺の前に来た。

「アリヨシよ、我は一度戻ろうと思う。

 我はここに住む。

 いいのじゃろ?」

 不安そうに俺に聞いてくる。

「今更だろ?」

 と俺は一言。

「じゃから巣を片付けてこようと思うのじゃが。待っていてくれるか?」

 何か心配なのかな?

 ノワルの様子が明らかに変だ。

「何か心配でもあるのか?」

「いや……無いが……」

 雰囲気からして何かあるだろ?

「んー、一緒に行こうか?

 ノワルなら速いだろ?

 まあ正直どんなところに住んでいたのかが気になるし」

「えっ、(われ)と一緒に来てくれるのか?」

 嬉しそうなノワル。

 でも何か悩んでいる?

「ああ、今のところ鳥の世話ぐらいしかないからな。

 たまには二人で移動してもいいだろう?」

「わかった、一緒に行くのじゃ」

 丁度近くに居たグレアに声をかけた。

「グレア、ノワルが前の巣を引き払うらしいんだ。

 ちょっと引っ越しを手伝ってくる。

 あまり時間はかからないと思うけど留守番頼むよ」

「ノワル様と二人っきりですか?」

「そうなるな」

「そうですか……私はウルと二人っきり……」

 ちょっと不服なのかな? 確かに周りに人が増えてグレアの相手をすることが少なくなってる。

「帰ってきたらグレアも一緒に散歩しようか。

 二人っきりでな」

 グレアの耳がピンと立つ。

「聞きましたよ。

 だったら我慢します。

 ホントに散歩お願いしますね」

 念を押すグレア。

「ああ、わかった」

 そう言うと、スキップしながらグレアは離れていった。

「帰ってきたら二人でお散歩………きゃっ」

 妄想しすぎたのか、軽くぶつかる。


 大丈夫かお前……。



 俺は縮小化してノワルの背に乗る。

「じゃあ、行くのじゃ」

 そう言うと、羽をはばたかせ、ノワルは空へ飛んだ。

 後ろをチラチラ見て気にしている。

 あー、ベアトリスでやらかしているから、気にしているのかな? 

「思いっきり飛ばしてくれ。

 最高速でな」

「了解なのじゃ!」

 ノワルはニヤリと笑うと翼を小さく畳み速度を上げる。

 数瞬の後、「ドン」という音がした。

 音速を越えたか……

 ノワルの後方には飛行機雲が流れる。

 エンジンのような動力が無いので機械音はしない。

 下を見ると風景がものすごい速さで流れていた。

 本来なら鱗の表面が空気の摩擦熱を持ちそうだが、そこは魔法の力が働いているんだろう。

 背に乗る俺は何の影響もなく、受ける風もそう強くはなかった。


「アリヨシよ、あの山が(われ)の巣じゃ」


 ちょっと緊張する。女性の家に初めて遊びに行く感じか……。

 みるみる山が近づき、山頂近くにある穴が見えてきた。

 んー減速遅いよね。


 漫画の山岳基地に降りるように、ノワルは穴に突っ込むと足を滑らせて止まった。

 洞窟の終点ギリギリである。

「よく、ぶつからなかったな」

「大丈夫なのじゃ」

 そういや、最初に俺んちに来た時も派手に突っ込んで来たな。

「結界を解くのじゃ」

 すると、終点と思われた壁が無くなり、俺の家のホールぐらいの高さと広さの空間が広がった」

「やるじゃろう?

 空間を誤魔化す魔法じゃ」

「やるねぇ、それじゃお邪魔しますよ」

 俺が誉めると、口角が上がった。

 俺は、ノワルの背を降りる。

「間におうたの」

「間に合った?」

「そうじゃ、」

 何のことだか訳が分からない。


 暫くは何もなかった。しかし、

「うっ、ん……、あぁ……」

 急にノワルが苦痛の声をあげると体が輝きだす。

「おい、大丈夫か?」

「あっ、うん、大丈夫じゃ」

 大丈夫なようには見えないんだが……。

 苦痛で立っていられないのだろうか?

 うつ伏せになり、フウフウと大きく息をしている。

 何が起こっているのかわからず、オロオロする俺。


 陣痛が始まり出産を待つ夫? 


 俺は結局何もできず「大丈夫か?」と何度も声をかけるだけだった。


 どのくらい経っただろう。

「ピシッ」という音がするとノワルの背に割れ目ができる。

 徐々にその割れ目が長くなり割れ目から体液のような物が流れ出てきた。

「おぉ……」

 何だか分からないけど、驚いて声が出た。

 背中の割れ目が広がると、コウモリのような羽が四枚現れ、一気に黒い鱗のドラゴンの巨体が出てくる。

「やっと抜けたのじゃ!」

 そう言って喜ぶノワルの声が聞こえた。

 それと共に光が収まる。


 ん? なんか違う。


 体が一回りと言わんばかりに大きくなり、なんか角とかも増えている。目が鋭くなり、見える牙も長くなっていた。

 羽が四枚になっている。

 んー強そう。


「おっおう、お疲れさん。

 とにかくデカくなったな」

(われ)も驚いておる。

 脱皮するにしろ進化するにしろあと五百年は先だろうと思っておったからの。

 アリヨシと入っておった温泉が良かったのじゃろう。

 結局進化してしもうた。」

 そう言いながらノワルは人化した。

「ありがとうなのじゃ、アリヨシが居てくれたから心強かったのじゃ。

 脱皮は失敗すると死んでしまうからのう。

 まず無いといっても不安なのじゃ」

「だから、不安そうにしていたのか?」

 俺が聞くと、

「えっ気付いていた?」

 意外そうに俺を見るノワル。

「結構長い間一緒に住んでいるしな。

 そりゃ気付くぞ。

 言わないから、ちょっと心配になった」

 俺の言葉を聞いて人化すると、

「うー、嬉しいのじゃ」

 顔が赤くなり目を伏せる。

 そしておもむろに抱きついてきた。

 幼さが消え、一人の女性になっていた。

 無かった胸が大層主張をしている。

 その体で抱きつかれるのだ。ちょっと困る。

 俺が胸をチラ見していると

「おぉ、コレでグレアには負けぬな」

 ニヤリと笑う。

 何の勝負なんだ? 


「お前、この皮どうするの?」

 脱皮した真っ黒な皮が転がる。

「あれに仕舞うのじゃ」

 ビッと奥にある宝箱状のものを指差す。

 縦横高さが、一メートルぐらいの大きさ。

 ノワルはドラゴンの皮を引きずると、宝箱の方へ持って行く。

「お前人化したままでこんなに大きいものを引き摺れるんだな」

「意外と軽いのじゃぞ?」

 渡された皮は持っていないかのように軽かった。

 宝箱の中に入れると大きさ的に無理なはずなのに、すんなり中へ入っる。

「宝箱なんじゃが、結構便利での、押し込めば何でも入る」

 確かに、ノワルの巣にはほとんど何も無いな。

 宝箱一つと、転がる宝石が数個。

「引っ越しなんてすぐ終わりそうだな」

「引っ越しは口実、本音は皆の居ないところで脱皮をしようと思ったわけじゃ。

 アリヨシがついてくると言ったが、正直迷ったのじゃ?

 迷ったのじゃが、来てもらって良かった。

 安心できたのじゃ」

 ノワルの嬉しそうな声が洞窟に響く。

「なら、もう終わり?」

 俺が聞くと、

「ああ、終わったぞ?

 あとはその箱をアリヨシの家に運べば終わりじゃ。

 でもな、もうしばらくこうして居たいのう」

「グレアが羨ましがっていたな。二人っきりだって」

「今はグレアの事はいいのじゃ。(われ)を見て欲しい」

 ノワルは上目遣いで俺の顔を見る。

 俺は、俺を抱きしめるノワルの頭を撫でた。

「もう少し、このままなのじゃ」

 ノワルは満足そうだった。


 どのくらい抱き合っていたのか……急に

「そろそろ行くぞ、皆待っておるかもしれん。

 グレアとウルに焼きもちを焼かれてもいかんしな」

「ああ、そうだな」

 ノワルが俺の唇にキスをしてきた。ぎこちないただ触れるだけのキス。

「人は、好きな者にこうするんじゃったな」

 そう言うとノワルはドラゴンの姿に戻る。

 俺は唇に触れてぼーっとしていた。


 要は、慣れていないだけなんだが……。


「アリヨシよ、帰るぞ!」

 ノワルが急かす。

 ノワルは俺が背に乗ったのを確認すると、宝箱をもって

「帰りはもっと飛ばすのじゃ」

 楽しげな声、照れ隠しかな?

 音速を越える速さで日が暮れかけた空を飛んだ。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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